「FEILER(フェイラー)」というブランドをご存知だろうか。
名前でピンと来なくても、“黒地に花柄のハンカチ”と聞けば、「知ってる!」となる方は多いと思う。
上の世代の方向けの、クラシックなブランドーー。
そう思っていたら、なんだかすごく変わっていた。
ポップな商品が、ルミネエスト新宿やエチカ表参道に並び、公式Instagramのフォロワーは8万人を超えている。
「何があったんだろう」
興味が止まらず、聞きに行ってきました。
「見てこのかわいい柄!」「イメージ変わった」
「フェイラーといえば」と言われたら、思い浮かべる方が多いであろう柄がこちら。
華やかでありながら深みのある、上品な色合いが特徴的だ。
こういったテイストの商品も引き続き販売中だが、メインターゲットをより若い世代に設定したデザインが出てきている。
Twitterでもこのような反応が見られる。
「年齢層お高めのイメージだったんだけど、見てこの凄いかわいい柄!全部欲しい!」
「マダムのイメージが強いフェイラーですが、『ラブラリー バイ フェイラー』ラインはかわいくって…」
「最近は今風の柄を作ったりしてて、かわいいんだよね」
「今はかわいい柄の物が多くて、イメージ変わった」
「お客様が、『かわいい』『変わった』と思われた感覚は間違っていないと言いますか、“そう感じていただく”ことを狙いでやってます」
そう話すのは、フェイラージャパンの川部将士社長だ。
まさに「リブランディング」に取り組んできたのだと説明する。
そもそもフェイラーとは?
フェイラーは、シュニール織のブランドだ。シュニールとはフランス語で「(蚕などの)いも虫」をさすといい、使われている糸がプクプクとした質感であることから、そう呼ばれるようになったといわれている。
工場は、ドイツの東部、チェコとの国境近くにあるホーエンベルクに位置する。
フェイラージャパンは現在、住友商事の事業会社として、ドイツ「FEILER」の輸入・企画・販売を行っている。ハンカチやバッグ、ポーチ、エプロンなどを手がけており、フェイラージャパンで扱う商品のほとんどが日本オリジナルのデザインで、織物はドイツの工場で生産されている。
フェイラーの日本での販売は、1972年に始まった。デパートを中心に販売し、バブル期の1980年代後半から人気が広がり、その後も根強いファンに支えられてきた。
しかし、内部には危機感があったという。
住友商事でドラッグストア事業やアパレル事業に携わり、2016年に現・フェイラージャパンの社長に就いた川部氏はこう話す。
「2010年代前半時点で、お客様の半数以上が60代以降で、下の世代には広がっていないというのが実態でした。着任時に社内で話をきいてみると、『幅広い世代に愛されるブランドになりたい』というのが社員の総意だったんです」
始まった「リブランディング」
リブランディングの動きは2013年から始まっていた。しかし、デパートの売り場内で新旧テイストの商品を混在させた場合、以前からの顧客は「変わってしまった」と感じ、一方の新規顧客には変化が伝わりにくく、思うようにはいかなかった。
以前からの顧客を大切にする一方で、ラフォーレ原宿や渋谷ロフトに期間限定ショップを開き、若い世代をターゲットにした商品を販売した。
その中で、「ハンカチとしては若い世代には高価。ギフトとして打ち出した方がよい」とコンセプトが固まっていき、新ライン「LOVERARY BY FEILER(ラブラリー バイ フェイラー)」が立ち上がった。現在、東京、大阪、福岡など全国に12店舗を展開している。
ラブラリー バイ フェイラーでは「ポップでキュートな色柄」の商品を展開し、フルーツ、リボン、パフェなどのかわいらしいものから、覆面ファイターや寿司などクスッと笑ってしまうような柄まで揃う。
PR担当の吉野陽子さんは、「フェイラーの精神には『お客様に、明日への一歩を踏み出す勇気を与えられたら』というものがあり、その流れの中に、『クスッと笑えるものを』という考えがあります」と説明する。
一つの柄に使えるのは最大18色。その中で、デザイナーたちがユニークなテイストにチャレンジしているのだ。
このラインが発足した2015年ごろから、30〜40代にも客層が広がり始めたという。
