3月5日に劇場公開・配信されるディズニー最新作『ラーヤと龍の王国』で、ディズニーアニメーションの歴史に新たな1ページが加わる。
ハリウッドなどで活躍する俳優のケリー・マリー・トランさんが、東南アジア系の俳優として初めてディズニー作品の主演声優に起用された。
ディズニーの新たなヒロインの声を務めるトランさんの足跡をたどる。
ケリー・マリー・トランさんとは?
トランさんは、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。ベトナム戦争を逃れて難民としてアメリカに移住してきたという両親を持つ。
UCLA(南カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を卒業した後、2011年から俳優としての活動を始め、短編映画などに出演した。
トランさんの存在を世に知らしめたのは、2017年に公開された『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』だった。
同作でトランさんは、ジョン・ボイエガさん演じるフィンと行動を共にするレジスタンスの整備士・ローズ・ティコ役を演じた。当時は『スター・ウォーズ』シリーズで初めて、アジア系のアメリカ人が主要キャストに選ばれたことでも注目された。
今回、ディズニーアニメーションの最新作の声優に抜擢されたトランさん。最新作『ラーヤと龍の王国』では世界を救うという使命を背負った戦士に成長した主人公を演じる。
スター・ウォーズ出演時にネット上で人種差別も
トランさんには実写作品の『スター・ウォーズ』出演時、ネット上で人種差別や誹謗中傷を受けていた過去がある。
映画の公開後、トランさんが当時インスタグラム(現在はすでに削除)の投稿に、演じた役への批判やトランさん自身の容姿や人種、性別に触れる差別的なコメントが寄せられた。
トランさんは2018年8月、アメリカの有力紙『ニューヨーク・タイムズ』にエッセイを寄稿した。その中で、差別や誹謗中傷についてこのようにつづっている。
「私に対して差別の言葉を向けてきた人々の生活や物語において、自分は脇役としてしか存在できないのだという、有色人種の女性として生きる中で学んだことを彼らの言葉によって改めて思い知らされました。(中略)有色人種の子どもが白人になることを夢見て育つことや女性たちが容姿や言動に対して厳しく指摘されることもなく、人種や性別、宗教、社会的地位、性的指向などにかかわらず、誰もが同じ人間としてみなされて尊重される世界を願ってやみません」
ディズニーもアジア重視の傾向
最新作『ラーヤと龍の王国』はディズニーのアニメーションで初めて「東南アジア」にインスピレーションを受けたという作品だ。映画制作の過程においても、東南アジアに深くコミットした。
ここにきてディズニーがアジアを尊重し重視していると受け取れるのは、トランさんの起用というキャスティングの面だけではない。
今作のプロデューサーであるオスナット・シューラーさんは、作品を制作する上で言語学者や建築家などの専門家で構成されたチームを結成し、実際にラオス、インドネシア、タイ、ベトナムを訪れて調査に当たったことを明かしている。
筆者もすでに作品を観たのだが、物語の舞台となる架空の街の1つには、ランタンの灯りがともる夜のベトナム・ホイアンの街を連想させるシーンなどもあった。