3月31日に公表された「ジェンダーギャップ指数」で、日本は156カ国中120位となった。足を引っ張っているのは、相変わらず政治分野だ。
一方、総選挙が控える2021年は、状況を大きく変えるチャンスの年でもある。政治のジェンダーギャップをめぐる現状を、各政党はどう捉えているのか?
ハフポスト日本版は2021年2月〜3月、政党要件を満たしている9政党に対し、衆院選に向けての女性候補者の擁立目標や女性登用のための施策などについてアンケートを行った。
<この記事に書かれていること>
✔️ 次の衆院選、各政党の女性候補の目標は?
✔️ 「検討する」「議論する」の回答、若い世代はこう見ている
✔️ 女性の政治参画を阻むもの
✔️ 「票ハラ」対策している党は?
✔️ クオータ制、各政党の考えは?
次の衆院選、女性候補の目標は?
秋までに行われる衆院選に向け、女性候補の擁立目標を「設定している」と答えたのは立憲(30%)、国民(30%)、共産(50%)、社民(50%)の4党。
現在、衆院で女性議員割合が7.4%の自民党は「党内の機運は高まっており、さらに議論される見込み」と回答したが、今回の選挙では数値目標の設定は見送る予定という。
公明党も「次回以降、検討したい」として、今回は数値目標を掲げない。
維新は「単純に数値目標を設定するべきかどうかは、しっかりと検討すべき。数値目標だけが先走ることになれば、本人にとっても組織にとっても不幸なミスマッチが起こる可能性がある」と回答した。
多くの政党で、将来の数値目標も存在しない
衆院選に限らず、将来的な国会議員の女性比率について、政党内で数値目標が「ある」と答えたのは共産、国民、社民の3党。
このうち、共産と国民は、国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)が目標の一つに掲げている「203050」(2030年に全ての分野で女性の割合50%を目指す)に基づき、これを達成することを目指していると回答した。
自民と公明は「検討中」、立憲など他の政党も後ろ向きな回答が目立った。
女性を増やすための積極策、8政党が「必要」
数値目標の設定には各党の姿勢に濃淡がある一方、「女性議員を増やすために積極的な対策は必要か」という質問には、無回答の維新を除いて全ての政党が「必要」と回答した。
対策の具体的な内容は以下の通りだった。
「人材発掘と育成が急務。党女性局における候補者育成講座の開催など、即戦力を養成している」(自民)
「手厚くきめ細かな女性候補者支援、ジェンダー平等を実現するための法制化、政策提言を進める」(立憲)
「候補者や議員の学習機会の提供、相談窓口の設置、党内のジェンダーに関する学習、子育てや介護との両立など必要な支援が行われるよう努力している」(共産)
「『政治分野における男女共同参画推進法』を厳正に運用し、取り組みの実態調査や環境整備などを実施する」(国民)
「擁立段階から数値目標をしっかり示す」(社民)
「政党内のクオータ制、国会及び地方議会でクオータ制を導入する」(れいわ)
『検討する』『議論する』という言葉の無責任さ
秋までに行われる予定の総選挙は、2018年に議員立法によって成立した「候補者男女均等法」のもとでの初めての衆院選となる。
法律の趣旨は、男女の候補者の数ができるかぎり均等になるよう政党に努力を求めるものだが、実際の行動には政党によって差が出ることは2019年の参院選でも明らかだ。
今回のアンケートでもその傾向は顕著で、議席数の大半を占める自民党が「議論の見込み」では、国際的に女性議員の比率が少ない状況を変えることは難しい。
パリテ・キャンペーンで活動する青山学院大学の大橋侑來さんは、こうした姿勢について「『検討する』『議論する』という言葉の無責任さを感じています。まるで今その問題は重要ではなく、後回しにするものだという風にも聞こえます」と語る。
「私よりも前の世代から、女性の政治参画推進を訴え続けているのに、これだけ年月をかけても変わっていない。今の時代、本当なら女性がマイノリティであること自体がおかしいはずなのに、事実としてまだマイノリティのまま。変わる未来が想像つきません。何か引き金が必要だと思います」
一方、法律の実効性を高めようと、改正を目指す動きもある。超党派による議員連盟では、各政党に対し、現在は努力義務とされている候補者数の目標設定の義務付けを盛り込むことなどを検討している。
女性の政治参画に必要なのは、世代交代と活動しやすい環境作り
そもそも、何が女性の政治参画を阻んでいるのだろうか?
