3月に入り、学生の就活が本格化している。
伊藤忠商事、味の素、アサヒ飲料…… 今年も就職人気ランキングに目を向けると、上位には名だたる大手企業が並ぶ。
コロナ禍の中で、若者の安定志向は高まっているとも指摘され、大手人気は変わっていないようだ。
そんな中、東大・京大生に絞った人気ランキングでは、コンサルタントが人気だ。
なぜなのか。
就活の口コミサイトを運営するワンキャリアの寺口浩大さんは「学生が求めているのは今も昔も『安心』。そこに変化はない。ただ、その安心を企業に委ねる時代は終わりつつある。東大・京大生たちのコンサル人気は、その象徴です」と指摘する。
転職に強いスキルこそ「安心」の拠り所
ワンキャリアが調査した「2022年卒東大・京大 就活人気ランキング」によると、2020年6月速報では1位から5位までをコンサルが独占した。
東大・京大で、なぜコンサルがこれほど人気なのか。寺口さんは、キーワードは「安心」だという。
「就活生は『安心』を求めている。将来への不安の裏返しでもある。これは今も昔も同じ。かつて安心の拠り所は、企業の安定性だった。終身雇用を前提に考え、つぶれない企業への入社を希望した。でも、安心の拠り所が、自分自身のスキルに変わりつつある」
一方、2021年3月の速報値では、1位を三井物産に譲り、ベスト5に入ったコンサルは3社にとどまった。わずか9月間で大きな順位変化に見えるが、「これはコンサルの人気低下を示しているわけではない」と寺口さんは指摘する。
コンサルは早期に選考を始める会社が多いことから、「3月の時点で選択の対象から外れたのだろう」と寺口さん。東大・京大のコンサル人気は「健在」だと見ている。
就活生が求めるのは「自分の市場価値を高められるかどうか」
ビジネス環境の変化のスピードはすさまじく、企業の将来は見通せない。2019年には、経団連の中西宏明会長による「終身雇用を前提にすることが限界になっている」との発言が話題になった。そんな厳しい現実を前に、新卒で入社した会社に一生をゆだねようと考える学生が減るのは当然だ。
実際に転職は今や当たり前だ。ワンキャリアの2019年の調査でも、東大生・京大生の63%が就活時に転職やセカンドキャリアを視野に入れていた。
仕事選びへの意識が高い学生たちほど「(雇用マーケットにおける)自身の市場価値を高めたい」「選択肢の幅を広げたい」と口にするのを、寺口さんはよく耳にしてきた。
そんな学生たちは「社会に通用するスキルを身につけられるかどうか」という視点から仕事選びをするという。「その点、課題解決というビジネスの基礎体力を身につけられるコンサルは魅力的に映るのでしょう。またコンサル出身者が事業会社への転職に成功している情報が、他業種と比べても可視化されているので、学生からすれば説得力があります」と指摘する。
「学生のときに、仕事で何をしたいか明確に持っている人はむしろ少数。コンサルタントなら、多くの企業の実態を知ることができる。そうした経験を通し、自分が本当にやりたいと思える仕事を探すという考え方も合理的だと思う」
企業の新卒採用が厳しくなる3つの理由
新卒就活の未来はどのように変化するのだろうか。
新型コロナ感染拡大の影響を受け、就活の売り手市場は一変したとも言われている。だが、中長期には、企業の新卒採用は厳しくなっていくだろうと、寺口さんはみる。
理由は3つある。
一つ目は、少子化の影響による若者の減少だ。単純に、毎年の新卒の人数自体が自然と減っていく。
二つ目が、就活のあり方が大きく変化していることだ。
かつての企業の必勝パターンは、広告を出し、就活イベントを開催することだった。それだけで優秀な学生が集まってきた。
だが「就活生のリアルな声は可視化されており、そうしたイメージづくりは通用しない」と寺口さん。圧迫面接でもすれば、口コミサイトで情報は共有される。SNSで影響力を持つ学生も少なくなく、そうした声が企業の評価に影響を与える。就活を通じて、その企業を好きになったり、嫌いになったりする学生も多い。
「かつて就活は企業が学生を選ぶ場だった。でも今は情報の透明化によって、お互いがお互いを評価するフェアな場になっている。企業にとって就活生は大事なステークホルダー。よい体験を提供している企業に学生が集まる」
三つ目の理由は、働き方の多様化によって、学生にとって企業への就職は選択肢の一つにすぎなくなりつつあるということだ。
学生たちは、ネットの情報や先輩の話から、フリーランスや起業という手段があることを実感している。SNSのフォロワー数が多ければ、それ自体が稼ぐための武器になる。
「かつては新卒時の就活に失敗すると、安定した仕事に就くことができないと信じられていましたが、今や学生にとって、新卒での就職にこだわる必要性は弱まっています」
寺口さんは、そう指摘する。
企業と学生の関係はどうあるべきか?
では、優秀な若者に働いてもらうために、企業はどうすればいいのだろうか。寺口さんは「学生の本音に向き合い、応える必要がある」と言う。
「石の上にも三年」「置かれた場所で咲きなさい」
そうした姿勢は「今の学生のニーズとは合いません」と寺口さん。企業が個人のキャリアをコントロールする時代は終わりつつあるからだ。
学生たちが下積みや努力を嫌う、というわけではない。求めているのは、その企業で頑張れば「どんなキャリアパスを経ることができ、どんなスキルや選択肢を得られるのか」という情報なのだという。そうしたニーズに応えるには、採用過程やキャリアパスを透明化する必要がある、と寺口さんは考える。
「ある会社は、コロナ禍のオンラインでの面接だけでは『社風を知ることができない』との就活生の声を受け、社風を感じられる動画をつくってネットに公開した。現場の社員が会社や事業を説明する動画を公開している企業もある。自分たちをさらけ出す企業ほど信頼を得ている。デジタル技術やデータを活用し、就活生によい体験を提供できるかどうかが鍵になるでしょう」
寺口浩大さん
ワンキャリア 経営企画室 PR Director。採用マーケットの透明化を推進。「#就活をもっと自由に」「#ES公開中」などのソーシャルムーブメントも手掛け、経営と連動したコミュニケーションデザインを実践している。
(取材・文:岩井建樹)
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(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)