NHKの人気ラジオ番組で、毎年夏休みに集中的に放送される「夏休み子ども科学電話相談」が東京オリンピックの放送などのため中止となったことを受けて、有志の専門家たちが立ち上がった。
インターネットで子どもたちの質問を受け付け、YouTubeで回答する「夏休みこども科学インターネット相談」を始めたのだ。すでに子どもならではの自由な質問が寄せられている。発案した考古学者の村田悟さんに話を聞いた。
■「ドーナツの穴は1個なのか」質問は強敵ばかり
本家「子ども科学電話相談」はNHKのラジオ番組。「人間は、死んだ後にどこにいくの?」「どうして妹は特別にかわいいの?」など、子どもならではの独創的な質問に専門家らが丁寧に答える構成が特徴で、なかでも夏休み期間に集中的に放送される「夏休み子ども科学電話相談」には根強い人気がある。
しかし、2021年は東京オリンピックの放送などのため中止となり、ネットでは「夏を乗り切れない」など残念がる声が上がっていた。
番組は中止になっても、子どもたちの好奇心は尽きない。それに答えようと思い立ったのは、アメリカ・ニューメキシコ州在住でマヤ文明が専門の考古学者・村田悟さん。「ツイッター有志でやろう」と呼びかけたところ、相互フォローの研究者らを中心に続々と名乗り出る人が現れたのだ。
公開されている回答者(専門家)リストはすでに「科学」の枠を超えた多彩な顔ぶれになっていて、村田さんの専門である考古学のほか、軍事や国際政治、物理や生命倫理、AIなど30人以上がエントリーしている。
これに対する質問も「強敵」ぞろいで、「ドーナツの穴は1個なのか(それぞれの側から見て)2個なのか」(5歳)、「ムンクの叫びはなんていっているんですか」(4歳)などが寄せられている。
第1回はすでにYouTubeで公開されている。村田さんに加え、エジプト考古学者の河江肖剰(ゆきのり)・名古屋大学高等研究員准教授が「古代文明の推しの宝石は?」(小2)と「エジプトの書記坐像ってなにをかいているんですか」(4歳)の2つに答える構成となっている。
■本家とは違った存在に
「初めは半分冗談でした」。村田さんはハフポスト日本版の取材にこう明かす。
本家「電話相談」の特徴的な受け答えをネットで見て知っていたという村田さん。中止のニュースに「子どもたちはがっかりしているだろう」と思い、Twitterで呼びかけたところ、第1回のゲストとなる河江さんからすぐに反応があり、「誰かがやるのを待つよりは、自分でやろうと思った」と決心したという。
当初、回答者としてエントリーした専門家の多くはTwitterの相互フォローなどだが、徐々にその輪は広がっている。村田さんは「私のTwitterのタイムラインだけでも、考古学者や物理学者、国際政治学者や医者など、これだけの集合知を持っている人がいる。Twitterを使えば、子どもたちの色々な質問に答える場を作れるだろうという確信はありました」と振り返る。
それでも、実際に寄せられた子どもたちの質問のクオリティに驚いているという。「すごい質問が来たなと思います。予想外の質問が来ることが期待通り、と言いましょうか。例えば『数字の8はなぜ下が大きいのか』(6歳)という質問に至っては、関連分野すら分かりません。書記法研究なのか、記号学なのか、タイポグラフィなのか...どう答えれば良いのか、考えることが面白くて仕方がありません」。
今度は「できれば1日1本ペースで動画をあげたい」と意気込む。夏休み期間中の企画だが、反響次第では今後も継続を検討するという。
「ライブならではの掛け合いの妙はありませんが、子どもたちの質問を吟味して、最適な回答者を見つけて解説してもらう。映像やテロップなどの情報も提供します。本家のラジオとは違った存在にしていきたいです」と考えている。