性犯罪に関する刑法改正を話し合う法務省の検討会が4月12日に開かれ、これまでの議論を取りまとめた報告書案が提出されました。
2020年6月からスタートし、14回にわたり議論が重ねられた検討会。
性交同意年齢の引き上げは?暴行・脅迫要件は見直される?
報告書案の主なポイントをまとめました。
<取りまとめ報告書案、6つのポイント>
✏️ 1)暴行・脅迫要件の見直し
✏️ 2)地位・関係性を利用した性犯罪の新設
✏️ 3)性交同意年齢の引き上げ
✏️ 4)「男性器の挿入」要件
✏️ 5)配偶者間の性暴力
✏️ 6)時効の撤廃や延長
報告書案では、委員の間で意見の方向性が一致した内容だけでなく、賛否が分かれた点に関しても、それぞれの主張や反論などとして盛り込まれました。
✏️ 1)暴行・脅迫要件の見直し
今の強制性交等罪の「暴行・脅迫」と、準強制性交等罪の「心神喪失・抗拒不能」の要件をめぐっては、立証のハードルの高さや表現のあいまいさから、被害を認定されにくく実態に見合っていない問題が指摘されています。
報告書案では「安定的で適切な運用に資するような改正であれば、検討に値するという点ではおおむね異論はなかった」として、改正に前向きな見方が示されました。
改正の具体的な内容としては、「単に被害者の『不同意』のみを要件とすることには、処罰の対象を過不足なく捉えることはできるかという点で課題が残る」として、「処罰範囲がより明確となる要件を検討する必要がある点でおおむね異論はなかった」と結論づけています。
犯罪成立の要件の明確化も、検討会の論点の一つでした。
報告書案では、「運用のばらつきをなくして安定したものとするため、手段や状態を列挙する」「列挙された手段・状態以外の場合を捉えられるようにするため、包括的な要件を設ける」といった点では意見がまとまったとしています。
一方で、包括的な要件として、いわゆる不同意性交にあたる「その他意に反する性的行為」という文言にするかについては意見が分かれています。
✏️ 2)地位・関係性を利用した性犯罪の新設
2017年の刑法改正で新設された監護者性交等罪は、「現に監護する者」とする監護者の範囲が狭いなどの課題が積み残されていました。
(地位・関係性を利用した性犯罪に関する詳しい記事はこちら⬇️)
報告書案では、「性交同意年齢(13歳)には達しているものの、意思決定や判断の能力がなお脆弱といえる若者に対する性的行為について、その特性に応じた対処の必要があることについては認識が共有された」としています。
ただ、具体的な規定については、監護者の範囲をきょうだいや親族などに広げるか、教師の場合は同意の有無を問わず一律に処罰するべきか、といった点で意見が分かれています。
報告書案では、被害者が若年であることや障害者であることに乗じた罰則を新設する場合、被害者の属性などに加え「意思決定に影響を及ぼしたといえる実質的要件を設けることを含め、適切な構成要件のあり方についてさらに検討がなされるべきである」と結論づけました。
✏️ 3)性交同意年齢の引き上げ
「性交同意年齢」とは、性行為をするか否かを自ら判断できるとみなされる年齢の下限のこと。この年齢に達しない子どもと性行為をした場合、同意の有無を問わず処罰の対象となります。
日本は、明治時代から100年以上変わらず「13歳」のままで、海外と比べても低いことが指摘されています。
検討会では、「少なくとも義務教育を受けている者は保護されるべき」として16歳まで引き上げることを求める意見や、結婚前の交際中の性行為は処罰すべきではないとして「13歳のままで良い」と主張する反対意見もあり、賛否が分かれました。
報告書案では、性交同意年齢を引き上げる場合には、「刑事責任年齢(※)との関係を含め、犯罪とすべきでない行為が処罰対象に含まれることのないよう、具体的方策とともにさらに検討がなされるべきである」とするにとどまりました。
(※)刑法41 条は「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めている。
(性交同意年齢に関する詳しい記事はこちら⬇️)
✏️ 4)「男性器の挿入」要件
検討会では、強制性交等罪の対象となる行為の範囲拡大も話し合われました。
同罪は、男性器(陰茎)を膣・肛門・口腔内に挿入するまたは挿入させる行為を処罰の対象としています。
一方で、指など男性器以外の体の一部や物を挿入する行為は「強制わいせつ罪」の処罰対象となるものの、強制性交等罪は適用されない問題がありました。
(対象行為の範囲に関する詳しい記事はこちら⬇️)
報告書案では「改正する場合には、挿入するものや部位の性質などに鑑み、その当罰性や悪質性に応じた処罰が可能となるよう、適切な構成要件や法定刑のあり方についてさらに検討がなされるべき」としています。
✏️ 5)配偶者間の性暴力
配偶者間で起こる性暴力について、検討会では、刑法の条文に明確に盛り込む方向で意見がまとまりました。
報告書案では、「解釈上の疑義を払拭するための確認的な規定を設ける方向で検討がなされるべきである」と提言しています。
✏️ 6)時効の撤廃や延長
強制性交等罪の公訴時効は10年。被害者の年齢が幼かったり、精神的なショックで長期にわたり記憶をなくしたりして、時効成立後に被害を認識するケースも数多く報告されています。
(性犯罪の時効に関する詳しい記事はこちら⬇️)
こうした実態を踏まえ、検討会では時効の撤廃や延長についても議論されてきました。
撤廃に関しては、委員から「殺人罪のように、時間の経過により犯人が一律に処罰されなくなることは不当であるという意識が国民の間で広く共有されているかについては疑問がある」との声が上がっています。報告書案では、こういった撤廃に慎重な意見に対する「特段の反対意見はなかった」としています。
さらに、延長をめぐっては「公訴時効の完成を遅らせる改正をする場合、一定の年齢未満の被害者については、若年であることに伴う脆弱性が原因となって被害の認識や申告に困難を生じることを踏まえる一方、証拠の散逸や法的安定性にも留意しつつ、具体的な方策のあり方についてさらに検討がなされるべきである」と盛り込みました。
これら6つのポイントを含む取りまとめ報告書案をもとに、検討会の委員の修正意見を反映した上で、最終的な報告書が今後法務省に提出されます。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)