「技術移転」の名目で来日してもらいながら、人手不足を補うため劣悪な環境で働かせているーー。日本の外国人技能実習制度は、国連の人種差別撤廃委員会から「虐待的かつ搾取的な慣行」と非難されています。
法務省のまとめでは、2018年には実習生全体の2%に相当する約9千人が失踪。来日時に背負った多額の借金が要因とされ、指宿昭一弁護士は「債務労働という意味での奴隷労働だ」と指摘します。
「ビジネスと人権」を特集してきたハフポスト日本版は、外国人労働問題に詳しい指宿弁護士と、同制度を利用している企業の担当者を招いて勉強会を開催。企業はどうすれば実習生の人権を守ることができるのか、人権デューデリジェンス(DD)の観点から考えました。
多額の手数料で借金、奴隷的な労働に
2回目となる「ビジネスと人権」勉強会は9月6日にオンライン形式で開き、企業や大学、メディアなどから参加者が集まりました。
長年、外国人労働問題に取り組み、7月にはアメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー」に選ばれた指宿弁護士。制度の問題点としてまず指摘したのが、実習生が来日前に支払う手数料でした。
「実習生は多額の手数料を本国の送り出し機関に徴収されます。そのため、日本では、借金を返しながら働くという債務労働的な状況になっています」
ベトナムの場合、その額は年収の数倍に相当する100万円前後。他国でも数十万円はかかるため、借金を抱えた状態で来日する実習生が少なくなく、結果的に「奴隷的な労働状況」にならざるを得ないといいます。
さらに、送り出し機関が実習生に対し、日本で労働基準監督署や労働組合などに相談することや、妊娠・出産を禁止するルールを押し付け、違約金も科す事例があるそうです。
厚生労働省のまとめでは、実習生を雇う日本企業で、労働時間や安全基準などの法令違反が2019年に6796件確認されたにもかかわらず、実習生本人からの申告は107件(同年)だけでした。指宿氏は「ほとんどの実習生がものを言えない状況」と問題視しています。
手数料を企業が肩代わり
技能実習制度のこうした問題をふまえ、対策に乗り出した企業の一つが、繊維商社「帝人フロンティア」(本社・大阪市)です。環境安全・品質保証部長の岡本真人さんは、「手数料」をめぐる独自の取り組みを紹介しました。
同社はグループ内の複数の繊維工場で実習生を雇用していますが、5年前に聞き取り調査をしたところ、実習生の約4割が借金を抱えていることが判明しました。
同社は「そもそも手数料はリクルートにかかるフィー(費用)であり、日本では求人する側が負担している。実習先が払うべきだ」と判断。借金が失踪などのトラブルにつながる可能性もあることから、2020年から同社側で手数料を負担するようにしたといいます。
また、母国での仕事に活用できるよう、丁寧な技術指導を心がけ、居住環境や健康管理にも気を配っているといいます。岡本さんは「実習生に満足して帰国してもらえれば、またいい人材が来てくれる。好循環にもつながります」と語りました。
工場労働者向けに相談アプリも
一方、子ども服「ミキハウス」を展開する三起商行(本社・大阪府八尾市)は、実習生を直接雇用していませんが、取引先で働く実習生の労働環境に配慮した取り組みを行っています。
企画本部品質管理部長の上田泰三さんによると、同社は2016年にミャンマーにある取引先の工場が、国際人権NGOから指導を受けました。その後、国内外のサプライチェーンを調べたところ、国内では25の取引先の工場で技能実習生を雇っていることがわかり、18~19年に聞き取り調査を実施したそうです。
それを機に導入したのが、一般社団法人「ASSC(アスク)」が開発したスマホ用アプリでした。英語、ベトナム語、中国語、タイ語など計8言語に対応し、実習生など工場労働者に利用してもらうことで、困り事や悩み事を第三者の窓口に連絡できるようにしました。
実習生は「重要なパートナー」
同社では今のところ、大きな問題は見つかっていないと言いますが、上田さんは実習生をめぐる人権侵害の問題について「どの企業にも起こりうる。『対岸の火事』ではない」と指摘します。
「実習生たちは重要なパートナーであり、彼らを尊重し、日本が選ばれることが大切です。帰国したあとも、消費者や旅行者として私たちに恩恵を与えてくれることもあります。行政の力を借りながら、これからも問題の解決に取り組んでいきたい」と話しました。