アメリカのスポーツブランド・ナイキは、自社のサプライチェーンでウイグル族や少数民族出身者に対する強制労働は行われておらず、新疆ウイグル自治区産の原材料も使用していないとする声明を発表した。発表した時期は不明。
ナイキはこれまでに、オーストラリア戦略研究所(ASPI)の報告で「山東省の工場でウイグル族労働者が強制的に働かされている」などと指摘されていたが、これを否定した形となる。
この声明には中国で猛反発が起きており、すでに通販サイトから商品が消失したスウェーデン・H&Mに続いて、大規模な不買運動に発展する可能性がある。
■報告書で名指し
オーストラリア戦略政策研究所は2020年3月、少なくとも83の世界的企業が、ウイグル族らを強制的に労働させている工場と取引があったと指摘。名指しされた企業にはナイキも含まれ、このうち山東省の靴工場では「600人以上が働いており、夜間は北京語を学び、中国国歌を歌わされている」などとしていた。
これに対しナイキは声明で、強制労働に関する報告に「懸念」を表明。継続的な調査の結果「我々のサプライヤーは新疆ウイグル自治区から原材料を調達していないことを確認した」と発表した。
さらに、サプライチェーンにはウイグル族やその他の少数民族出身の労働者もいないとしたうえ、山東省の工場などはナイキとは関係がなく、ASPIの指摘は「誤り」だとした。
その上で「強制労働に関するあらゆる報告を真摯に受け止める」などと綴った。同時に、ナイキが新疆ウイグル自治区の強制労働に反対する法案を阻止するロビー活動をしていたとする報道も否定した。
この声明が中国で取り上げられると猛反発が起きた。
SNS・ウェイボーでは「耐克(ナイキ)」が一時、トレンド1位となり「中国から出ていけ」などの投稿が相次いだ。人気タレント王一博氏も、「国家の尊厳を侵犯させない」としてナイキとの提携を終了すると発表した。
これに先立ち、スウェーデンの衣料品大手・H&Mも、新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと宣言していたことをきっかけに国営メディアなどから批判を受けた。H&Mの商品は、通販プラットフォームの「タオバオ」などではブランド名を検索しても表示されなくなった。
■背景には何が?
こうした一連の騒動の背景には、民間企業に対し、サプライチェーンなどで人権侵害が起きていないかを確認し是正することを求める「人権デューデリジェンス」の必要性が高まっていることがあるとみられる。
EUは3月22日、新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に、中国高官らに資産凍結などの制裁を発動。アメリカ・イギリス・カナダと歩調を合わせた格好で、さらに諜報活動で提携する「ファイズアイズ」国の外相も、人権侵害が行われている「圧倒的な証拠がある」とする共同声明を出していた。