薬物依存症関連団体や支援者らが6月2日、厚労省の有識者会議で議論されている『大麻使用罪』創設に反対する声明を発表し、記者会見を開いた。
支援団体『ASK』薬物担当の風間暁さんは、薬物依存症の当事者としての経験から「厳罰は、予防として効果的であるとは考えられない」と訴えた。
風間さんは、親からの虐待や加害者家族としてのつらい日々から、非行グループに居場所を求めて、そこで薬物に出会ったという。
「薬物を使ったことを周囲の大人から強く非難され、かえって薬物にのめり込んだ」と明かす。
過剰摂取で倒れたことで結果として医療や福祉につながり、ともに回復を目指す仲間との出会いから、今は薬物を使わない生活を送ることができているという。
「私のように手厚い支援を受けることができた幸運な当事者でも、薬物を使わないで過ごしていくのは困難。厳しい罰を受けていたら、生きることを諦めていたかもしれない」と、厳罰化は逆効果になると訴えた。
「当事者が回復したいと思った時に、門を叩けるようなスティグマのない社会が必要。犯罪者というレッテルが回復の邪魔をする」と述べた。
関西薬物依存症家族の会代表の山口勉さんは、息子が10代で危険ドラッグや大麻を使用。親の責任として、薬物をやめさせようと息子を監視したり、罵倒したりする日々が続いたという。
「初めは薬物で息子が死んでしまうのではないかと心配していたのが、私自身が疲れ果てて、途中から『死ねば良いのに』『一緒に死のう、俺が殺したる』とまで思うようになってしまった」
「『ダメ。ゼッタイ。』のスティグマを植え付けられて、他人に知られてはいけないと思って、助けを求められなかった。治療や支援が必要だと心底感じている」
自助グループや支援につながってからは、息子は7年間、1人で自立した生活を送ることができているという。
海外の薬物政策に詳しい立正大学の丸山泰弘教授は、犯罪化のデメリットとして「犯罪であることで全て思考停止になり、家族にも相談できず、医療機関にもかかれない」と説明する。
ポルトガルなどの欧米の薬物政策は、使用そのものを減らすことよりも、まずは薬物摂取用の針の使い回しによる健康被害など、使用によって起きる害を軽減しようとする「ハーム・リダクション」が進められている。
丸山教授は「欧米でも、初期使用はない方がいい、問題使用は減ったほうがいいと考えている」と断った上で、こう続ける。
「その先にあるのは、薬物使用で困っている人を減らしたいということで、効果的なのは刑罰ではなく教育。刑罰の害悪が多すぎて人権にも関わる話だ。大麻を今更罰則化するのは世界の流れにも逆行する」と反対を呼びかけた。
『大麻使用罪』創設をめぐっては、厚労省は「若年者の大麻使用が拡大している」との懸念から有識者会議を設置。『使用罪』がないことが「使用のきっかけになった」(5.7%)「ハードルが下がった」(15.3%)という、大麻所持容疑で逮捕された人へのアンケート結果を根拠に、『使用罪』創設が抑止力になるという考えを示している。
これについての見解を問われた丸山教授は「人の行動を変えるのは刑罰ではなく、教育というのが国際的な流れ。そうした流れを若い人も知り始めているのではないでしょうか。刑罰を使うと、同時に生じる害悪が大きい」と反論。
風間さんも「犯罪だろうと使う人は使う。抑止力になっていなかった証明が私です」と述べた。
『使用罪』創設に反対する声明は、「刑罰を受けるたびに再犯のリスクが高まる」「薬物使用者=犯罪者というレッテル貼りが、社会的排除と健康被害を拡大している」などと訴えている。
薬物依存症関連団体・支援者ら141人の連名で、厚労省に提出する。