4月22日夜から、気候危機対策について話し合うアメリカ政府主催の首脳会議(サミット)が始まった。気候変動に危機意識を持つ若者らは、2030年の温室効果ガス削減目標を大幅に引き上げ、「62%」とするよう日本政府に求める抗議活動を行っている。
同日夕方には、高校生や大学生など若者らが中心に東京・霞が関の経済産業省前に集まり、抗議のスタンディングを行った。2人の女性アクティビストは政府に声を届けるため、5日間にわたるハンガーストライキを実施している。
なぜ今、声を上げるのか?
日本も参加するパリ協定は、地球温暖化防止のため、「地球の平均気温上昇を2度より低く保ち、可能なら1.5度以下に抑えるよう努力をする」ことを目標に掲げている。
そのために「21世紀の後半に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにすること」が求められており、各国は排出量の削減目標(「NDC」という)を定めるよう義務付けられている。
菅義偉首相は、このパリ協定に基づき、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことを宣言。
そして、4月22~23日に開催されるアメリカ政府主催の気候サミットで、「2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度比で『46%』削減する」という目標を掲げることを表明した。
政府はこれまで2030年の削減目標を「26%」としていたため、大きく引き上げたことになる。菅首相は「野心的な目標」だと意気込んだ。
しかし、気候危機に声を上げる若者や有志は、「46%」では足りない、と訴える。
求めているのは、2030年までの削減目標を「62%」以上とすることだ。
なぜ「62%」なのか?
「62%」は、各国の気候対策について分析する国際研究機関「クライメート・アクション・トラッカー」が示した数字だ。
同機関は、日本がパリ協定を達成するためには、2030年までに少なくとも2013年度比で「62%の排出量削減が必要」だと指摘。
その実現のため、温暖化ガスの排出量が多い石炭火力発電を2030年までに廃止し、再生可能エネルギーのシェアを60%以上に引き上げる必要があるとしている。
菅首相が新たに表明した「46%」はこの目標値を下回っており、アメリカや欧州連合(EU)、イギリスなどと比べても、削減率は低い。(参考:サステナブル・ブランド ジャパン)
「若い世代が声を上げている。この現状は本当はおかしいこと」
「日本は45〜50%といったところで妥協点を探そうとしていますが、このままでは未来を守ることができません」。
4月22日、経産省前で抗議のスタンディングを行なった高校3年生の山本大貴さんはそう訴えた。
この日集まったのは、「NDCを62%にしてください」などのメッセージが書かれたプラカードを持った若者たち。本来は全国各地で自由参加を呼びかけ、デモ行進する予定だったが、東京都や大阪府などが緊急事態宣言を要請したことから、デモは中止となった。
山本さんは、学校を休んで参加した。グレタ・トゥーンベリさんから世界に広がったムーブメント「Fridays For Future」の日本団体の一員で、気候危機を訴える音楽イベント「Climate Live Japan」の共同代表を務めている。
「気候変動問題に対して、これまでいろんな人がいろんなところで声を上げてきましたが、本質的なところは何も解決されていない」と山本さんは指摘する。
「気温は上昇し、豪雨や熱波、降雪、異常気象が毎年のように発生しています。すでに緊急事態となっているのに、政府は抜本的な政策の見直しを行おうとしていません」
「一人ひとり市民が声を上げて、政策決定に自分の意思を表明することがとても重要だと思っています。僕たち若い世代が声を上げている。この現状は本当はおかしいことなんです。今の大人たちが作ってしまったこの世界に対して責任を持っているのは、本来であれば今の大人のはずです」
気候変動の問題は、この先の未来に関わる問題だ。「危機感を持ってこの問題に取り組んでほしい」と呼びかけた。
「再エネで頑張っていこう、としていれば...」
若い世代に向けて政治、時事、環境問題などを発信する「NO YOUTH NO JAPAN」の代表を務める能條桃子さんは、「ここから先の10年でどう変わっていけるか、今はその分かれ目にいる」と訴えた。
「311の後、もっと日本が気候変動対策にもちゃんと取り組み、火力発電に移行せず再生可能エネルギーで頑張っていこうとしていたら、いま私たちはこんな風に声を上げる必要はなかったと思います。
でも、10年間が過ぎてしまった。ここから先の10年がどう変わっていけるか、その分かれ目にいると思うので、ぜひ皆さんに関心を持ってほしいです」
食べないことで、平和的に抗議する。ハンストを始めた2人の女性
中には、抗議のためにハンガーストライキを実施するアクティビストもいる。
古着ショップ「DEPT」代表のeriさんと、気候アクティビストでモデルの小野りりあんさんは、4月19日からの5日間、水と塩のみを口にする「ピースフル クライメイト ストライキ」を行なうことを決めた。
「切実な思いをどうやったら伝えられるだろうかと思い、ハンガーストライキをしようと決めました」。
小野さんはそうスピーチした。
「この声をしっかり聞いてほしいですし、政府の中にいる、本当はもっと目標を引き上げたいという方々の声を加速させることになってほしい。みんなで生きていける未来のために野心的な変化を、政府だけじゃなく、私たちもやっていこうということを伝えたい」
最後の24時間は、連帯のためハンストへの参加者も募集
eriさんは、「気候変動によって影響を受ける人は、若者やマイノリティーの人たち。影響を受けやすい国に住む人たちです」と指摘する。
温暖化がもたらす海面上昇や自然災害、異常気象などでまず深刻な被害を受けるのは、発展途上国の貧しい人たちだと言われている。気温上昇の原因となる温室効果ガスは、工業化が進んだ先進国が多く排出しているにも関わらず、だ。
そして、貧困層や女性、障害者、子供、性的マイノリティーなどは、災害時にとりわけ脆弱な立場にいると指摘される。
eriさんは、「何も食べないことで、平和的でありながら、私たちの強い意志を表現できる。そう思ってハンガーストライキという手段を選びました」と話す。
「政府への呼びかけでもありますが、私たち市民がこうやって立ち上がって声を上げることがとても大事なんだということを伝えたい」
4月22日夜8時から23日夜8時までの24時間は、より大きなムーブメントとするため、参加者を募る「#共鳴のハンガーストライキ」を行う。
小野さんとeriさんによると、すでに350人以上が参加を表明しているという。
体調が優れない場合は速やかにハンストを中断するよう求めており、「#気候危機を止めよう」というハッシュタグをつけてTwitterやInstagramに思いを投稿したり、応援メッセージを寄せたりするよう呼びかけている。
また、Twitterでは、「#温室効果ガス削減目標の大幅引き上げを求めます」とのハッシュタグも広がっている。