『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』が全国で上映中だ。2004年からテレビ放送が続くアニメ『プリキュア』シリーズ(毎週日曜、ABCテレビ・テレビ朝日系列)。2021年2月から放送中の最新作『トロピカル~ジュ!プリキュア』は、ギャグ満載のひときわ明るい作風で、コロナ禍の子どもたちを元気づけている。今回の映画では、過去作『ハートキャッチプリキュア!』(2010~2011年放送)とのコラボレーションが実現。プリキュアたちの新鮮な表情が垣間見える物語が話題を呼んでいる。プロデューサーの伊藤志穂さん(東映アニメーション)に、コラボの狙いや、作品に託したメッセージについて聞いた。
「自分の心のままに生きていい」
――『プリキュア』シリーズはそのタイトル通り、女の子がプリキュアという戦士に変身して戦う物語です。設定や登場人物が代替わりする仕組みを取り、20年近く続いてきました。放送中の『トロピカル~ジュ!プリキュア』(トロプリ)の魅力は。
ギャグシーンやコミカルな表情がふんだんに盛り込まれ、歴代の作品と比べても際立って明るいところですね。今の時代だからこそ、彼女たちの活躍が心強いです。5人いるメンバーの個性がそれぞれに違っていて、多様性豊か。でも、みんなで揃うと不思議にバランスが取れて、まとまりが生まれる感じも微笑ましいです。
メンバーの一人、ローラ(変身後はキュアラメール)が人魚の少女であることも特徴の一つ。海にある故郷の国を、脅かしてくる勢力から守るため、「伝説の戦士・プリキュア」を探して人間の世界へやってきました。元は違う世界に住んでいた彼女と他のメンバーが交流を深めていく過程が見どころです。加えて、個人的に面白いと思うのは、ローラがいわゆる「いい子」ではないところ。意見や感情をストレートに表現して、自分の視点でグイグイ物事を進めていこうとする。もし身近にローラのような子がいたら、人によっては「わがままな子だな」と感じるかもしれません。
――確かに、聞き分けがよくて控えめで、自分より他人のことを考えて動く「いい子」とは少し違いますね。
幼い頃を振り返ってみると、本当にさまざまな子がいました。ローラを見て「友達にこういう感じの子いる!」と思う人もいれば、「私ってこの子っぽいかも?」と思う人もいるでしょう。
特に後者の観客は、ローラの存在に救われる部分もあるのではないでしょうか。自分の心のままに生きていい。完璧な「いい子」じゃなくてもプリキュアになれる。彼女は、それを体現してくれている気がするから。映画では、彼女が時に迷ったり周囲とぶつかったりしながら、仲間と一緒に成長していく姿に光を当てています。
ハトプリとコラボ。共通点は「好きなもので気合いを入れる」
――『ハートキャッチプリキュア!』(ハトプリ)の魅力については、どうですか。
テレビシリーズのシナリオがとにかく大好きです。「心に向き合う」という難しい題材に挑んだ作品。プリキュア一人ひとりはもちろんのこと、彼女たちを取り巻くクラスメイトたちの背景も丁寧に描き出し、普段は隠されている心の暗い部分が表出するエピソードもありました。重苦しい雰囲気になってもおかしくないのですが、プリキュア同士の楽しい掛け合いなどが絶妙なバランスで織り交ぜられていて、子どもたちにも親しんでもらえる仕上がりになっています。
自分の心に、一人ぼっちで向き合うってとても難しいことですよね。仲間と出会って、そのつながりの中で日々を過ごすうち、心の中の痛みやこわばりが少しずつ和らいでいく。そんな物語の流れが美しい作品だという印象でした。
――今回、『トロプリ』の映画に『ハトプリ』がゲスト出演することになった理由は?
