7月をなるべくプラスチックごみを出さずに過ごそうという、オーストラリア発の脱プラ運動「Plastic Free July(プラスチック・フリー・ジュライ)」が10周年を迎えた。
運動を始めた女性は、日本の折り紙や風呂敷も、暮らしの「脱プラ」に活用しているという。
Plastic Free July(プラスチック・フリー・ジュライ)とは
Plastic Free July(プラスチック・フリー・ジュライ)は、2011年、オーストラリア南西部パース近郊のフリーマントルに住むレベッカ・プリンスルイズさん(51)が考案した参加型の「脱プラ」チャレンジだ。
パースの広域廃棄物協議会に勤めていたプリンスルイズさんは2011年6月、町のはずれにある資源ごみを集積・分類するリサイクル施設を訪れ、その規模に圧倒された。
さらにリサイクルされるのが、プラスチックごみ全体のわずかしかない実態を知って、資源回収に取り組むだけで満足していた自分を反省した。
「リサイクルは大事なことだけれど、そもそもプラスチックを使うのをやめてみたらどうだろう」と思い立った。
翌7月の1カ月間、同僚や地元の住人に呼びかけ、使い捨てのプラスチック製品を使わずに暮らす実験を始めた。
水筒や布製のマイバッグを持ち歩いたり、竹製の歯ブラシを使ったりするプロジェクトは次第に共感を呼び、プラスチックなしで暮らすアイデアがどんどん集まった。
40人ほどだった参加者は、企業や自治体も巻き込みながら徐々に増えた。
運動を率いる財団によると、2020年には177カ国の推定3億2600万人が参加し、約90万トンのプラスチックごみ削減に貢献したという。
参加は簡単
いつ、どこで、どのくらい挑戦するかは参加者の自由だ。「1日だけ」「1週間」「7月いっぱい」「この先ずっと」など、さまざまな期間が例示されている。
プラスチック・フリー財団の公式ホームページには、家庭や職場、学校やイベント会場、地域などでの脱プラのアイデアが、世界中から寄せられている。
一例を紹介しよう。
使い捨てのプラスチック製ストローやカップ、レジ袋を使わない
繰り返し使える布製マスクを使う
液体せっけんを固形せっけんに換える
プラスチックラップの代わりにみつろうラップを使う
プラスチックの歯ブラシではなく竹製の歯ブラシを使う
スーパーでは簡易包装の商品を選び、買い物の回数自体を減らす
日本からの参加者も
日本からの参加も増えているようだ。
東京農業大学第三高校(埼玉県東松山市)に2020年度に新設された「グローバル課程」の新入生10人も2020年に挑戦した。
1年生の夏休みに予定されていたオーストラリアでの語学研修が新型コロナの影響で中止になったため、日本で学べることを探した。そして各自が挑戦した成果を英語でプレゼンして共有したという。
指導した長澤教諭は、「身の回りには色々なプラスチック製品があふれていること、そして、プラスチック製品の代替製品が世の中にはたくさんあるということに気づいた生徒が多かったです」と振り返る。
手軽にお茶をいれられるティーバッグに実はマイクロプラスチックが含まれていることや、使い捨ての不織布マスクはプラスチックでできていることなども知ったといい、「非常に勉強になる取り組みでした」と話している。
創始者は日本の折り紙や風呂敷も「脱プラ」に活用
プラスチックが環境や健康にもたらす悪影響は今では多くの人が知るようになった。
一方で、新型コロナの影響もあって使い捨てプラスチックを使う場面は増えた。私たちはどのように「脱プラ」に向き合えばいいだろう。オーストラリアにいるプリンスルイズさんに聞いた。
ー「プラスチック・フリー」運動が10年で大きく広がったのはなぜでしょう。
人々の考え方が大きく変わりました。
10年前、人々は海や自然界に行きついたプラスチックによる汚染の実態や、自分たちがいかにたくさんの使い捨てプラスチックを使っているかに、気づいていませんでした。
リサイクルマークがついた容器を資源ごみに出しさえすれば、誰かがきちんとリサイクルしてくれるから問題ないと考えていました。でも今では、プラスチックのリサイクルは非常にやっかいだと私たちは知っています。
人々が知識を得て、「自分ごと」として問題に向き合うようになったのだと思います。
―新型コロナで2020年のチャレンジはどのような影響を受けましたか。
