VTuberの交通安全動画に『女児を性的対象にしている』と抗議、フェミニスト議連が記者会見。波紋広がる【UPDATE】

千葉県松戸市のご当地VTuber「戸定梨香」が登場する交通安全PR動画が削除された問題。千葉県警などに抗議をした全国フェミニスト議連が会見を開きました。
議論の対象となっている、交通安全PR動画
議論の対象となっている、交通安全PR動画
VTuberプロダクション「VASE」のYouTubeチャンネルより

VTuberが登場する交通安全啓発動画に「女児を性的な対象として描いている」と抗議が寄せられ、千葉県警が動画を削除した問題について、波紋が広がっている。

抗議文を提出した全国フェミニスト議員連盟は10月8日、記者会見を開き、抗議の理由について説明した。

何が問題になっているのか

千葉県松戸警察署は、2021年7月から松戸市のご当地VTuber「戸定梨香(とじょうりんか)」による交通安全啓発活動を開始。

その一環として、「戸定梨香」が自転車の交通ルールを説明する動画が、千葉県警のYouTubeやTwitterで公開された。

《バーチャルプロダクション「VASE(ヴェイス)」のYouTubeチャンネルには、動画が現在も掲載されている。》

その動画に、「女児を性的対象としている」として、抗議が上がった。抗議したのは、女性議員を増やすための活動などを行う団体「全国フェミニスト議員連盟」だ。

議連は、千葉県警本部、松戸警察署、松戸東警察署、千葉県、松戸市、松戸市教育委員会宛に謝罪と動画の使用中止、削除を求める公開質問状を提出

キャラクターについて、「セーラー服のような上衣で、丈はきわめて短く、腹やへそを露出しています。体を動かす度に大きな胸が揺れます。極端なミニスカートで、性的対象物として描写し、かつ強調しています」と指摘し、「公共機関である警察署が、女児を性的対象とするようなアニメキャラクターを採用することは絶対にあってはならない」と訴えた。

同議連によると、9月9日に松戸市教育委員会と千葉県警から、9月16日に松戸市から回答が届いたという。千葉県警は啓発動画について、小中高生を対象にした安全教育の一環であると説明。コロナ禍で対面教育ができない中で実施したものだとし、「今後の広報活動の参考とさせていただきます」などと回答した。 

そして、9月10日に千葉県警はPR動画を削除した。

千葉県警は動画を削除した理由について、ハフポスト日本版の取材に対し、「使用しているキャラクターが適切ではないのではという意見があり、交通安全を啓発するという本来の目的と異なる意図で伝わることが懸念された」ためと説明している。掲載終了期間が近づいていたことも一因になったという。

動画が削除されたことを受け、ネット上で波紋が広がった。

全国フェミニスト議連に対する反発も起きており、オンライン署名サイト「Change.org」では、議連に対する抗議署名が立ち上がった。11日時点で6万5千件以上の署名が集まっている。署名ページには、「戸定梨香」が所属するArt Stone Entertainmentの代表・板倉節子さんのコメントも掲載されている。板倉さんは「彼女の見た目を女性蔑視だとは思いません」とした上で、「人により感覚が違うのは当たり前の事ですので、価値観の違いを押し付けるのではなく、どうしたらお互いが良い方向に行くのかを考え、歩み寄る姿勢を取ることが何より女性が活動しやすく、大切な事ではないでしょうか」などと訴えた。

フェミニスト議連が会見

記者会見するフェミニスト議員連盟のメンバー
記者会見するフェミニスト議員連盟のメンバー
HuffPost Japan

全国フェミニスト議連は10月8日、参議院議員会館で記者会見を開き、抗議や質問状の提出に至った理由などを説明した。

議連が会見で強調したのは、警察という公的機関が発信する広報として、今回のキャラクターの起用や見せ方は問題ではないか、ということだ。

内閣府は2003年に、「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」を作成。手引は公的広報の表現において注意すべき点をまとめたもので、その中には、「女性をむやみに“アイキャッチャー”にしていませんか?」という項目が含まれている。

議連はこの手引をもとに、「動画は警察の広報動画として適切ではない」と考え、質問状を送付したという。

「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」より
「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」より
HuffPost Japan

議連の共同代表で松戸市議の増田薫さんは、「警察は性加害や虐待を取り締まっている。今回の動画についても慎重になって当然」などと指摘。以下のように訴えた。

「今回問題にした動画を見ても、なんとも感じない人は多いと思います。日本ではついこの間までコンビニなどで成人向けの雑誌が子供目線の高さで当たり前に陳列されていましたし、10代のアイドルの女の子たちが露出の多い服を着て歌っている光景も、日常的に目にしています。私たちはあまりにも普通にそれらを目にしてきたので、慣れてしまっているのではないかと思います。

