公開中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で総監督を務めた庵野秀明さんに4年間にわたって独占密着したNHKのドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀」が3月22日に放送され、Twitter上で大きな反響を呼んでいる。
スタジオジブリの宮崎駿監督をして、「庵野は血を流しながら映画を作る」と言わしめた庵野秀明監督。
番組ではギリギリのスケジュールの中、脚本を練り直し、極限まで身を削りながら作品を製作する庵野さんやスタッフの奮闘が惜しみなく描かれた。また、庵野さんの妻であり漫画家の安野モヨコさんのインタビューも収録された。
アニメ版制作後のネットの書き込みに「どうでもよくなった」
4年間にもわたる密着映像には多くの見所があったが、特に印象的だった場面の一つが、テレビアニメ版エヴァンゲリオン放送後の話だ。
1995年〜1996年の放送当時、社会現象になっていたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」。最終回は主人公・シンジの深層心理が重点的に描かれる内容だった。予想外のラストシーンは多くの人に衝撃を与え、賛否両論を呼んだ。
その中には、「庵野は作品を投げ出した」とする批判的な意見もあったという。
番組内のインタビューで、庵野さんはネット上の書き込みを見たことをきっかけにアニメ制作への熱意を失い、自死を考えたと明かす。
「自分としては世の中とかアニメを好きな人のために頑張ってたつもりなんですけど、庵野秀明をどうやって殺すかを話し合うようなスレッドがあって。どうやったら一番うまく僕を殺せるかっていうのがずっと書いてある。こうやって殺したらいい、こうやって殺したらいいって。それを見た時にもうどうでもよくなって。アニメを作るとか、そういうのはもういいやって」
2回ほど「危険」があり、1度は電車に飛び込もうとし、2度目は会社の屋上から飛び降りようとするほど追い込まれたという。しかし、「死ぬのは別にいいんだけど、死ぬ前に痛いのは嫌だ」と考えたことで、踏みとどまったという。
SNSが普及した現代で深刻な問題となっているネット上の誹謗中傷。心ない言葉の書き込みが、いかに人の心を傷つける「凶器」となるか、思い知らされる場面だった。
庵野さんはその後、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーの助けなどを得て、実写映画の企画や製作に取り組む。そして、アニメーションに再び取りかかり、制作会社・カラーを設立。新劇場版「エヴァンゲリオン」シリーズの製作に乗り出した。
安野モヨコさんとの歩みも
2007年から2012年にかけ、新劇場版シリーズ3作を発表した庵野さん。しかし、2012年に3作目の『Q』公開後、庵野さんは体調を崩してしまう。
映画『シン・ゴジラ』製作発表時に寄せたコメントで、庵野さんは、「エヴァ:Qの公開後、僕は壊れました。所謂、鬱状態となりました。6年間、自分の魂を削って再びエヴァを作っていた事への、当然の報いでした」とつづっている。
プロフェッショナルの密着映像では、そのときのエピソードも語られる。
支えとなったのは、妻の安野モヨコさんだった。
そして、4年後、完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の製作に取りかかる。
「もういいかなとは思えなかった。作れないというのはあったけど、作りたくないにはなかなかならなかった。始めちゃったんで終わらす義務がある。それは自分に対してもスタッフに対しても、一番大きいのはお客さんに対してです」
庵野さんはそう語っていた。
再び製作に取り掛かるまでのエピソードは、安野モヨコさん自身もマンガで記録している。カラー設立10周年を記念して書き下ろされたマンガ「おおきなカブ(株)」だ。
作品では、野菜のカブ栽培を映画制作になぞらえ、庵野氏が体調を崩しつつも仲間らとともに「カブ」を収穫していく様子があたたかいタッチで描かれている。
また、庵野さん・安野さん夫婦の歩みは、安野さんのコミックエッセイ「監督不行届」と、文章版の「還暦不行届」でもつづられている。
緒方恵美さん「涙がとまりませんでした」 放送に大きな反響
初となる庵野さんへの長期密着映像は、大きな反響を呼んだ。
Twitterでも関連ワードがトレンド入りし、シンジ役の声優・緒方恵美さんは「この番組自体が一本の映画でした。物凄い映像を撮り切って下さった」とツイート。
「涙がとまりませんでした。改めて庵野さん。生きて、ここまで来て下さってありがとうございます」と感謝の思いをつづった。
番組公式サイトには、3月23日時点で再放送の予定は掲載されていない。29日までは、配信サイト「NHKプラス」で見逃し配信を見ることができるという。