2020年の前作映画に引き続き、過去のプリキュア1世代をゲスト出演させること自体は、あらかじめ決まっていました。「どのプリキュアたちにするか」は、純粋に『トロプリ』との相性のよさで決めました。
具体的には、まず『トロプリ』のみんなのにぎやかなテンションに、負けず劣らずの勢いで付いてこられる子たちであること(笑)。加えて、『トロプリ』では仲間に応援の気持ちを伝えたり、自分の気持ちを奮い立たせたりするための象徴的なアイテムとして「メイク」を取り入れています。『ハトプリ』のみんなはファッションを楽しむ部活を結成して活動していた経緯があったので、「自分の好きなもので気合いを入れて、困難にも立ち向かうぞ!」という雰囲気が共通していると感じました。
テレビ放送を観ていた子どもたちが、自分で友だちを誘って映画を観に行ける年齢になっている時期の作品がいいなという思いもありました。
※以下の部分は、物語の内容や結末に関わる重要な部分に触れています。
シャロンとの関係は「バトルより対話」を重視
――この2作がタッグを組んだからこそ、描けたものはありますか。
この映画で鍵になるゲストキャラクターが、雪の王国のプリンセス、シャロンです。新しく女王になるお祝いの式に、主人公の夏海まなつ(変身後はキュアサマー)たちを招待。人魚の国の女王を目指すローラとは、どんな国をつくりたいかについて語り合って意気投合し、特別な友情を育みます。
しかし、物語が進むにつれ、雪の王国は大昔に既に滅びていたことが分かります。不思議な石の力で、ただ一人世界に取り残されてしまったシャロンはその事実を受け入れられず、式に招いた人たちを無理やり閉じ込めて「国民」にしようとしていたのです。
「いま一番大事なことをやろう!」が合言葉の『トロプリ』とは対照的に、シャロンは過去の傷にとらわれ、心が凍りついてしまっています。今作ではそんなシャロンの心を「溶かしにいくこと」が、プリキュアたちにとって「一番大事なこと」になりました。プリキュアシリーズは「女の子だって暴れたい!」というコンセプトから始まっているので、迫力ある戦闘シーンもたっぷり盛り込んでいますが、シャロンとの関係においては「バトルより対話」を意識しました。
凍ってしまった心と、しっかり向き合う。思いをまっすぐに伝えて、温かく照らすようにして溶かす――そんな作風になったのは、『トロプリ』と『ハトプリ』がタッグを組んだからこそだと感じています。
プリキュア映画は今回が30作目になります。異なる個性の歴代作品が合わさることで、テレビ放送で親しんでいるプリキュアたちの、日頃とは少し異なる表情や「戦い方」を引き出すことができるのは、作り手としても刺激的ですね。
――「好きだな、尊敬できるな」という気持ちを向けていた友であるシャロンが、一方で間違ったことをしている。「戦いたくない」と迷うキュアラメール(ローラ)の描写には説得力がありました。だから「こんなやり方じゃ、誰も笑顔になんてなれない」という言葉を、シャロンに対してはっきりと伝えにいく場面は、バトルシーン以上に「力強さ」を感じました。
最もこだわったシーンの一つです。ポジティブなことでもネガティブなことでも、たとえ自分と相手の意見が違っていたとしても。相手のことを大切だと思うならなおさら、「言いたいこと」は顔を見て、まっすぐに伝えよう。子どもたちにそんなメッセージを受け取ってもらえたらうれしいです。
「『心の柱』がいるから、前に進める」
――勇気を振り絞ってシャロンと向き合うキュアラメールはかっこいいですが、彼女がそういう「ヒーロー」であれたのは、キュアサマー(まなつ)を初めとした他の仲間たちの支えがあるからだという点も、プリキュアらしいと感じました。
ローラにとって、まなつの存在は特に大きいですね。戦闘中に思わずシャロンをかばってしまったキュアラメール(ローラ)が「ごめん」と謝ると、キュアサマー(まなつ)は「でも、ラメールは戦いたくなかったんでしょ?」とにっこり笑って肯定します。まなつは太陽みたいにいつも傍にいて、ローラを照らしてくれる存在。迷ったときに見上げると、絶対にその場所で輝いていてくれる存在。これは私なりの解釈ですが、まなつはローラにとって「心の柱」なんです。
いよいよシャロンと対峙する場面でも、ローラの心に一瞬、迷いが生じます。そのときに、後ろからギュッと力強く手を握ってくれるのがまなつです。このシーン、台本には「私はここにいるよ」という意味の台詞があったのですが、志水淳児監督が「ここはあえて言葉にせず、手をつなぐ行為だけを通して伝えよう」と提案してくれて。これが大成功で、とても熱いシーンに仕上がりました。
人は誰しも、一人ではそんなに強くいられないと思うんです。私は学生時代、親友から「あなたにこの先どんなことがあっても、絶対に味方でいるからね」と声をかけてもらったことがあります。
その言葉は何年たっても私の中に生きていて、つらいことがあるたびに救われています。誰かが「心の柱」になってくれるから、前に進んでいけるんですよね。コロナ禍で人と人との距離が遠くなっている今だからこそ、この作品が多くの人の心に届いてくれることを祈っています。
(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:若田悠希@yukiwkt)
作品情報
『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』
上映中
配給:東映
©2021 映画トロピカル~ジュ!プリキュア製作委員会