一方で、この動画を見て、モヤモヤした違和感や嫌悪感を持つ人もいます。女性はこんな風に性的に見られている、と強い嫌悪感を持つのです。性被害やセクハラ被害の経験を持つ人にとっては尚更でしょう。アニメ系の女性を見ると、体つきは大人の女性のようなのに、話し方が妙に子供じみている。そういうものがとても多いと感じます。本当にこの国の若い女性は、皆さんの目にそんな風に映っていますか」 

「一番大きなポイントは、この交通安全動画が子どもを対象にしているということ。どの年齢だからいいと言うわけではないですけれども、特に影響を受けやすく判断力が十分発達しているとは言えない段階にある男の子たち、女の子たちがこの動画を見たときにどう映るのかを、私たち大人はもっと注意を払うべきではないでしょうか。特に小中学生に対して無闇に肌を露出し、胸の揺れが強調された女子中高生風のキャラクター動画を、公共機関である警察署が率先して見せるのが当たり前の社会を、私たちは求めているのですか、と問いかけたいと思います」

またフェミニスト議連は、「国の公的なガイドラインが全国に浸透していないのではないか」とも指摘した。公的機関の広報における女性の表象について、警察だけではなく公的機関全体が「広く考えるべき内容」だと考え、質問状を送付したという。

前述した「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」は、概要のみが男女共同参画局の公式サイトに掲載されており、全文は閲覧できない。手引には、「性別に基づく固定観念にとらわれない、男女の多様なイメージが社会に浸透していくような表現にすることが求められています」と記されている。

同局の担当者によると、手引は2003年当時に印刷し、国の行政機関に配布した。ハフポスト日本版の取材に対し、「書面で送付したことで、周知すべき範囲で周知を行ったと認識している」と回答した。 

「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」
「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」
HuffPost Japan

千葉県警の受け止めは 「不適切とは考えていない」

一連の問題について、千葉県警はどう受け止めているのか。

「性的な対象として描いている」という指摘については、「そのような認識はない」と話す。同県警の担当者によると、松戸警察の交通課に在籍する男女の職員が過去の「戸定梨香」の動画を確認し、県警でも検討した上で、問題がないと判断したという。

「不適切とは考えていない」と重ねて述べた上で、「使用しているキャラクターが適切ではないというご意見をいただいた。県警の内部で検討したところ、交通安全を啓発するという県警が期待する本来の目的と異なる部分がクローズアップされ、異なる意図が伝わることが懸念された」と、削除理由を説明した。

また、内閣府が策定した手引については、「ガイドラインがあるということは認識していた」と説明する。千葉県警独自のガイドラインは存在せず、これまで個別具体例に応じて検討、確認をしてきたという。

「基本的人権の尊重など、様々な観点から問題がないか県警本部でチェックしている」といい、今後も独自のガイドラインは作らず、その方針を続けるとしている。

VTuberのプロデュース会社との協定は今後も続ける予定で、「協定に基づいて効果的な交通安全啓発となるように検討していきたい」と述べた。

所属事務所の社長「『どうすればいいのか』と困惑した状況が続いている」 

「戸定梨香」が所属するArt Stone Entertainmentの代表・板倉節子さんは10月12日、ハフポスト日本版の取材に回答。一連の出来事について、「まず抗議をするにしても、私たちに直接伝えてほしかった」と語った。

板倉さんによると、動画や「戸定梨香」のプロデュースには女性のスタッフが関わり、「自分がなりたい姿」を想像して衣装などをデザインしたという。

「性的対象としているのではないか」という指摘については「性的に描いたつもりは一切なく、性的な部分を強調しているとも思わなかった」との見解を示した上で、以下のように話した。

「それぞれ価値観があると思いますし、抗議すること自体は問題ないと思います。一方で、彼女の何が、どこまでがダメで、どうすれば問題ないのかということが明確になっていません。じゃあどうするのかという最終的な着地点がなく、はっきりした基準がないので、『主観的』と言われても仕方がないのではないかと感じます」

板倉さんは、フェミニスト議員連盟側との話し合いや意見交換も望んでいるという。「フェミニスト議連の方も、交通安全PRや公的機関の広報をもっといいものにしたいという思いは同じ気持ちだと思います」とも話した。

「削除で終わりとなってしまっていて、私たちは『じゃあどうすればいいのか』と困惑した状況が続いています。そういったことを考えた上で発信していただきたかったと思いますし、千葉県でガイドラインがないのであれば、じゃあどう作っていくかといった話に持っていってほしい。その中でクリエイターの意見を聞きたいのであれば私たちも参加しますし、より良いガイドラインを作るようにお互いが協力してやっていきたい。そうしないといつまでも対立が続いてしまうと思います。フェミニスト議連の方も対立ではないと仰っていて、私たちも全く同じ気持ちなので、そこは歩み寄ってくだされば解決の方向にいくのではないかとは思います」

 【UPDATE 2021/10/14 14:00】板倉節子さんのコメントを追記しました。

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