同性愛者と上司に暴露され精神疾患に。“アウティング”の申し立て受け、豊島区が指針改訂へ

豊島区によると、アウティングをめぐる申し立てと、それに伴う行政の措置決定は全国的にも珍しいという。
豊島区への申し立て後、記者会見を開いた男性(2020年6月)
豊島区への申し立て後、記者会見を開いた男性(2020年6月)
Machi Kunizaki/Huffpost Japan

職場の上司から同性愛者だと暴露(アウティング)され、精神疾患になったと訴えた男性が、東京都豊島区に対し申し立てを行っていた問題で、区は3月23日までに、多様な性自認・性的指向に関する対応指針の改訂などの措置を決定し、公表した

豊島区は男女共同参画推進条例で、性別などによる差別や人権侵害を禁止し、性自認や性的指向を本人の同意なく公表する「アウティング行為」をしてはならない、と盛り込んでいる。

区によると、アウティングをめぐる申し立てと、それに伴う行政の措置決定は全国的にも珍しいという。

アウティング問題、経緯は?

豊島区に対して申し入れがあった今回のアウティング問題は、どんな事案だったのか?

男性は2019年、豊島区内の保険代理店に入社した。入社前の面接で、業務に必要な書類に記入する際、緊急連絡先として「同性パートナーの連絡先を登録したい」と会社側に伝え、自らの性的指向も打ち明けていた

「同僚には自分のタイミングで、自分から伝えたい」との要望も伝えていたが、その後上司から別の従業員に対して性的指向を暴露された。

男性は従業員から無視をされたり、避けられたりするようになった。アウティングと上司からのパワハラが重なり、同年12月、男性は心療内科で抑うつ状態と診断され、休職した。

共同通信などによると、区の苦情処理委員のあっせんの結果、会社側は男性に謝罪し、解決金を支払うことで2020年10月末、男性と和解した。

男性の支援者によると、男性はその後職場を退職。現在、アウティング行為により精神疾患になったとして、労災申請の準備を進めている。

男性の労災申請書には、「不安、焦燥を伴う抑うつ状態」との診断名が書かれている(一部を加工しています)
男性の労災申請書には、「不安、焦燥を伴う抑うつ状態」との診断名が書かれている(一部を加工しています)
提供写真

是正勧告を申し立て

男性は2020年6月、職場がある豊島区に対し、条例に基づく申し立てを行った。

申立書によると、男性側は勤務先への是正勧告や指導のほか、区内企業に対するアウティング被害の実態調査、啓発・研修の実施などを求めた。

男性の申し立てを受け、区の条例に基づき設置されている苦情処理委員が意見を表明した。委員の意見表明書の内容を踏まえ、区は次のような対応を決定した。

・区の「多様な性自認・性的指向に関する対応指針」を改訂し、性自認または性的指向に関する人権侵害の条例違反となる事例などを盛り込む

・パートナーシップ制度の利用者へのアンケート項目に、アウティング被害に関する質問を追加し、実態を調べる

一方で、申し立ての内容の一つだった「アウティングをした企業名の公表」について、区は「現時点で条例改正は困難」として公表しない決定をした。

条例でアウティング「禁止」、他自治体でも

男性を支援しているNPO法人「POSSE」の佐藤学さんは、今回の区の対応について「アウティング禁止を定めた条例が全国の自治体に普及しているとは言えない中で、こうした条例に基づいて第三者の立場の委員が動き、行政の指針が改訂されるなど前進したことは評価できる」と話した。

一方で、「企業向けの資料作成にとどまらず実効性のある研修を行うことや、パートナーシップ制度の利用者以外に対してアウティング被害の実態を調査することなども盛り込むべきだ」と指摘する。

アウティング禁止をめぐっては、東京都国立市が2018年4月、全国で初めて条例に明記した。豊島区や岡山県総社市、三重県いなべ市なども条例に盛り込んでいる。

三重県議会は3月23日、都道府県レベルで初となる条例案を全会一致で可決した。

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