最高裁の大法廷が6月23日、夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定は「合憲」とする判断を示した。「違憲」としたのは、15人中、4人の裁判官だった。
「違憲」とした宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官は、共同で反対意見を示している。なお、宮崎裁判官は、最高裁判事として初めて旧姓を使用している。
両裁判官は、夫婦同姓を婚姻の成立要件として課すことについて、「当事者の婚姻をするについての意思決定に対する不当な国家介入に当たる」に当たると指摘。「憲法24条1項の趣旨に反する」との判断を示した。
また、旧姓使用の拡大についても言及。意見では、旧姓の通称使用は「不利益を一定程度のみ解消させるもの」でしかないと指摘した。戸籍名での公的な証明を必要とする場面は残るとし、「旧姓の通称使用ができることは決して夫婦同氏制の合理性の根拠になるものではない」とした。
さらに、婚姻する男女のうち、9割以上で女性が改姓している実情を受け、「旧姓の通称使用とは、実態としては婚姻した女性にダブルネームを認めるのと同じであるところ」とも指摘。ダブルネームを使うことによって、氏の変更によって生じた本質的な問題が解決されるわけではないとし、さらに「ダブルネームを使い分ける負担の増加という問題が新たに生ずる」とも断じた。
また、意見では、日本も批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女子差別撤廃条約)についても触れている。日本政府は、国連の女子差別撤廃委員会から3度にわたり、夫婦同姓制度の法改正を要請するよう是正勧告を受けている。宮崎・宇賀両裁判官は、「国会がその法改正措置を実施しない状態が長年にわたって継続している」などとも指摘した。
両裁判官の反対意見の要点は以下の通り。
夫婦同姓の強制への見解→「意思決定に対する不当な国家介入」
夫婦同氏制を定める民法750条を含む本件各規定を、当事者双方が生来の氏を変更しないことを希望する場合に適用して単一の氏の記載(夫婦同氏)があることを婚姻届の受理要件とし、もって夫婦同氏を婚姻成立の要件とすることは、当事者の婚姻をするについての意思決定に対する不当な国家介入に当たるから、本件各規定はその限度で憲法24条1項の趣旨に反する。
旧姓の通称使用について→「不利益を一定程度のみ解消させるものでしかない」
そもそも旧姓の通称使用は、婚姻によって氏を変更した当事者が有する生来の氏名に関する人格的利益の喪失とそれによる不利益を一定程度のみ解消させるものでしかなく、旧姓の通称使用が拡大したとしても公的な証明を必要とする場合は残るから、旧姓の通称使用ができることは決して夫婦同氏制の合理性の根拠になるものではない。
むしろ、旧姓の通称使用を認めるということは、夫婦同氏制自体に不合理性があることを認めることにほかならない。
そして、旧姓の通称使用の拡大は、夫婦同氏制による氏の変更後の戸籍に記載されている氏名が、社会での使用に耐えない場合があること、言い方を変えると、夫婦同氏制による氏ではなく、生来の氏による氏名を使用しなければ、その個人が、氏を変更せずに婚姻した者であれば決して置かれることのない不合理で理不尽な状況に置かれ得ることについての社会における認知の拡大を意味している点は極めて重要である。
通称使用、「ダブルネームを使い分ける負担の増加という問題が新たに生ずる」
旧姓の通称使用とは、実態としては婚姻した女性にダブルネームを認めるのと同じであるところ、旧姓を使用する本人にとっては、ダブルネームである限り人格的利益の喪失がなかったことになるわけではないから、氏の変更によって生じた本質的な問題が解決されるわけではなく、かつダブルネームを使い分ける負担の増加という問題が新たに生ずる。
また、男女の別を問わず、ダブルネームを使う個人の増加は、社会的なダブルネーム管理コスト(例えば、企業や組織においては、一人の社員のために二つの名前を管理しなければならないが、これにはコス トがかかる。)や、個人識別の誤りのリスクやコストを増大させるという不合理な結果も生じさせる。
国連からの是正勧告について→「国会がその法改正措置を実施しない状態が長年にわたって継続している」
女子差別撤廃委員会は、日本政府に対して、2003年(平成15年)7月に、夫婦同氏制を定める我が国の民法の関連規定が、夫婦同氏を強制するものであって、夫と妻に同一の個人的権利として「姓を選択する権利」を与えていないことは、女子差別撤廃条約上の「女子に対する差別を温存、助長する効果のある制度」 に当たる旨指摘し、それ以来繰り返し同条約に従ったこの制度の是正を要請してきた。
日本政府は、女子差別撤廃委員会のこの解釈を争うことなく、指摘された問題に対応するための法改正(民法750条の法改正)を行う方針であると説明してきていながら、立法機関である国会がその法改正措置を実施しない状態が長年にわたって継続している。
本国に対してこの義務の履行を要請する(2003年(平成15年)の勧告以来)3度目の正式勧告がされたことは、夫及び妻に同一の個人的権利として姓を選択す る権利を認める制度となるよう同条を法改正するという明確に特定されている措置に係る女子差別撤廃条約上の義務について、かかる措置をとるために必要と考えら れる社会通念上相当な期間が経過したことを示しているというほかなく、本件処分 の時点では,締約国である我が国の枢要な国家機関である国会において、同条約2条の合意にもかかわらず、もはやかかる措置の実施を、遅滞なく追求しているとは いえない状態に至っていたことを示していると解される。