半数近くの政党が課題に挙げたのは、「立候補する女性がいない」ことと、「現職議員の存在」だった。
女性候補者を増やすのが難しい理由で、障壁・課題と感じているもの(複数回答)
・立候補する女性がいない 5党(自民、立憲、公明、国民、N党)
・現職議員の存在 4党(自民、立憲、公明、国民)
・「政治は男性がやるもの」という政治家の意識 1党(れいわ)
・「政治は男性がやるもの」という有権者の意識 なし
・地方組織の理解や協力を得るのが難しい なし
※維新は無回答
自由記述では、「現職議員の存在」に関連し、「確保が見通せる議席数との兼ね合いから、現職の男性議員の引退を伴う必要がある」(公明)という回答も。
また、
「意欲や能力を持つ女性候補者は多くいるが、家庭との両立など、実際に立候補し、議員活動に従事しやすい環境整備という点で日本社会で課題が多く、立候補の意欲をそいでいる場合がある」(公明)
「女性候補を増やすための国の制度(パリテ法、政党助成金の傾斜配分など)がない」(国民)
など、女性が議員活動しにくい社会の現状や制度面の不備を挙げる声もあった。
政治とジェンダーの問題に詳しいお茶の水女子大学ジェンダー研究所の濵田真里氏は、女性の立候補が少ないことの背景について、「選挙に立候補する上で男女間にハードルの差があること、そしてそれらの多くは性別役割分業意識に根付いていることがあります。まずはその差を埋めるための措置を取ると同時に、男性モデルを中心に作られている政党組織や、政治家の働き方を見直す必要があります」と指摘する。
有権者からのセクハラや「票ハラ」、対策は?
女性の政治参画を阻んでいる障壁には、ここ数年で問題が浮き彫りとなってきた有権者からのハラスメント行為もある。
アンケートでは、票の力を振りかざす「票ハラスメント(票ハラ)」やセクハラへの対策の有無も聞いた。
「対策をしている」と答えたのは、立憲、共産、N党の3党。
自民、公明、国民、社民、れいわーーの5党は、「今はないが、対策の予定はある」と回答した。
一方、濵田氏は「政党内に相談窓口があったとしても、政党の後ろ盾がなく最もハラスメントに遭いやすい無所属の女性議員たちが取り残されてしまう」と指摘する。
「SNSなどを使ったオンラインハラスメントの場合は、支援者や有権者からの被害が多く確認されていますが、女性議員に対するハラスメントの全体像としては、同僚議員や政治活動に関わっている人からのものが最も多いのが現状です」(濵田氏)
その上で、「政党内にハラスメントの相談窓口を設けるという対処方法もありますが、党内には相談しにくいという意見も女性議員たちからは出ています。そのため、被害を受けた時に相談できる第三者機関を政党の外に設置する必要があるのでは」と提案する。
「クオータ制」賛成は6政党、自民は「議論必要」
海外では女性議員を増やすため、候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」や、女性候補の割合によって「政党交付金の傾斜配分」を行うなど、様々な施策を打ち出している。
アンケートでは、女性国会議員を増やすそれぞれの施策について各政党の考えも聞いた。
クオータ制に「賛成」と答えたのは、自民、N党、無回答の維新を除く6党。理由として
「政治分野における男女共同参画の推進は、政治に多様な民意を反映させる観点から極めて重要」(公明)
「数値目標を立てないと曖昧になる」(社民)
「社会的意識の改革にとどまらず、制度上の措置が必要」(れいわ)
などの声が上がった。
一方、自民は「設定すべきとの意見の一方で、慎重な意見もあり、党内でのさらなる議論が必要」として賛否を明らかにしなかった。
N党は「努力義務という形で実現不可能な目標を立てること自体に疑問」として、クオータ制の導入に反対の立場を示した。
女性候補者の割合が高い政党に対して政党交付金を優遇するなど「政党交付金の傾斜配分」について、「賛成」は立憲とれいわだった。
れいわは理由に「女性議員を増やすための努力をしている政党にインセンティブを与えることは有効」と答えた。
「反対」は公明とN党。
公明は「政党の政治活動の促進、民主政治の健全な発展を目的とする制度の趣旨とそぐわない」などと反対理由を説明。N党は「男女平等に反して逆差別」との見方を示した。
(取材・編集 國崎万智、中村かさね/ハフポスト日本版)