関東地方では大雨や落雷など不安定な天候が続いていましたが、ここ数日で急に夏本番。この週末は最高気温30度を超える真夏日になると予測されています。
実は7月は、1年で最も熱中症が起きやすいとされる月のひとつ。体が暑さに慣れていないときに急に気温が上がるこの時期、十分に気を付けていきたいところです。
炎天下での部活動など「外での運動時」が多いとイメージされがちな熱中症ですが、最近、特に高齢者で増えているのが「室内にいるのに熱中症」になってしまうケースです。
室内にいるのであれば、暑ければエアコンで温度を下げれば良いはず。なぜ熱中症になる人が多いのでしょうか?最近行われた調査で、陥りがちな「落とし穴」があることが分かってきました。
落とし穴①:暑さの『感じ方』の個人差が大きい
名古屋工業大学の研究グループは、名古屋市消防局が熱中症の人を搬送した際のデータなどをもとにシミュレーションを実施し、高齢者などが室内で熱中症になるメカニズムを研究しています。
通常、周囲の気温が高くなると、人間の体はそれを察知して汗をかき、体温を下げようとします。しかし実際に熱中症で搬送されたケースを見てみると、シミュレーションで想定されるより体温が下がらず、熱中症で救急搬送されるケースがあることが分かりました。
そこで研究グループでは、「周囲の気温が上がっていくのに、汗をかかない」場合を仮定してシミュレーションを実施したところ、搬送されたケースをより良く再現できることがわかりました(下図右側の赤点)
ここから研究グループは、「体感以上に暑さを感じる機能が低下している方が多い」可能性を指摘しています。つまり、気温の上昇を察知して汗をかく働きには個人差が大きく、特に高齢者のなかには、暑さに気づかずエアコンを使うのが遅れたり、温度の上昇に合わせて汗をかくことができず、体温を下げられない危険性があるということです。
対策として、部屋に温度計(室温計)を置いておき、自分では暑いと思っていなくても、ある温度になったらエアコンを使うなどのルールを決めておくと役立つかもしれません。
落とし穴②:「脱水」の影響は蓄積する
もうひとつの落とし穴は、水分摂取に関してです。研究グループが、熱中症で搬送された人の状況から汗の量を推定したところ、最大でも500g程度ということがわかりました(健常な体温調整機能であると仮定した場合)。通常は、強い脱水の症状が出るとはされない程度のものです。
この結果から、研究グループは「脱水症状は、その当日のみが影響して生じるのではなく、数日間の水分蓄積によって引き起こされることが示唆され」るとしています。
数日にわたって暑い日が続いたとき、普段よりちょっと多めの汗をかいたにも関わらず、とる水分の量が変らなかったとします。普段より汗として出ていく水分が多くなるので、体内の水分量は減ることになります。
1日1日の減少量は大きなものでなくても、暑い日が続くうちに、その影響は積み重なっていきます。知らず知らずのうちに脱水が進み、ある日、体温上昇や頭痛・疲労などの症状が現れる可能性があります。
熱中症の落とし穴:対策のポイントは
上記でお知らせした「落とし穴」に関して、どう対策すれば良いでしょうか?名古屋工業大学の研究チームの指摘をもとに、次の2点をポイントとしてまとめてみました。特にご高齢のご家族やお知り合いがいる方は、お気に留めておいてください。
・「暑い」「のどが渇いた」といった自覚がなくても、熱中症になるケースがあります。温度計(室温計)などを活用して暑さへの対策をしたり、こまめな水分補給を行ったりするよう心がけてください。
・加齢の影響などで、気温の上昇を感じにくくなることがあります。もし、ご家族やお知り合いの家で「室温が高いのにエアコンをつけていないな」という状況に気が付いたら、注意を呼びかけてください。
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参考資料
高齢者はなぜ自宅から熱中症で搬送されるのか? ~計算科学と熱中症搬送者統計データの融合による科学的な裏付けに向けて~
名古屋工業大学プレスリリース 2021年07月13日掲載