政策起業家のプラットフォームPEPは10月5日、様々な立場の人が力を結集して社会課題に取り組むためのエコシステムについて議論するサミット「PEPサミット2021〜扉をひらこう」を開催した。
「経済人のつくるエコシステム」をテーマにしたセッションでは、社会課題の解決のために私財を投じたり、企業活動を通じて問題解決を目指したりするビジネスパーソンが登壇。エコシステムの新しい形をめぐって意見を交わした。
<セッションの登壇者>
モデレーター 藤沢烈 RCF代表理事/ふくしま12市町村移住支援センター長
登壇者 小林りん 学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事
佐俣アンリ ANRI 代表パートナー
山田進太郎 株式会社メルカリ 代表取締役CEO(社長)
給付型奨学金の財団、設立した理由
メルカリCEOの山田進太郎さんは、私財を投じて財団を設立し、STEM(自然科学・理工・医学系)進学予定の女子学生に対する給付型奨学金のプロジェクトをスタートしたことで注目を集めた。
藤沢さん:なぜ経営者でありながら、そういった取り組みを始めたのでしょうか?
山田さん:メルカリは外国人が非常に多く、日本にいるエンジニアの半分は外国人です。一方で、女性のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)はなかなか進んでいませんでした。特に女性のエンジニアは日本に少なく、この割合を上げていくことは非常に難しいと感じていました。
山田さんは、日本の大学における理工学系の女性比率が、OECDの中で最低レベルであるという現状を指摘し、こう続けた。
山田さん:大学に入るより前の高校生くらいから変えていかないと、メルカリにおいてのD&Iも進まない。大学生ならその後メルカリに入ってくれる可能性もあるので、営利活動の一環としてやることもできるんですけど、(企業として)それ以上のことをやるとなるとなかなか難しい。何かできないかなと思っている中で、財団という形で、奨学金を出したら面白いんじゃないかというところから始まりました。
藤沢さん:経営者の中でも、奨学金に対して寄付をする方はいると思うんですけど、自分でゼロから作るというのはかなりの覚悟が必要だったのではないでしょうか。
山田さん:僕は資産を所有はしているけれど、それをどうやって使うかがすごく重要だと思っていて。寄付もしていたんですけど、自分自身がやることによってもっとできることがあるんじゃないかと考えました。
財団のいったんの目標は、大学入学者におけるSTEMの女性比率を18%から28%まで上げることです。自分が実業界で培ってきたものを、金銭的インセンティブが成り立たないところで生かしたらどうなるんだろうという、ある種の実験みたいな面もあります。
支援者も運営に関わる
小林りんさんは、社会を変革する若者を育成する学校ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンを創設した。
藤沢さん:りんさんは、多くの経済人を巻き込みながら学校の運営をしていますね。
小林さん:軽井沢にある全寮制の高等学校で、200人の生徒が80カ国以上から来ていて、70%の生徒が給付型の奨学金を得ています。寄付だけではなく、支援者のほとんどに学校の理事や評議員になっていただいています。 (※正しくは、「学校の理事や評議員の多くは、支援者で構成されています。」)
経済人の方々の関わりの深さには私も驚いています。理事会の中に8つの委員会があり、ガバナンスやリスクマネジメントなどがあります。寄付を超えて、「学校を一緒に運営している」という感覚を皆さんに持っていただけていると思います。
スキーム選択の「案内人」
ベンチャーキャピタル(新興企業を対象にした投資会社)のANRIの代表パートナーである佐俣アンリさんは、毎年1000万円を個人で定期的にNPOに寄付することを公言している。
藤沢さん:なぜそういう取り組みをしているのか、自身の仕事にどんな影響があるのかをお話しいただけますか。
