東京・池袋で2019年4月、車を暴走させて母子2人を死亡させ、他9人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の判決公判が9月2日、東京地裁で開かれる。
2020年10月の初公判から11カ月。亡くなった松永真菜さんの夫・拓也さんと父・上原義教さんら遺族は、被害者参加制度利用して、9回に及ぶこれまでの公判全てに参加してきた。公判後は一度も欠かさず記者会見を開いて、繰り返し思いを語ってきた。
遺族は裁判をどう受け止め、何を訴えてきたのか。記者会見の発言から振り返る。
初公判(罪状認否、検察の冒頭陳述)
飯塚被告は罪状認否で「心からおわび申し上げます」と切り出した上で、「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶しており、車に何らかの異常が起きたと思います」と起訴内容を否認した。
◇
松永さん
車の不具合を主張するのであれば、私は別に謝ってほしくはない。
残念でなりません。本当に妻と娘と命と向き合っているのか。私たち遺族の無念と心の底から向き合っているのか。
上原さん
彼のうわべだけの謝りはあってはならないこと。私たちがどんな思いで生きて、生活しているのか。彼が反省しなければしないほど、私たちと同じ苦しみを味わってほしい。
(TBSニュースより)
現場付近を走行していた目撃者3人は、いずれも、被告車両のブレーキランプの点灯は「なかった」と証言。「アクセルを踏んでいると思った」などと説明した。
◇
松永さん
初公判で私の調書が読み上げられた時、一度も顔をあげなかったのに、(法廷内のモニターに)事件の見取り図が出た時だけ顔を上げる人なんだと思いました。自分が有利になるためには、ということを頭にめぐらせていた印象を受けました。
上原さん
(証言を聞いて)娘は痛い思いをしただろう。辛かっただろう。
弁護側が冒頭陳述で「アクセルを踏んでいないのに、エンジンの回転数があがり加速した。ブレーキを踏んでも減速しなかった」と主張。「踏み間違えの過失は認められない」と訴えた。
◇
松永さん
本人はブレーキを踏んだと思っているが、勘違いとしか思えない。
(亡くなった真菜さんや莉子ちゃんを)毎日思い出して、どうにもならない気持ちと向き合っている。2人の命や私たちの無念。いろんな人が苦しんでいるのを分かっているのか。向き合って欲しい。
上原さん
人間だから過ちはある。素直に認めて、自分の罪を償って欲しい。被告を見ていると、どうも人ごとのように聴いている印象を受け、それが悔しい。
捜査員が、事故解析で割り出した各地点の速度を示し、車がどう加速していったのか証言した。
◇
松永さん
加速したことは疑いのない事実だと思う。過失すら認めてくれない。しかし明確な不具合の根拠も出てこない。裁判を続けてつらい思いだ。
上原さん
車のせいにするのは残念でたまらない。これから反省して、心からお詫びされることを願っている。
事故鑑定した捜査員は、被告側が主張するようなアクセルやブレーキの電気系統の故障記録が確認できないと証言した。
◇
松永さん
(踏み間違えがなくて)加速することはあり得ないと思う。遺族としては本当にやるせない。
上原さん
技術的なことに詳しいはずの被告が、このような主張で争っているのが悔しい。
メーカーの担当者が、被告車両の故障検知システムは正常に作動していたと証言。部品に異常や不具合があったとしたら「警告やシステムが検知する」と述べた。
◇
松永さん
(今後の被告人質問について)2人がどれだけ大切な命だったのか、未来があったのか、この2年どんな思いだったのか、全て漏らさずに聞いてもらいたい。
上原さん
娘たちを奪われた悔しさと悲しさをどこにぶつけたらいいかわからなくて、裁判に参加しています。
飯塚被告は被告人質問で、車が加速し続けた心境について「車が制御できないのではと思うと、恐ろしくなりました」と説明。「2人のご冥福をお祈りする思いです」とも述べた。
◇
松永さん
裁判が終わった後、虚しさと悔しさを感じた。加害者の人間性がよく出ていたのではないかと思いました。
簡単にご冥福を祈るとか言わないで欲しい。
上原さん
2人が戻ってこないと悔しさを、どこにぶつけていいのかわからない。被告本人に、毎日どんな思いで生活しているのか聞いてみたい。
被告人質問で、松永さんが「無罪主張が、遺族やけがをした多くの人にどんな影響があるのか考えたことあるか」と質問すると、飯塚被告は「ありません」と返答。どう思うのかと尋ねられ「心苦しいです」と述べた。
◇
松永さん
(被告は)証拠を突きつけられても、私から直接聞かれても、自分を変えることができない。私の目を見ていたが、嫌悪感もあって、人として信じられない。
上原さん
2年で心の傷が癒えるわけない。せめて反省してくれていれば。事故に向き合って反省してほしい。
検察側は論告で、被告側の主張を「客観的な事実に反する不合理な弁解」として、禁錮7年を求刑。弁護側は踏み間違えの可能性を改めて否定した。
◇
松永さん
ここまで来るまで長かったですが、虚しさと、やれることはやったという気持ち、複雑な感情でいます。
(被告は)罪と、2人の命と、遺族の無念と向き合う時間がと場所が必要だと思います。
上原さん
悔しくてたまりません。どうしてこんなことになるのかすら、納得がいかないところがたくさんあります。
いい判決が出て、それに対して彼(被告)が本当に反省して、それを願うだけです。