「#KuToo」の石川優実さん勝訴。書籍でのツイート掲載めぐる訴訟、争点と裁判所の判断は?

東京地裁は石川優実さん側の主張を支持し、ツイート投稿者である原告の損害賠償や出版差し止め請求を棄却しました。原告側は控訴する意向を示しています。
司法記者クラブで会見する石川優実さん
司法記者クラブで会見する石川優実さん
HuffPost Japan

「#KuToo」運動の呼びかけ人である石川優実さんの著書にツイートを掲載され、著作権が侵害されたなどとしてツイートの投稿者が石川さんと出版社に対し約220万円の損害賠償や出版差し止めを求めた民事訴訟の判決が5月26日、東京地裁(佐藤達文裁判長)であった。佐藤裁判長は、ツイートの掲載は「適法な引用に当たる」などとして、原告の請求をいずれも棄却した。

どんな裁判なのか?

石川さんは2019年11月、著書「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」を出版。

職場などで女性のみパンプスやヒールを履くよう義務付けられることに異議を唱える「#KuToo」運動について綴った書籍で、第2章では「#KuToo バックラッシュ実録 140字の闘い」と題し、「#KuToo」運動や石川さんについて言及するツイートを掲載した。

ツイートは「#KuToo」運動や石川さんを批判したり、非難したりする内容で、書籍ではそれらのツイートを「クソリプ」と称し、それに対する石川さんの反論のツイートと解説を掲載していた。

裁判の原告は、書籍内で掲載されたツイートを投稿した匿名アカウントの持ち主だ。

訴状によると、投稿者は石川さんとは別のユーザーとの間でツイートのやりとりを行い、「逆に言いますが男性が海パンで出勤しても#kutoo の賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?」と投稿。

その投稿に対し、石川さんは「そんな話はしてないですね。もしも #KuToo が『女性に職場に水着で出勤する権利を!』ならば容認するかもしれないですが、#KuToo は『男性の履いている革靴も選択肢にいれて』なので」と引用ツイートした。

書籍には、これら2件のツイートと、投稿者に対する石川さんの反論コメントが掲載された。

争点とそれぞれの主張

原告の投稿者側は、ツイートは石川さんに向けて投稿したものではなく、ツイートの本来の趣旨は、やり取りをしていた別のユーザーに対し「職場における服装のTPOを理解させるために、極端な例を用いて説明を試みたものである」と主張。

ツイートの趣旨が意図的に歪められ、ツイートの掲載は著作権法で定められた「引用」の目的上、正当な範囲内においてされたものではないとして、著作権(複製権)を侵害していると訴えた。

また、ツイートに書かれた「#kutoo」という文字が、書籍ではハッシュタグの意味で用いられている「#KuToo」に改変されたとして、著作者人格権(同一性保持権)を侵害しているなどとも主張した。

一方、石川さん側は、ツイートを書籍で引用した目的は、石川さんや「#KuToo」活動に対する批判的なツイートを引用し、批評を加えることであると主張。

ツイートが「#kutoo の賛同者」を主語としているため、ツイートは「#KuToo」の賛同者に向けた批判であると指摘した上で、引用は著作権法上、正当に行われたものであると主張した。

また、「#kutoo」という文字が「#KuToo」と表示されたことは単なる誤植であり、原告の同一性保持権を侵害しないとも訴え、請求棄却を求めていた。

裁判所の判断は? 石川さん側の主張を支持

東京地裁は判決で、原告側の請求をいずれも棄却した。

これらの争点について、どう判断したのか。

ツイートの掲載が著作権法の引用に当たるか否かという点については、東京地裁は「適法な引用に当たる」と判断した。

判決文では、当該ツイートについて、「ツイートの趣旨が本件活動(編集部注:「#KuToo」活動)への批判・非難にあたることは明らかである」と指摘。「ツイートが本件活動を批判するものではないとの原告主張は採用し得ない」とした上で、引用は正当な範囲内で行われたと結論づけた。

また、「#kutoo」という文字が「#KuToo」と表記されたことについては、「書籍において『#KuToo』と変更することに特段の意味があるとも考え難い」などとした上で、「本件批評における『#KuToo』との表記は、『#kutoo』の誤記であると認めるのが相当である」と指摘。石川さん側の主張を支持し、投稿者の同一性保持権を侵害したとは認めることはできないとした。

また、原告側は、石川さんが書籍内でツイートについて「対面でこんなへんてこりんな人に会ったことない」などと表現したことについて、社会通念上許容される範囲を超えて、原告の名誉感情を侵害したとも主張していた。

この主張について、東京地裁は、「原告の名誉感情を侵害する部分があるとしても、これらの表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当するということはできない」と指摘。石川さん側に不法行為が成立するとは認められないとして、原告側の主張を退けた。

石川優実さん「自由に安心して言えるSNS環境を」

判決後、石川優実さんと代理人、書籍の担当編集者が司法記者クラブで会見を開いた。

代理人の神原元弁護士は、「他人の文章を一部引用して批判するということはよくあること。そういう場合に、『こういう趣旨ではなかった』とか、『一部を切り取られた』ということはよくあるが、こういうものが片っ端から全部違法だったら、著作権法32条の引用というのはほとんど不可能になります」と指摘。訴訟について、「声を上げた女性に対する不当な訴訟だと考えている」と批判した。

石川さんは会見で、「女性差別がありますよと言うだけで、こんなにひどいバッシングを受けるんだということを知ってもらうために、ツイートを引用してまとめました」と、書籍に込めた思いを語った。

しかし、Twitter上で「書籍は著作権法を違反している」とするツイートが拡散されたことで、書籍や自身に対する攻撃的なツイートを受け続けたという。

石川さんは、「これまで声を上げてきた女性たちがTwitterアカウントを消したり、鍵をかけたりということをずっと見てきています」と話し、「どんな人でもデマを流されたり、根拠のないことを言われたり、付きまといにあわず、自由に安心して言えるSNS環境を作っていくことが大事だと思っています」と述べた。

一方、原告側代理人の小沢一仁弁護士は、ハフポスト日本版の取材に対し、控訴する意向を示した。

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