国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」が10月29日、東京・渋谷のスクランブル交差点で、あるメッセージの発信を始めた。
「危険生物から感謝の手紙」と題した屋外広告で、猛毒を持つ外来種「ヒアリ」からのメッセージがつづられている。
日本語訳で「日本の皆さん、はじめまして。南米出身のヒアリと申します」という書き出しから始まる手紙の内容は、こうだ。
日本の皆さん、はじめまして。南米出身のヒアリと申します。
普段は公園や芝生で、人やペットのことを毒針で刺したりして過ごしています。 人がピクニックや BBQしてるところも 大好きです。
コンテナに乗ってはるばるやってきたのですが、この国はとても過ごしやすそうで、これからここで根を張っていこうと思っています。
それもこれも、皆さまのおかげです。ありがとうございます。これからも環境に配慮せずに、僕らが住みやすい環境を守っていってください。
ヒアリ
ヒアリは2017年以降、全国各地の港湾で見つかり、日本国内に定着するおそれも懸念されている。ヒアリをはじめとした外来の危険生物が広まる要因の一つに、グローバル化に伴って人や物の移動が活発になり、温暖化で生息可能な地域が拡大したとの指摘もある。
屋外広告は、11月4日まで掲出するという。
10月31日からは、地球温暖化対策を政府間で議論する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)がイギリス・グラスゴーで始まる。
このタイミングで、強烈な「皮肉」を込めたメッセージを発信したのはなぜなのか。COP26ではどのような議論を望むのか。今回のプロジェクトでリーダーを務めた、グリーンピースの林恵美さんにたずねた。
COP26で「1.5℃目標を実現する具体的な排出削減目標を」
ーー今回の広告を通じて、どのようなメッセージを届けたいと思ったのでしょうか?
このプロジェクトは、いまのまま気候変動が進めばシロクマのような美しい、かわいい生きものがいなくなるだけではなく、「危険で怖い生きものが身近に増える」という事実をユニークな方法で伝えることで、気候変動への危機感をさらに多くの方と共有できるのではないか?というところからスタートしました。
私たちの生活圏内に危険生物が増えることは、いまの大量消費型社会のひずみの一つですが、それぞれの国や地域が自立できる循環型社会に変わらなければ、私たちは安全に生きていくことはできないという現実を象徴しています。
危険生物からの“感謝の手紙”を受け取ったみなさんには、輸入品より国産を選ぶ、おうちの電気を地域密着型の自然エネルギーにするなど、“危険生物に感謝されない”地産地消の社会を作るために、一緒に行動を始めていただけたら嬉しいです。
ーー10月31日から始まるCOP26では、どのような議論を期待しますか?
パリ協定では、締約国は5年ごとに温室効果ガス削減の進捗状況を確認し、目標を更新することが求められているので、今回のCOP26は、いわばパリ協定後初めての「中間テスト」です。
今年8月に発表された国連のIPCCの最新の報告書では、世界平均の気温は産業革命前に比べすでに1.09℃上昇し、気温上昇を1.5℃にとどめるという目標まであと0.41℃に迫っていることが明らかになりました。
しかし、今のところ各国が提示している削減目標をすべて合わせても、1.5℃に抑えることはできないと試算されています。
気温上昇を1.5℃に抑えるには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を半減させる(2013年比)ことが必要です。
COP26では、各国政府、特に日本を含め温室効果ガスを大量に排出してきた経済的に裕福な国が、化石燃料を終わりにすると約束し、1.5℃目標を実現する具体的な排出削減目標を提示することを期待します。