俳優・監督として活躍するオダギリジョーさんが、初めて連続ドラマを手掛けた『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(NHK総合で放送)。
池松壮亮さん演じる警察官と、相棒の警察犬オリバーが不可解な事件を捜査する様子を描く本作。9月17日に第1話が放送されると、オダギリさんが着ぐるみ姿で警察犬オリバーを演じていることが明らかになり、そのシュールな世界観と予測のつかない展開で話題を呼んでいる。
主演の池松壮亮さんの他にも、永瀬正敏さん、麻生久美子さん、佐藤浩市さんなど豪華出演者が揃う中、抜きんでた存在感を発揮するのが永山瑛太さんだ。
オダギリさんと永山さんは今回が初共演。永山さんは、俳優として常にオダギリさんの背中を追い続けてきたという。オダギリさんは現在45歳、永山さんは38歳。同世代の俳優の中でも、オリジナルかつユニークな立ち位置でい続ける2人が、互いに共鳴する部分とは? 2人にインタビューした。
「名誉を打ち砕く必要があると思った」
ーー連続ドラマで初めての演出・脚本を担当されました。オダギリさんにとって、どんな経験になりましたか?
オダギリジョーさん(以下、オダギリ):これまでも俳優が映画を撮ることは珍しくなく、受け入れてくれる環境があったと思います。でも、テレビの連続ドラマは聞いたことがない。誰も踏み入れたことがない領域で、もちろん自分にとって大きな挑戦でした。
でも、難しいことであったとしても、何かに挑戦しないと物づくりは成立しない気がしています。『ある船頭の話』(オダギリさんが監督・脚本を務めた2019年公開の映画。ヴェネチア国際映画祭に選出され、トルコ、インドの映画祭では最優秀賞を受賞した)で、幸運なことに海外の多くの映画祭に参加でき、色々な賞もいただきました。
映画監督のデビューとしては恵まれ過ぎているし、光栄なことでしたが、どこかでこの名誉を打ち砕く必要があると思ったんです。映画監督として評価をいただいたなら、テレビドラマをやろう。しかも、『ある船頭の話』とは真逆のどコメディで、全てを捨てよう。という、自分に対する過度な評価をひっくり返したい気持ちが生んだ作品だと思っています。
――オダギリさんと永山さんは今回が初共演です。永山さんは、オダギリさんがドラマで演出・脚本をやると聞き、どう感じましたか?
永山瑛太さん(以下、永山):僕にとってオダギリさんは、ずっと若い頃から見てきた憧れの人で、いろんな刺激をもらってきた本当に唯一無二の存在です。
今回の出演者は、他の作品では不可能なんじゃないかと思うほど素晴らしく、そして幅広い世代の方が揃っています。そこに参加できるのは、自分がやってきたことが「認められた」と感じました。僕は今38歳で、30代中盤から後半にかけて、たくさんの実力ある俳優がいる中で、自分を選んでもらえたことが光栄で、同時に大きなチャンスだとも思いました。
爪痕を残そうとかではなく、オダギリさんが作るこの新しいエンターテインメントの中で、自分の立ち位置や、コロナ禍で視聴者に何を届けるのか、深く考えました。
芝居がうまくて器用で、いろんなキャラクターを演じられる役者はたくさんいる。自分のオリジナリティや、俳優としてできることについて、コロナ禍でより考えるようになり、その時にこの作品に出会えたんです。
「芝居欲」が刺激された作品
――永山さんが演じているのは半グレ集団のリーダー。かなり個性的な役で、作品においても重要なポジションですね。
永山:最初の衣装合わせの時に、オダギリさんから役のイメージに合うものを持ってきてほしいと言われていました。それでイメージとして…織田無道さんが出てきた(笑)。
着物を着崩したような服と数珠、金色の指輪をたくさん持っていきました。衣装合わせの時が初対面でしたが、オダギリさんはそれを面白がってくれて。半グレ集団、しかもその中のカリスマという役で、淡々とやってもいいけれど、僕の「芝居欲」が刺激された。中途半端じゃなくて、思いっきり突っ込んでいってもいいんじゃないかと。
オダギリさんは絶対にしっかり演出してくれるだろうという信頼もあったし、実際に暖かく受け入れてくれた。声は高くて、呂律(ろれつ)が回ってないんじゃないかとか、そういうディティールまで思い浮かぶ脚本でした。
オダギリ:実際、何と言っているのか聞き取りづらいシーンもありますからね(笑)。瑛太くんが作ってくれた役のイメージは、自分が想像していた以上のものでした。それがすごく面白かった。
同じ俳優として、瑛太くんが持って来てくれたオリジナリティを大切にしてあげたい思いもあるし、監督として、全体のバランスを考えるところもあるし。でも、そもそも瑛太くんの芝居には悪意がないんです。自分本意なワガママな芝居をしている訳ではなく、真面目にやってくれているのが伝わる。踏み外してはいけないところは絶対に守ってくれ、許容範囲内で思い切り遊んでくれるんです。結果的に、瑛太くんの存在が良いスパイスになっていて、作品に妙な面白さを加えてくれました。
「こうじゃないといけない」というレッテルを壊したい
――オダギリさんと演出・俳優として同じ現場で過ごして、どんな印象を持ちましたか?