幸運なことに、私たちの暮らす小さな町では感染者がわずかですが、不織布マスクなど使い捨てプラスチックの使用が増えました。医療現場で必要なプラスチック製品はあると思いますが、私たちは人間の健康を守りつつ、環境のことも考えなくてはいけません。
私は、洗って繰り返し使える布マスクを使っています。コロナ禍で、すべてを使い捨てにした方が安全だろうと人々は考えがちですが、世界保健機関WHOは、持病のない一般の人は、正しく洗って正しく着ければ布マスクでよいというガイダンスを出しています。また、WHOの報告によると、コロナウイルスは飛沫感染が主で、食品を介して感染したという証拠はありませんから、正しい理解が必要です。
私たちの運動は、できないことではなく、できることに着目します。コロナ禍でもできることはたくさんあるんですよ。
―コロナ禍でもできることは、たとえばどんなことでしょうか。
ロックダウン中だからこそ実践できたアイデアを紹介しましょう。「在宅勤務中に家庭ごみのリサイクルを徹底した」という人もいますし、「ベランダでハーブや野菜を育て始めた」とか「生理用品や赤ちゃんのおむつを布製に変えてみた」という人もいます。
他の人と会話してみれば、新たな知恵と気づきがあるかもしれません。たとえば、私は日本の女性が手作りしたとても美しい弁当袋を使っています。数年前にオンラインで購入したとき、「プラスチック製の梱包資材を使わないで送ってください」とお願いしたら、「そこまで考えたことがなかったけれど、今後はすべての梱包のやり方を変えますね」と言ってくれました。
コロナ禍で、多くの人々の暮らしは大変になりましたが、どうにもならないと投げ出すのではなく、ほかの人とつながって行動し、変化を起こすことができる、それが「プラスチック・フリー・ジュライ」なのだと思います。
ー日本でも環境意識が高まっていますが、生活の中にプラスチック製品があまりに多くて、チャレンジしたくても、どこから手を着けたらいいか分からない人もいるかもしれません。
「プラスチック・フリー(脱プラ)」と銘打っていますが、完璧である必要はないんです。私だって完璧ではありません。一つか二つでいいから、プラスチック製品を避ける選択をする。そして、たくさんの人が小さな変化を起こすということが重要なのです。
お店の食品パッケージは避けようがないというなら、水筒を持ち歩いたり、再利用できる布製マスクを着けたり、液体せっけんを(プラスチック容器のいらない)固形せっけんに代えたりしてみてください。自分にできることは何かをいつも考えるようにしてください。
ー企業の果たす責任も重要ですね。
人々の環境意識は高まっています。
私たちの調査では、コロナ禍であっても9割以上の人がプラスチックごみの心配をして、企業や行政に行動を求めたいと答えました。現在、多くのプラスチックパッケージは再生素材ではありません。こうした企業は今後、消費者に選ばれなくなっていくでしょう。
ドイツやオーストラリアには、あらかじめ商品の価格にデポジット(預かり金)が上乗せされていて、容器を返却すると買った人が払い戻しを受けられる「デポジット制度」があります。この制度をもっと広げていくべきです。今は自治体か自然環境が引き受けているプラスチックごみの処理を、企業側も担う責任があると思います。もちろん、消費者や従業員たちが声を上げていくことも変化を早める上で大切です。
ーご自身の「脱プラ」に日本の文化が役立っているそうですね。
日本に行ったことはないのですが、ゴミ箱には、プラスチック製の袋をかぶせる代わりに、折り紙のように折った紙を入れています。
私たちの両親や祖父母の時代は、使い捨てのプラスチックなしでもちゃんと暮らしていけました。折り紙だけでなく、贈りものを風呂敷で包むなど、私たちが学び直すべき古来の知恵がたくさんあると思います。
世界のプラスチック年間生産量は4億トン
20世紀初頭に発明されたプラスチック。世界の総生産量は、1950年で年間200万トンだったが、2016年現在、約200倍の年間4億トンに迫る。
米科学雑誌に掲載された研究報告によると、1950年代以降、2015年までに新たに生産されたプラスチックの総量は推計83億トン。
このうち63億トンが廃棄されてごみになり、リサイクルされたのはこのうち9%にとどまる。12%が焼却処分され、79%は埋め立て処分されるか、自然界に投棄されているという。
報告書は、生産やリサイクルが現状のペースのままでは2050年までに120億トンのプラスチックごみが埋め立て処分か、海洋など自然界に捨てられると試算した。