東京都豊島区の生命保険代理店に勤務していた男性が、同性愛者であることを上司から同僚に暴露(アウティング)されて精神疾患になったとして、4月27日に労基署に対して労災申請した。
申請後の記者会見で、男性は「私と同じような体験をして、泣き寝入りする人をなくすためにも、労災認定を勝ち取りたい」と訴えた。支援者によると、アウティング被害による労災申請は「極めて珍しい」という。
■アウティングの経緯は?
男性は2019年、豊島区内の生命保険代理店に入社した。入社前の採用面接で、業務に必要な書類に記入するとき、緊急連絡先として「同性パートナーの連絡先を登録したい」と会社側に伝え、自らの性的指向もカミングアウトした。
「同僚には自分のタイミングで、自分から伝えたい」との要望も伝えていたが、その後上司から別の従業員に対して、同性愛者であることを暴露された。
男性は、「『自分から言うのが恥ずかしいと思ったから、俺が言っといたんだよ。一人ぐらい、いいでしょ』と上司に笑いながら言われた」と証言する。
男性は従業員から無視をされたり、避けられたりするようになった。男性は同年12月に心療内科で抑うつ状態と診断された。男性はその後、職場を退職した。
区の苦情処理委員のあっせんの結果、会社側は男性に謝罪し、解決金を支払うことで2020年10月末に男性と和解した。今回の労災申請について、会社代表はハフポスト日本版の取材に「できることは協力したい」と話した。
男性は会見で、「アウティングによって生活しづらくなり、人を信じられなくなる。被害を社会的に広く知ってもらえたら」と話した。
認定されるかは不透明
アウティング被害による労災申請は、ほとんど例を見ない。その背景として、男性を支援するNPO法人「POSSE」の佐藤学さんは、申請手続きで性的指向などの個人情報が外部に知られることへの心理的なハードルの高さなどを指摘する。
労災として認められることの意義について、佐藤さんは「職場でアウティング被害にあっている多くのLGBTQ当事者が公的な補償を受けられたり、企業側に責任を追及しやすくなったりする」と強調する。
ただ、アウティング被害で労災と認定されるかは不透明だ。
厚労省が公表している『精神障害の労災認定』には、「人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がないまたは業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」を認定基準の具体例として挙げている。一方で、性的指向や性自認の暴露というアウティング行為そのものは明記されていない。
佐藤さんは「職場でアウティングが起きたときに、救済されるかは非常に不確実。その一方で被害自体は社会に広がっていて、それで良いのかということを問いたい」と述べた。
今回のアウティング被害による精神疾患の発症を労災として認定するよう、厚労省に対して求めるネット署名もスタートした。
アウティングは「パワハラ」 禁止条例も
本人の了解を得ずに性的指向や性自認を第三者に伝えるアウティングは、された本人に深刻な精神的苦痛を与える。
2015年には、一橋大法科大学院の男子学生が同級生にゲイであると暴露された後、転落死する事案が発生した。
性同一性障害で性別変更をしたことを勤務先の病院で同意なく明かされ、同僚から差別的言動を受けたとして、大阪市の女性が19年8月、病院側に損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
2020年6月には、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行された。厚生労働省の指針では、アウティングのほか、性自認や性的指向を侮辱する言動(SOGIハラ)もパワハラとみなされ、これらの防止策は全ての企業に義務付けられる。
自治体でも対策が始まっている。
アウティング禁止をめぐっては、東京都国立市が2018年4月、アウティング禁止を全国で初めて条例に明記した。三重県議会は3月、都道府県レベルで初となる条例案を全会一致で可決した。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)