「男女が同じ教室で着替えている」
「更衣室がなく、空き教室を使わせてほしい」
全国の小中学校・高校で、今なお「男女同室での着替えが行われている」との訴えが、ハフポスト日本版のアンケートに次々に寄せられました。
男女同室での着替えが社会問題になった2000年代、国は適切な対応を求める通知を学校側に出していましたが、一部の現場で改善されないままになっています。
なぜ状況は依然として変わらないのでしょうか?
教頭「小学校でも一緒だから習慣に」
「せめて空き教室を使わせてもらえたら…」
福岡県内の女性は、中学3年の娘が通う中学校では、今も男女が同じ教室で着替えをしていると明かします。「娘もはじめはびっくりしていましたが、今は仕方ないと言っています。私は男女で分けてほしい気持ちが大きいのですが…」
学校に取材したところ、男女同室で着替えていることは事実であると認めました。
教頭は取材に、「子どもたちは体育の授業がある日は、自宅から体操服を制服の下に着て登校しています。地元の小学校でも男女で一緒なので、同じ教室で着替えることは習慣になっています」と説明します。
さらに、教頭は「恥ずかしいという子は体育館の更衣室で着替えています」として、選べる環境にあると話しました。
一方で、女性の娘は「更衣室があること自体知らなかった」と証言します。
教頭は、男女同室の着替えをこれまで把握していなかったとして、取材に「職員間でもう一度話し合い、男女で分ける対応を検討したい」と述べました。
「下着が見えてしまう」「更衣室ほしい」 の声
更衣室がなかったり、あっても利用しにくい状況だったりして、子どもたちが男女同室で着替えることを強いられるケースは他にもあるようです。
ハフポストが2021年1月から行っている「理不尽な校則にまつわるアンケート」では、男女同室の着替えの改善を求める声が、児童や生徒、保護者などから次々に寄せられました。
<更衣室も用意してもらえず、男女一緒に着替えをします。空き教室がたくさんあるので、更衣室にしてほしいです。小学校の頃は男女別々で着替えていたので、なぜ中学校でやらないのか本当に疑問です>(13歳、埼玉)
<中学校では制服の下に体操着の着用が禁止で、体育の着替えは男女同室。男性教諭が自分の席で女子の着替えを凝視したり、男子生徒がにやにやしながら見ていることが毎日でした>(18歳、栃木)
中には、高校でも男女で一緒に着替えているという訴えもありました。
<私が通っていた高校は、現在も体育着に着替える際などに使用する更衣室がありません。なので、男女が同じ教室で着替えていました。
男子は気にせずにズボンを脱ぐし、女子は気をつけて着替えているようでもたまに下着が見えてしまうなど、ハプニングは沢山ありました。
トイレで着替えればいいと思う方もいるかもしれないですが、トイレだって大して広くないし、40人が一気にトイレで着替えられるわけがないので、結局はみんな教室で着替えていました>(18歳、群馬)
更衣室があっても、使いにくい環境にあったという声もあります。
<高校時代(2〜5年前)、女子のみ小さな更衣室はあったが、10分休みにそこまで着替えに行くことは出来ないくらい遠い場所にあったので、男子生徒と共に教室で着替えていた。更衣室を利用していた女子生徒は授業に遅れて叱られていた。
また、その更衣室は同時に10人入れば密になるくらいの広さのものが2つしかなかったが、中高合わせて女子生徒は900人以上在籍していた。実質的に、女子は男子と教室で着替えるしかなかった>(20歳、神奈川)
プライバシーや性被害の問題
そもそも、男女同室での着替えの何が問題なのでしょうか?
教育現場の問題に詳しい東京電機大の山本宏樹・准教授(教育社会学)は、第一に子どもの「プライバシー」の面での問題を指摘します。
「子どもの権利条約に明記されている通り、大人と同様に、子どものプライバシーは尊重されなければいけません。同じ空間での着替えに違和感を訴える児童や生徒がいる以上、学校は適切に対応する必要があります」
さらに、山本さんは「性被害のリスク」も挙げています。
学校現場での生徒同士の盗撮や、ネットへの画像流出といった問題は近年、相次いで確認されています。
「2021年度からは『GIGAスクール』の名の下に、1人1台のタブレット端末やパソコンが配付されます。更衣室を利用せず、普通教室で一斉に着替える場合、カメラ付きの端末を使った盗撮行為が起きやすくなることが懸念されます」
文科省、通知を出していたが…
男女同室での着替えは過去にも問題視され、国も対策を呼びかけていました。
「男女共同参画基本計画(第2次)」(2005年)は、男女同室着替えは「極めて非常識」とし、国が2020年までに周知徹底すると盛り込みました。
文科省は2006年6月、男女同室の着替えについて「児童生徒に羞恥心や戸惑いを感じさせる恐れも大きい」として、発達段階を踏まえた適切な対応を各教育委員会に求める通知を出しています。
文科省の「学校施設整備指針」でも、小中高の更衣室について「同時に使用する児童(生徒)数に応じ、男女別に更衣できるよう、ロッカーの必要な数及び配置に留意した面積、形状等とすることが重要である」と示しています。
こうした国からの繰り返しの呼びかけにもかかわらず、根本的な解決に至っていません。
山本さんはその理由として、ハードとソフト両面での課題を挙げます。
「男女別の生徒用更衣室は、実際にはほとんどの学校で設置されているはずです。ただ体育館やプールに併設されている場合が多く、短時間で移動と着替えを行う必要性が考慮されていません」
教員側の意識の問題もあると、山本さんは指摘します。
「教師が疑似家族的な学級共同体を目指そうとするあまりに、『家族のようなものだから気にする方がおかしい』として、生徒が性的関心を持ち得るという事実から無意識に目をそらしている場合もあります」
山本さんによると、普段使用しない空き教室など教員の目の届きにくい部屋は、トラブル防止のため施錠して立ち入りを禁止しており、「更衣のたびに教員が鍵を開ける対応を取ることが難しい」という学校もあるといいます。
改善するため、できることは
どうすれば、全ての児童や生徒が学校で安心して着替えられる環境にできるのでしょうか。
山本さんは、まず国の役割として、「学校設置基準」や「学校施設整備指針」で、実用に耐える更衣室の設置を必須とすることを提案します。
「最大の問題は、校舎が利用者目線で設計されていない点ですので、国が最低限の基準を示すことがまず必要です。男女で分ければ解決、というわけではありません。多様な性のありように対する認識も高まっており、児童生徒が必要に応じて個室の更衣スペースも利用できるように配慮することが求められます」(山本さん)
自治体や学校レベルでできることもあります。
「教育委員会が実態調査を行い、男女同室の着替えが解消されるよう施設の整備を進めるべきです。学校も、空き教室を更衣室として活用するほか、体育を2コマ連続授業にしたり、昼休みと連続する形で配置したりするなどして着替えのための時間を確保する工夫が必要でしょう」
子どもの声、吸い上げるチャンネルを
男女同室の着替えに限らず、様々な「ブラック校則」の問題が明らかになっています。
「子どもが感じた困難や不安感を、自治体や教育委員会に伝えるチャンネルがほとんどありません」と山本さん。
一部の自治体では、いじめや虐待など子どものSOSを第三者機関が受けつける「子どもオンブズパーソン」という制度を導入しています。
山本さんは、こうした子どもの声を吸い上げる取り組みが各地に広がることで、男女同室の着替えなどの問題も改善につながりやすくなると提言します。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)
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