髪型は、その人の大切なアイデンティティ。ただ、自分らしい髪型に出会うまで苦労することもある。
ロングヘアだった女性が「ベリーベリーショート」にするまでの過程を描いたTwitterのマンガが話題だ。
「髪切ってかるく人生変わった話」を投稿したのは、現在日本に住むH(えいち)さん。数年前にアメリカに住んでいた頃の自分の経験を14枚のマンガに綴った。
本人に、描いたきっかけや思いを聞いた。
(マンガの転載許可をいただいています)
「これ以上みじかくすると、男の子みたいになっちゃうから」
数年前、アメリカの大学に通っていたころ。
坊主や短いショートカットに憧れていたHさんは、美容院で「ベリーベリーショート」の俳優の写真を見せて「こんな感じにしてください」と依頼。
「オーケー」と言われたものの、写真より長めの仕上がりで「どう?」と聞かれてしまう。何度か「もっと短く」と頼むも、「まだ切るの?」と言われ「普通のショートってこんなもんなのかな」と思い帰宅した。
数ヶ月後に行った別の美容院でも長めで「どう?」と聞かれたため同じ写真を見せて「もっとこれくらい短くしてほしい」と伝えるも、「これ以上みじかくすると、男の子みたいになっちゃうから」「だから、あんまり切りすぎない方がいいよ」と言われてしまう。
悪気はないであろう美容師からの言葉にショックを受けて帰宅するHさん。
自宅で「別に『男の子みたい』になってもいいのにな」と悶々とする。
大きな何かから「この円の中(女らしさ)からは出過ぎない範囲でね」と言われたように感じたのだ。
はっきり主張することも大切ではあるものの、「見えない境界線」によって、自分のしたいことが尊重されないことに諦めを感じ始めていた。
そしてまた、違う美容院へ。しかしそこで出会った美容師さんはこれまでと違った。
「すごく短くしたくて」と伝えると、バリカンを使うかどうかをHさんに尋ねたあと、横は刈り上げに。「どうする?もっと切る?」と聞きながら、楽しくカットを終えると今までとは全く違うベリーベリーショートに仕上がり「とても似合ってるよ!」と声をかけられる。
理想の長さまで切れたことで「やっと自分っぽくなれた気がした」と振り返り、友人からかけられた温かな言葉も紹介。短い髪型に憧れていたのではなく、「ずっと『自分』になりたかった(戻りたかった)のかな〜」と当時の自分を分析している。
「見えない境界線」が人を苦しめることもある
この投稿は3万回以上リツイートされ、大きな反響が寄せられた。
「めっちゃ分かる…!!!」「自分の好きな見た目で居る事は大切」「泣いた」という共感の声に加え、リツイートやリプライには、好きな髪型を楽しんでいる人からの写真も投稿された。
現在は日本に住み、接客業で働いているというHさん。今もベリーベリーショートの髪型を楽しんでいる。マンガを描いた経緯をこう振り返った。
「この出来事があったころは、違和感や苦しさがあっても説明できる言葉を持っていなかったんです。でもその後、ジェンダーなどについて知るうち、『そういうことだったのか!』と感じてマンガにしたいと思いました」
ユニセックスな服装を好み、化粧をしないことも多いHさんはそれまでも、当時の知人から「もっと可愛い服を着た方が彼氏ができるよ」「もっと化粧をした方がモテるのに」などと言われることがあったという。その度、「どっちも私なのにな…」と違和感があったそう。
そうした違和感がつながり、新型コロナウイルス感染症の流行で在宅時間が増えたことから、マンガの製作に取り掛かった。
短い髪型にしなかった美容師さんたちが「悪者」で、自分が「被害者」だと言いたいわけではない。世の中の空気がつくる「見えない境界線」が人を苦しめることもあること、そこを超えた「自分らしさ」に出会えて「かるく人生変わった」という部分が伝わるよう意識したという。
反響の大きさには驚いたというが、「別の悩みを抱えていた時、エッセイマンガに『自分だけじゃないんだ』と救われたことがあるんです。誰か1人でも、このマンガを読んでひとりじゃないと感じてくれたなら嬉しいですね」と話す。
「きっと、5年くらい前ならこの話もこんなに共感は得られなかったと思うんです。少しずつ、ジェンダーに関する意識は変わってきていると思います。私より若い子たちに、同じ思いはさせたくない。みんながもっと、『こうしなきゃいけない』という枠組みから自由になれたらいいなと思います」