佐俣さん:公言していく流れを作りたかったんです。そういう活動をこっそりやる美徳が日本にはあると思いますが、こっそりやると、『自分もこれやるわ』とか『それ何やってるの』とか、有機的携わりが生まれないんですよね。僕らが一個人として何に興味があって何を解決したいのか、というのは一つの表明であって、堂々とした方がいいんじゃないかなと思いました。
世の中の課題解決のアプローチにはどんな方法があるのかを、満遍なく知りたいんです。満遍なく知ると、「この部分だったらスタートアップでもタッチできるね」とか、スタートアップをやりたいという起業家に、「あなたがやろうとしているこのやり方は非営利セクターの人がやっているから、スタートアップとしては別のアプローチでやろう」とか整理できる。社会課題を効率的に解決するためのスキームを選択する、その案内人になれればいいなと思っています。
ビジネスパーソンが、社会課題の解決に向けてどのような関わりができるのかについても意見が交わされた。
小林さん:私たちは、実際に課題解決をやりたい人たちと、それをサポートしたい人たちの両方を募集している。何百人というたくさんの方々がプロボノでやりますと手を挙げてくれています。それはすごく面白い現象だなと思っていて、兼業や副業ができるようになると、自分である程度時間を作って社会的な活動に関与できるようになる。そのチャンスがこれから広がっていくといいなと思います。
佐俣さん:本当に少額でいいので、いくつか寄付してみることがスタートなんじゃないかと思います。本業があるので、経済人はフルコミットができない。サブプロジェクトで何か立ち上げるにもなかなかパッと思いつかない。私も6年くらい時間をかけて、ソーシャルセクター全体の待遇を上げていく活動をやりたいと思ったんです。少しずついろんなところに寄付して、自分の関わりたい角度や課題を少しずつ探していかなければいけない。
藤沢さん:進太郎さんは、財団を作るという一つのジャンプをされたんだと思います。何かしらのハードルはあると思うのですが、何がジャンプのきっかけになりましたか。
山田さん:起業に似た話かなと思っていて、いろいろやっていたらいいアイデアを思いついて起業するというように。どういう思いがあれば起業に至るのかというと、内発的な動機は人によって全然違います。それを見つける、夢を見つけるみたいなことだと思います。ここ数年、寄付だけじゃなくてNPOに関わってたんですよね。そこで周りの人も新しいことを始め出して、つながりもできていったというのがありました。
「清貧こそ良い」を変えるとき
社会課題に取り組む非営利団体の待遇の問題をめぐっても議論された。
佐俣さん:世の中の認知が、ソーシャルセクターの人たちとボランティアワークの人たちとで同じになってしまっている。ソーシャルセクターが仕事として認知されていない可能性が高いと感じています。大学生はそういう(社会課題に関わろうとする)マインドが高まるときで、なのにそれでは食べていけないっぽい、という絶望感があるのではないでしょうか。
小林さん:そこは変えていかなければいけない、すごく大きな課題だと思う。日本の場合どうしても、トップがそんなにもらっていいのかな、清貧こそ良いみたいなイメージがある。きちんと給料をもらえる社会にしていくことは大事。
藤沢さん:アメリカでも30年前は、一切無償で献身的にやるということがあり、なかなか後に続かないという状況があったけれど、ここ20〜30年で変わったというふうに聞いています。日本もそういう変化のタイミングなのかなという感じがしていますね。
経済人が、より社会に関わるためのエコシステムをどう作っていけば良いのか。
山田さん:「この課題って営利じゃ解決できないな」って思うことは絶対あると思います。そういうところにちょっと関わってみるということをみんながすると、世の中が少し変わるのかなという気がする。機会があったら積極的に飛び込んでみるのが良いと思います。
佐俣さん:日々スタートアップと接すると、資本主義の功罪というか、ものすごく力強く解決できることもあるけれど、その結果よくないものも生んじゃうときとか、ブレーキをかけられない瞬間があるなと感じることがあります。世の中には複雑な課題がこれからもっといっぱい出てくると思うので、営利でも非営利でも、それを解決する活動を支援できる人になっていきたいです。