東京オリンピックのバスケットボール女子日本代表が快進撃を続けている。
予選リーグを2勝1敗の2位で通過すると、準々決勝でベルギーを相手に1点差で逆転勝利を収め、五輪史上初のベスト4入りを果たした。
その一員として、オコエ桃仁花選手は初めてのオリンピックに臨んでいる。
プレーとは別に、自身の考えをSNSで打ち明けたことがあった。
2020年6月。オコエ選手は、肌色の鉛筆や人種差別に抗議する写真をTwitterに投稿。プロ野球楽天に所属する兄瑠偉さんも、肌の色や見た目を揶揄された過去を明かした。
この時の行動を「自分のためでなく、メッセージを望んでいる子供たちのため」だったと明かすオコエ選手。
オリンピックのこと、人種平等への思いを聞いた。
代表選考ギリギリ、1年延期プラスに
新型コロナによる1年延期で、選手たちは引退を決めたり、難しい調整を余儀なくされたりしていた。オコエ選手の場合は「延期したことが逆にプラスになった」という。
1年前。シュートフォームを変えると、得意だったスリーポイントシュートが入らなくなった。フォームを戻したが、調子を取り戻せず、焦りを感じていた。
1年延期で結果的に「自分の準備がたくさんできた」と語る。
東京オリンピックの最終メンバー枠は12人。2018年ワールドカップでも代表メンバー入りを果たしたが、今回は「選考ギリギリのラインだった」と振り返る。
「毎日が自分との戦いや、チームメイトとの戦いがあって、その中で浮き沈み、メンタルのコントロールがすごい大事ということを学びました」
コロナ禍で異例づくしの今大会。選手一人ひとりが感染防止対策の徹底を求められ、競技のことだけに集中できる環境とはほど遠い。選手の行動や選手村での交流も制限されている。
「息抜きができないことがきついです。バスケだけという環境でやっているので、どこで発散するのか、メンタルをうまくコントロールしていかないといけません」
ほとんどの会場が無観客となり、コロナ禍で開催することへの風当たりも強い。
「ファンの方の声援は本当に大事です。試合ではファンに後押しされることは多いので、その点は不安です。自分たちで雰囲気を作って盛り上げて、いい試合をしていかないといけない」
人種平等ツイートは「子供たちのため」
オコエ選手は2020年6月、自身の考えをTwitterで明かしていた。見た目や肌の色で揶揄されたつらい過去を明かした兄瑠偉さんと連帯して、「肌色のクレヨン」の写真を投稿した。
ちょうど、黒人の人たちへの差別や暴力に抗議するBlack Lives Matter運動がアメリカで広がり、日本でも話題になっていたタイミングだった。
当初、発信することに躊躇していたと打ち明ける。
「やっぱりSNSは、必ずしも称賛されるわけではなく、反対意見や叩く人も絶対います。お兄ちゃん(瑠偉さん)は特に嫌な部分ばかり取り上げられることが多いので、自分たちが発言するのは良くないよねと話していました」
それでも発信することを決めたのは、こんな理由があった。
「自分たちのためじゃなくて、助けを求めている人たちのために、声を上げた方がいいんじゃないかと思って。自分たちの声を望んでいる人やこの投稿を見て元気付けられる人がいるのであれば、(発信をして)何かを言われても構わないよねという話になりました」
「助けを求め、自分たちの声を望んでいる人」というのは、具体的な人たちを思い浮かべている。キッズサークルに参加する子供たちだ。
オコエ選手は日本とナイジェリアにルーツを持つ。自身のように多様なルーツを持つ子供たちの集まる場に招かれ、自分の経験や考えなどを語る機会があるという。
「ハーフのキッズたちの集まりです。(他人の言葉に)一番傷つきやすい年齢の子たちで、その場にいるということは、誰かの励ましの声を欲しがっているからです。(発信は)そういう子供たちのためです」
子供たちに届くようにと投稿したツイートは、「応援しています」「心に刺さった」と反響が広がった。コメントは見ないというオコエ選手に、そのことを告げると「声を求めている人たちのところに届いてよかった」と安堵した様子だった。
「立場が違えば“無意識の差別”してたかも」
日本で暮らす多様なルーツを持つ子供たちの中には、教科書や身近な作品に多様な文化を反映したキャラクターがほとんど登場しないことから、自身のアイデンティティを重ねる存在を見つけるのが難しいというケースもある。
身近にロールモデルがいない。オコエ選手の活躍や発信から力をもらいたい。
そんな思いを、キッズサークルの子供たちから、オコエ選手は感じ取っているという。
テニス大坂なおみ選手が全米オープンでマスクを通じて人種差別に抗議したり、Black Lives Matter運動で日本に暮らす人たちが声をあげたりもした。それでもなお、「日本に人種差別はない」と考える人もいる。
オコエ選手は、無意識の差別に自ら気づくことの難しさや、教育の重要性を訴える。
「自分がもし、ハーフでなく生まれてきたら、どんな振る舞いをしていたのか分からないのが現実です。立場が違えば、他人に『無意識の差別』をしてしまっていたかもしれない。そうなってしまう状況があるのかもしれません」
「だからこそ教育。それが日本は十分ではないところがあると思います。やっぱり、小さい時から、先生や周りの大人が、様々なバックグラウンドを持つ人たちがいることや、何気ない一言が相手を傷つけてしまうことを教えていくことが大切です。もしそうした人たちが身近にいなければ、海外の映像などを通じて、外の世界に触れてもらうということでもいいと思います」
発信や行動の原点は、兄の瑠偉さんからの影響が大きいという。
「実体験を話すことを大事にしています。自分はお兄ちゃんを見て育ってきたので、一番身近な存在として影響を受けています」
滅多にないチャンス
オコエ選手にとって、初めてのオリンピック。予選ラウンドでは世界ランク1位のアメリカと対戦した。
オコエ選手は五輪開幕前、次のように語っていた。
「アメリカと対戦するチャンスはなかなかありません。オリンピックのために今まで練習してきたので、自分のできることを全て出し切りたい。チームの目標であるメダル獲得に向けて、自分の役割に集中したいです」
86-69と敗戦はしたが、大会7連覇を狙う絶対王者を相手に、一時はリードするなど善戦した。オコエ選手も得意の3ポイントシュートを3本成功させ、11得点と好調だった。
日本女子代表は8月6日、準決勝でフランスと対戦する。予選ラウンドで勝利した相手に、初のメダルをかけた戦いに臨む。