中国・新疆ウイグル自治区にある太陽光パネルの部品工場で、強制労働の疑いが浮上している。
アメリカは6月24日、「労働者に対する脅迫や移動の制限が確認された」と人権侵害を指摘し、中国企業「合盛硅業(Hoshine Silicon Industry)」からパネルの部品となるシリコンの輸入を禁止すると発表した。
「米中対立による経済制裁」との見方があるが、多結晶シリコンは、新疆だけで世界の半分近い生産能力を持つとされる。日本政府は太陽光発電などを活用した「2050年カーボンニュートラル」を掲げたばかりで、専門家は脱炭素に向けた道のりへの影響を指摘する。
G7サミットも「太陽光」めぐる懸念を表明
「我々は、農業・太陽光・衣類の部門を含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、あらゆる形態の強制労働の利用を懸念する」
6月13日に閉幕した、主要7カ国首脳会議(G7サミット)での宣言の一文だ。農業・衣類に並び、「太陽光」への懸念が各国で共有され、その11日後、アメリカは輸入禁止措置に踏み切った。
背景には、今年に入り、中国・新疆ウイグル自治区にあるシリコン工場で人権侵害が起きているとの報道が、欧米メディアで相次いでいたことがある。CNNは、イギリスの大学教授らの報告書を引用する形で、中国の部品会社「合盛硅業」の「実態」を報道した。
それによると、合盛硅業に代わって地方政府が行っている労働者の採用活動は、「非自発的な労働を示唆する抑圧的な戦略に基づくもの」とされ、肉体労働者が1トンにつき42人民元(約700円)でシリコンを手作業で砕いているという。
労働者が軍事関係企業の訓練を受けさせられている疑いもあり、合盛硅業の工場の近くにはウイグル族の「再教育」のための収容施設とみられる建物が確認されたという。
同社のシリコンは、新疆産の「綿」「トマト製品」に続き、アメリカの輸入禁止品目に追加されたが、中国側はこれまで人権侵害を全面的に否定している。
日本国内では「米中間の問題」(経産省幹部)、「アメリカが中国シェアを奪う狙い」(業界関係者)といった見方もあるが、新疆の人権問題は世界が注視しているだけに、中国に多数のサプライヤーを持つ企業が「無関係」という訳にはいかない。
「綿」「トマト」は既に日本企業に影響
1月には「綿」をめぐって、「ファーストリテイリング」(本社・山口市)が展開するユニクロの綿製シャツが、新疆での強制労働との関係を疑われ、米税関・国境警備局(CBP)によってロサンゼルス港で輸入を差し止められる事態に発展した。
下着大手の「グンゼ」(本社・大阪市)は6月中旬、新疆産の綿花の使用を中止する方針を明らかにした。生産工程で人権侵害は確認されていないというが、国際的に広がる懸念を考慮しての判断だ。
食品会社「カゴメ」(本社・名古屋市)も新疆産のトマトペーストをソース類に使うのを2021年中にやめる方針だ。これまでの輸入分は「人権侵害が行われている環境で生産されたものではないと確認している」という。
日本の太陽光発電への影響は?
日本の太陽光パネルの部品も、多くは中国で生産されている。
民間調査会社「資源総合システム」によると、2020年の多結晶シリコンの生産能力は、中国が年間42万トンで、世界で75%のシェアを占めている。このうち、新疆ウイグル自治区に工場をもつ中国メーカー4社の生産能力は計26.7万トン。つまり、新疆だけで世界の48%の生産能力を持つことになる。
一般社団法人「太陽光発電協会」が、日本に拠点を持つメーカー29社を調べたところ、国内向けの太陽光パネルの出荷量(2020年度)は512万キロワット分に上った。このうち8割強が中国など海外で生産されているという。
仮に、中国製シリコンを使えなくなれば、太陽光パネルの価格高騰は避けられない。アメリカが主導する対中国の経済包囲網に、中国製シリコンが組み込まれていく中、各メーカーはどう対応するのか?
太陽光機器メーカーの対応
ハフポスト日本版は、国内大手3社と日本に拠点を持つ中国系メーカー4社に対し、現在の調達ルートや人権侵害の確認状況を聞いた。
「京セラ」(本社・京都市)は、中国からの輸入を認めたうえで、「新疆ウイグル自治区の製品を輸入している事実は認められていない」とし、「定期的にサプライチェーンのCSR調査を実施しており、リスクがあれば是正を進める方針ですが、強制労働についてのリスクは認められていない」と答えた。
「シャープ」(本社・大阪府堺市)は輸入元を明かさなかったが、「ビジネスパートナーであるサプライヤー企業からも強制労働への非関与、並びに人権擁護をコンプライアンス上の最優先課題とした経営を行っており、原材料を含め当該地区の生産品は使用していない旨の見解を得ている」と答えた。
「パナソニック」(本社・大阪府門真市)は回答がなかった。
また、中国系の「ジンコソーラー」「トリナ・ソーラー・ジャパン」「JAソーラー・ジャパン」は、いずれも「日本法人ではコメントできない」、または無回答。
「LONGi Solar Technology」は中国本社の回答として、以下のようにメールでコメント(抜粋)した。
「すべてのサプライヤーに、いかなる形態の強制労働に従事することも明確に禁止するサプライヤー行動規範を遵守するよう求めている。今後も私たちに供給される製品が強制労働を受けていないことを保証するために、常に努力を続けていく」「LONGiはいかなる形の強制労働にも反対している。グローバルに事業活動を行っており、常に現地の法令を遵守している。米国地域のビジネスにおいても、米国が発行したすべての法令を常に遵守している」
ただ、米国の輸入禁止対象となった「合盛硅業」との取引の有無については、明確な言及がなかった。
専門家は脱炭素への影響を指摘
キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は、「アメリカで問題視されたら、日本が何もしないという訳にはいかない。ただ、部品の輸入元を中国から切り替えた瞬間、太陽光発電の価格は跳ね上がる。そうなれば、日本の脱炭素に向けた計画は近い段階で変更を迫られ、企業と政府は温暖化対策の再検討を求められるだろう」と指摘する。
さらに「ウイグルの人権問題はアメリカが指摘する前に、日本として真剣に考えないといけない。世界の太陽光発電は事実上、中国頼みだが、時間をかけてでも別のサプライチェーンを構築するべきではないか。太陽光発電で二酸化炭素さえ減らせばいいという話ではない。企業にも高い人権意識が求められ、自分たちのリスクだと思って考えて欲しい」と訴える。
日本政府は2020年10月、「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、企業に対し「国際的に認められた人権等の尊重」を求めている。経産省通商戦略室は「太陽光」をめぐる人権問題について、「重要性は認識している」としつつ、国内への影響については「業界団体などと連携して実態把握に努めている」と述べるにとどめている。
【UPDATE:2021/07/06/11:10】
「LONGi Solar Technology」は中国本社の回答として、以下のようにメールでコメント(抜粋)した。
「すべてのサプライヤーに、いかなる形態の強制労働に従事することも明確に禁止するサプライヤー行動規範を遵守するよう求めている。今後も私たちに供給される製品が強制労働を受けていないことを保証するために、常に努力を続けていく」「LONGiはいかなる形の強制労働にも反対している。グローバルに事業活動を行っており、常に現地の法令を遵守している。米国地域のビジネスにおいても、米国が発行したすべての法令を常に遵守している」
ただ、米国の輸入禁止対象となった「合盛硅業」との取引の有無については、明確な言及がなかった。