ジェンダー平等で世界の水準から大きく遅れをとる日本。
3月31日に発表されたジェンダーギャップ指数(2021)でも世界120位と低迷が続いています。その最たる要因が政治分野での評価の低さです。
長年にわたって問題が指摘されながらも、状況が放置され続けている政治分野のジェンダーギャップは、どうすれば埋めることができるのでしょうか。
まずは現在地点を知ることから始めてみませんか?
<この記事に書かれていること>
☑️ 世界と日本の国会、女性議員の割合はこう変わってきた
☑️ 国政選挙の女性候補がゼロの都道府県は?
☑️ 女性議員の割合が低い都道府県議会、ワースト5は?
☑️ なぜ日本は女性議員が少ない?専門家に理由を聞いた
これは、列国議会同盟(IPU、本部ジュネーブ)の調査をもとに、1997年から2020年までの下院(日本では衆議院)における日本と世界の女性比率がどう変化したかを比較したグラフです。
23年間で、世界平均は11.7%から25.6%まで増えているのに対し、日本は4.6%から始まり、9.9%までの伸びにとどまっています。
日本の衆議院で女性が増えたのは、2005年の郵政選挙と2009年の政権交代のタイミングです。
2005年の総選挙は、自民党の小泉純一郎総裁(当時)が、郵政民営化に反対した造反議員に対して党の公認を与えず、「刺客」を送った選挙です。地縁がない「落下傘候補」の中には女性も多く、党主導で送った新人の女性候補は比例の上位にも登載されたため、女性議員の比率は初めて9%台に達しました。
女性の衆院議員が最も多く誕生したのは、民主党が政権を奪った2009年の総選挙です。54人が当選し、初めて比率が1割を超えましたが、2012年に自民党が政権を取り戻したタイミングで再び下落。
こうしてみると、世界が着実に歩を前に進める間、日本は15年間も1割前後を低迷していることが分かります。
これは、総務省のデータをもとに作成した、直近の衆院選(2017年)と参院選(2019年)における都道府県別の女性候補者の割合を示した地図です。色が濃いほど女性候補者の割合が高くなっています。
衆院選を見ると、富山▽和歌山▽鳥取▽香川▽高知▽佐賀▽宮崎ーーの7県で女性候補がゼロ。
参院選では、岩手▽富山▽石川▽福井▽長野▽岐阜▽和歌山▽岡山▽徳島・高知▽佐賀▽大分▽宮崎▽沖縄ーーの14県(徳島・高知は合区)で女性候補者がゼロとなっています。
富山▽和歌山▽高知▽佐賀▽宮崎ーーの5県では、衆参両院の選挙で女性候補者という選択肢がないことがわかります。
女性議員が少ないのは、国政の場だけではありません。
このグラフは、各都道府県議会の女性比率を示したものです。こちらは、色が濃いほど女性比率が50%に近く、白いほど女性議員の比率が少なくなっています。
人口の半分が女性であることを考えれば、日本列島がもっと濃いピンクに染まるはずなのに、実際には白に近い状況の都道府県も少なくありません。
最も女性比率が高いのは東京都の29%。京都、神奈川も2割前後となっています。
最も女性が少ないのは山梨県で2.7%。熊本、大分、広島、香川、愛知も4%台です。
地域によって大きな差がある一方、組織の意思決定に影響力を持つようになるとされる「クリティカル・マス(決定的多数)」の3割を超える地域は一つもないのが現状です。
全国知事会によると、2021年3月時点で、47都道府県のうち女性が知事を務めているのは東京都と山形県だけとなっています。
女性議員が少ない理由
なぜ、日本の女性議員は依然として少ないのでしょうか。
内閣府が2017年、地方議会の女性議員4170人を対象に行った調査では、「地方議会で女性議員の増加を阻む3つの要因」として、以下の3つが挙げられています。
(1) 政治は男性のものという意識
(2) 議員活動と家庭生活の両立を支援する環境の未整備
(3) 経済的負担
政治とジェンダーに詳しいお茶の水女子大学ジェンダー研究所の濵田真里氏は、「性別役割分業の意識の根深さ」を指摘します。
「女性が立候補する時の壁として、家族からの反対や支援不足は大きいです。男性は家族の存在が『資源』になるのに対して、女性の場合、家族はむしろ時間と労力を割いてケアしなければならない傾向があります」
さらに、濵田氏は有権者やメディアの持つ「ジェンダー・バイアス」(性差に関する固定観念や偏見)の影響も大きいと話します。
「強いリーダー像を示す振る舞いをしたとき、男性議員の場合はプラスに評価されるのに対し、女性は『威張っている、女らしくない』などと批判の対象になりやすいです。メディアも『美人すぎる○○』と報じるなど、能力ではない部分をコンテンツ化します。それがジェンダー・バイアスを助長し、個人としての議員を評価されにくくしています」
このほか、濵田氏は、表に出にくい問題として、女性議員や候補者に対する「オンラインハラスメント」を挙げています。
「例えば、支持者や有権者から交際を求めるメッセージを一日に数十件も受信したり、プロフィールや日記を毎日送りつけられたりするなどの被害があります」
有権者や支援者の場合、議員側も被害を公表しづらく、多くは泣き寝入りを強いられている現状があります。こうした問題に対処する制度や仕組みはほとんどなく、女性が議員活動や選挙活動を続けにくい要因になっています。
なぜ政治の場に女性を増やすべきなのか
そもそも、どうして政治の場に、女性を増やす必要があるのでしょうか。
「数ありきで増やすことに意味はない」「女性が立候補しないのに、無理に女性を優遇するのはおかしい」という考え方をする人もいるかもしれません。
ただ、濵田氏は「こういった議論がされること自体が、ジェンダー平等の意識から遅れています」と指摘します。
「人口はほぼ男女半数にもかかわらず、意思決定の場で男性が圧倒的多数を占める政治体制は、民主的であるとみなせるのでしょうか」
男女平等の観点だけではありません。
「政治学の研究では、男女で関心事項や経験値、政策志向が異なることは明らかになっています」(濵田氏)
過去の歩みを振り返ると、女性議員が政治的に影響力を持つポジションに立つと、従来取り組まれてこなかったジェンダー平等や女性の人権などに関する政策が前進することが分かります。
例えば、女性候補者の割合が増加し、政党内の重要なポジションに女性議員がつくようになった1990年代から2000年代初頭にかけて、育児・介護休業法、男女共同参画社会基本法、ストーカー規制法などが成立。DV防止法(2001年)は、超党派の女性議員が推進した議員立法として制定されました。
濵田氏は「男性中心の組織では、女性が主な当事者となる問題が可視化されず、周辺化されやすくなります。女性議員が増えることで、そうした見過ごされてきた課題が政治の場で取り上げられるようになります」と指摘します。
「組織の中で女性比率が少ないと、男性との違いが強調されたり、女性という属性で見られたりします。女性が一定の比率を占めることでジェンダー・ステレオタイプから解放され、個人としての能力を発揮できるようになります」
【取材・編集/中村かさね、國崎万智 グラフ/田島将太】