プロバスケBリーグの川崎ブレイブサンダースはこの3月、天皇杯を制覇し、バスケ日本一のクラブになった。
長年の悲願だった目標を達成した2週間後。
さっそく新たな「目標」を実現させようとしていた。
それは、バスケやスポーツではなく、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の17目標だった。
3月27日と28日の「川崎市とどろきアリーナ」でのホームゲームを「&ONE days」として、会場運営や試合当日のブースなどで、17目標全てを網羅する取り組みを実施したのだ。
2021年はSDGsという言葉をよく耳にするようになった。
スポーツクラブがどんな形で取り組むのか。なぜ17目標を一気に取り組んだのか。
川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫社長に真意を聞いてみた。
まず、やってみる「チャレンジ姿勢」
元沢社長をはじめ、川崎ブレイブサンダースにはもともと、SDGsに特化したメンバーはいなかった。特別なノウハウがあるわけでもない。
そのため、2020年9月から始めた「&ONE」プロジェクトは「SDGs Challenge」と銘打って、挑戦する姿勢を全面に打ち出した。
『&ONE days』でも、試合会場を訪れるファンの前で「チャレンジする姿勢を見せたかった」と元沢社長は語る。
「私たち自身、選手も含めて、ファンの方にもSDGsを学びながらチャンレンジしてほしいという気持ちがあります。『17目標全部やるの』と言われるぐらいのことを私たち自身がやって、背中を見せるじゃないですが、それぐらいのことをしたかったんです」
後押しになったのは、プロジェクトのアドバイザーを務める慶應大学院の蟹江憲史(かにえ・のりちか)教授の言葉。
「SDGsの目標はみんな繋がっていて、ひとつひとつすごいことをやらなくてもよくて、ちょっとしたことでも、できるアクションをどんどんやった方がいい」
そんなアドバイスを受けて、まず、やってみることにした。
自然エネルギーによる試合運営や食品ロスへの取り組み、キッズのアリーナMC体験など。
17目標を全てを網羅する数々の施策を、この週末で取り組んだ。
やってみて分かること、思い違いも
17全部をやってみることで分かったことや、思い違いや方向転換もあったという。
例えば、キッチンカーで提供する容器を環境負荷の低い素材に変える取り組み。
今後も継続させるには、容器の単価が上がった分を補うため、どれほどの経済的メリットを生み出す必要があるのかが、定量的に把握できたという。
食品ロスを生かす取り組みは、当初は、会場で出る食べ残しや売れ残りを家畜の餌や肥料にしようと考えていたが、ある会社の社長との打ち合わせでこう言われた。
「家畜の豚はちゃんと管理されたものを食べるので、人間が食べ残したものは(そのまま)食べないと。かなりの量がないと物流的に成り立たないなど、いろんなインプットもあって、断念しました」
その社長からのアドバイスをもとに、賞味期限が近づいた食品を客から回収し、フードバンクに寄付する取り組みにかえたという。
消費者庁の担当者と話す中で、「食品ロス」と「フードロス(food loss)」という言葉の“誤用”にも気付かされた。
「私がフードロスと言っていて、(食品ロスと)言葉を混在して使っていました。『フードロスは定義がちょっと違うです』と言われて、初めて気づく、といったことがたくさんありました」
日本では、本来食べられるのに廃棄される食品のことをさして「食品ロス」「フードロス」と呼ばれているが、英語圏で用いられる「フードロス(food loss)」は、サプライチェーンの中の供給業者の決定や行動による食料の損失をさしている。
小売業者や外食サービス、消費者の行動による損失は「フードウェイスト(food waste)」と呼ばれ、日本語の言い回しや定義と異なっている。
元沢社長は「相当学びが多かったです」と振り返る。
スポーツクラブがなぜSDGs?
そもそも、どうしてスポーツクラブがSDGsに取り組むのか。
クラブ経営に欠かせない地域とのつながりを考えた時に、元沢社長は以前から「何か足りない」と感じていたと明かす。
Bリーグ発足時から強豪クラブで、日本一に上りつめた強さや、観客動員も好調で人気もある。絶え間なく動く勝敗や人気だけに頼るわけにはいかなかった。
「常に優勝し、素晴らしい選手やスタッフが毎年いれば別ですが、チームが弱くうまくいかない時期が絶対ある。その時に応援してくれる市民や地域とのつながりがないと経営が立ち行きません。放映権だけで食べていける時代はとっくに終わっていると思います」
欠けていたのは、地域の社会課題への姿勢だったという。どう主体的、継続的に取り組むことができるのか。
「コロナ前からも考えていました。SDGsの概念が、社会や環境課題を取り組みながら経済もしっかり回すというが、私の中でピッタリはまって、これなら継続的、主体的にできるのではないか」
スポーツと相性の良い3番の「すべての人に健康と福祉を」と、5000人規模の試合会場を市民表彰の場に活用するといった8番の「働きがいも経済成長も」を軸に、「& ONE」プロジェクトを始動させた。
スポーツクラブの最大の特徴は、選手がいること。選手たちとは、バスケを文化にしていくための活動だと目線を合わせて、自分たちの言葉で伝えてもらうようにしている。
「例えば私がSDGsと言ってもファンの方は耳を貸さないけど、篠山竜青選手や辻直人選手が発信するとファンの心に直接響く。一緒になって取り組もうと選手に言われることで、やってみようとなるファンもたくさんいると思う。それがスポーツクラブとSDGsの相性の良さだと思います」
&ONE daysの様子を写真で紹介します。