Instagram フォロワー8万人に
リブランディングを支えてきたのが、Instagramの存在だ。
銀座に直営店を構え、ラブラリー バイ フェイラーも立ち上げた2015年に公式アカウントを開設し、2016年末ごろから強化を始めた。この頃のフォロワーは2000人程度だったという。
ここから、積極的なコミュニケーションを通じてインスタ上での存在感を増していった。
「#フェイラー」とつけて投稿してくれた人にお礼コメントをしたり、フォローしたり。インスタで繋がったファンを招いたパーティーも開いた。
「パーティーで顔を合わせたファンの方同士が語り合い、よりフェイラーを好きになって発信し、広めてくださった。ファンの存在が、最近のフェイラーの成長の一番の力になったと思っています」(川部社長)
そもそも、商品とインスタの相性もよかった。正方形のハンカチは、インスタの四角い画像枠にぴったりだった。
また、華やかな柄たちは、インスタ投稿の「背景」にも活用された。イチゴ柄のハンカチをイチゴパフェと撮影したり、桜柄のハンカチをスターバックスの「SAKURAシリーズ」のドリンクと撮ったり、という風に楽しまれているのだ。
「高い技術力が背景にある製品ですが、『情緒的な価値』を発信していくという面で、ビジュアルが伴うInstagramというツールは非常に効果がありました。我々としても世界が広がっていく中で、戦略が立てやすくなりました」
フォロワーは現在、8万人を超えている。
ファンたちが生み出した“記念日”
ファンたちのつながりは、思いもよらない展開にも広がった。
鳥やてんとう虫が描かれた人気柄「ハイジ」を愛するファンたちが生んだのが、8月12日「#ハイジの日」だ。
自然発生的に始まった動きで、ファンたちは毎年この日、お気に入りのハイジ柄の商品の写真に「#フェイラー」「#ハイジの日」というハッシュタグをつけて投稿する。
2017年に始まったといい、2018年からはオフィシャルも参加してイベントなどを行い、2020年はファン参加型企画でハイジ柄の新しいバッグを開発した。
オフィシャルキャラクター「リーベ君」の誕生日(4月25日)にもファンたちが自発的に集まり、お祝いの様子がインスタにアップされていく。
川部社長は、ファンたちのインスタへの投稿を、「とても嬉しいです。『ありがたい』としか言葉がないです」と話す。
「掛け値なしに、フェイラーはファンの方あってのブランドです。最近感じているのは、これは『物を売るビジネス』ではなくて、エンターテインメントビジネスだということ。それぞれの柄が持つストーリーに共感していただき、お客さまに楽しんでいただきながら、みんなで育てていくということをもっとやっていきたいです」
顧客と共にブランドを育てる、という考えの背景をこう説明する。
「世代を超えてお客様に愛されてきた。これからもそうしなければいけないという使命感が私たちにはあります」
「お客様は『親が使っていた』『おばあちゃんが使っていた』ということでブランドを信頼して下さり、子どもにも引き継いでいきたいと思って下さっている。これからもブランドを続けていくために、お客様との共感、お客様とともにブランドを作っていくという価値観がすごく大事だと思っています」
SNSだけではなく、サンリオ、ANA、JAL、メルセデス・ベンツなどとのコラボも実現することで「タッチポイント」を増やしてきた。「体験の場」としての店舗も引き続き重視する考えだ。
「『私がフェイラーの魅力を分かる年齢になったのかな』というお客様の反応をSNSでお見かけしますが、これは、自分たちの『立ち位置』として受け止めています。リブランディングはアーリーアダプターに浸透できた段階であり、次はアーリーマジョリティにどう広げていくか、というステージにブランドとして立っているのだと考えています」
3月に新ラインも登場
2021年3月には、30〜50代を主なターゲットとした新ライン「FEILER CLEAR LABEL(フェイラー クリアレーベル)」も始動した。
コンセプトは「もっと自由に、もっとHappyを。」で、ライフスタイルに寄り添ったアイテムを発表していくという。
(湊彬子 @minato_a1 ・ハフポスト日本版)