中国の大学で使用された教科書が、同性愛を「精神疾患」と分類したことなどに対し、現地の女性が教科書の回収と謝罪を求めた裁判で、中級人民法院は2月24日、記述は「学術な観点」で、出版社に「知識上の誤りはない」とする1審判決を支持した。
中国の裁判は2審制のため判決が確定する可能性もあり、現地のSNSでは抗議の声が上がっている。
■法廷闘争も断念か
複数の現地メディアによると、問題となったのは暨南(きなん)大学出版社が2013年に出版し、同大学の授業でも用いられた「大学生心理健康教育」。この本では、「よくみられる精神疾患」として、女装など異性の服を身にまとうことのほか、同性愛を挙げている。
その上で「絶対的多数の人類の性愛と比べて、同性愛は一種の性の乱れや性的対象の倒錯と見ることができる」などと表記している。
これに対し、大学生の女性が「同性愛に汚名を着せている」として出版社に訂正などを求めた。しかし交渉はまとまらず、2017年に出版社などを相手取って回収と謝罪などを求める民事裁判を起こした。
これに対し1審は「女性の主張は、教科書の記述との認知の違いであり、出版社に知識上の誤りがあるとは言えない。この教科書は出版前の事前審査を受けているが、学術的な観点や認知の違いはその責任が及ぶ範囲ではない」などとして女性の訴えを退けた。
女性は2020年11月に上訴したが、このほど出された2審判決でも裁判所の見解が覆ることはなかった。
中国は2審制のため、これで判決が確定する可能性がある。裁判を起こした女性も現地メディアに対し「法的なプロセスでいえばここまでです」と法廷闘争を終結させる意向を示した。
■SNSは性的マイノリティを擁護
このニュースが伝えられると、中国のSNS・ウェイボーではトレンド1位に。関連するハッシュタグの閲覧数は2億回を超えた。
コメントでは「同性愛を支持しなくとも良いが、尊重はしてほしい。くれぐれも精神疾患などと呼ぶな」「これでも2021年なのか」「文化が未発達なことの特徴は、自分と異なる存在を受け入れられないことにある」などと、抗議の声が次々と上がっている。
性的マイノリティの権利をSNSで主張する動きは、ここ数年、中国でしばしば発生している。
2018年には、ウェイボーが「同性愛コンテンツを削除する」と決定。これに対し「#我也是同性恋(私も同性愛者だ)」とハッシュタグをつけた抗議の投稿が相次ぎ、ウェイボーは撤回を余儀なくされた。
この騒動に際して、共産党機関紙「人民日報」は「同性愛は精神病ではない」とする文書を掲載し、この運動を黙認した。
2019年には、政府が法改正に伴う意見募集をしたところ、同性婚を認めるよう求める声が相次いだ。このニュースを伝える報道機関のSNS投稿には190万もの“いいね”が寄せられるなど異例の盛り上がりを見せた。
今回の一連の動きは、SNSの盛り上がりとは裏腹に、実社会では中国の性的マイノリティをめぐる困難が根強く残っていることを示すものといえる。