永山:オダギリさんはやっぱりスマートで、僕より100倍以上脳のしわが多いなと(笑)。人に威圧感を与えない、優しくユーモアのある方で、でも、その裏側で狂気が潜んでいる感じもする。その人間の多面性みたいなところは作品にも滲み出てると思いますし、自分にも共通するところを感じました。
その時代時代において「俳優像」みたいなものは移り変わってきていると思うんです。たとえば、昔は「2枚目俳優」という言葉があって、この数年では「バイプレイヤー」という言葉も生まれて。今の時代の俳優は、芝居のうまさや外見の華やかさだけではなく、人間性としての面白さも求められていたり。その時代における王道なものや「こうじゃないといけない」というレッテルを壊したいと僕は常に思っていて。
撮影においても、俳優というキャリアにおいても、既存のものをなぞること、『こなしていく』という感覚が好きじゃないんです。常に『何か起きないかな。起きないなら自分が起こすしかない』と思っている。だから、たまに共演者に嫌がられることがあるんですけど(笑)。
そういう部分は、勝手ながらオダギリさんにもあるんじゃないかなと思っています。以前、映画『ゆれる』(西川美和監督、2006年公開。オダギリさんと香川照之さんが兄弟役を演じた)のインタビューで話されていた、本番でリハとはまったく違うことをやったというエピソードが印象的で。
オダギリ:確かに、そういう感覚は自分も持っていると思います。
『ゆれる』の時は、本当に無茶苦茶だったんです。若気の至りで。いまだに香川さんによく言われるんですけど(苦笑)。拘置所の面会室で、僕が怒って椅子を蹴って出るシーンがあったんですが、本番で僕がその椅子をガラスに投げてしまって。アクリル板でできていたから香川さんにも怪我はなく、大惨事にならなかったんですけど…。
永山:そのインタビューがすごく記憶に残ってるんです。リハと本番を通して何度も演じていくうちに、自分も共演者の方の反応も、新鮮ではなくなってしまう。本番に対して、「何が起こるかわからないぞ」という精神状態を作っておかないと、と常に考えていますね。
「紆余曲折に財産がある」
ーーお話を聞いていても、常に挑戦する心を持ち続けたい、というのはお二人に共通しているように思いました。
永山:わからないこと、やったことがないことを知りたいという気持ちが、自分の俳優をやる芯の部分にある。もしかしたら、観ている方にとっては「永山は何をやってるんだ」と思われるかもしれませんが(笑)、僕の今の精神状態にとっては、「否定されること」もエネルギーになるんですよね。僕の人格や行いに対しての批判ではなく、作品や芝居においての「否定」は、俳優として糧になるから。
先日、NHKの時代劇(2022年正月放送予定の『幕末相棒伝』。永山さんが坂本龍馬、向井理さんが土方歳三を演じる)の撮影があって。今までいろんな方が演じてきた坂本龍馬ですが、僕が演じる坂本龍馬は、かなり賛否が生まれると思います(笑)。でもそれも楽しみですね。
オダギリ:監督をやってより実感することは、賛否が起こらない作品はつまらないのではないかということです。僕にとっては、賛否を生むからこそ作る意味があるし、苦しむ意味があると思っています。じゃないと世に投げかける必要性もないと思うんです。
ただ、視聴者の反応や、「いいね」の数を気にすることよりも、まずは作る過程や、瑛太くんが参加してもらって起きた化学反応などが貴重だと思いますし、物づくりは結果よりも、その過程における紆余曲折に財産があると思うんです。その上で、観ていただく人たちがどのように感じるのか?賛だけではなく否があるからこそ、その作品が生まれた必然性なんじゃないかと思って作品に向き合っています。
(取材・文=若田悠希 @yukiwkt 撮影=西田香織)
作品情報
NHKドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」
2021年9月24日<第2話>、10月1日<第3話>
総合 毎週金曜 よる10時~10時45分
脚本・演出・出演 オダギリジョー
出演:池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、永山瑛太、佐藤浩市 ほか
公式Instagram:https://www.instagram.com/nhk_oliver/