神奈川県内では、SDGsが掲げる持続可能な社会を実現するために多くの活動が行われている。
その1つである「NPO法人アール・ド・ヴィーヴル」では、2021年4月のオープンを目指し、新たに生活介護施設、就労継続支援B型事業所、ギャラリー・カフェを兼ね備えた複合型施設の整備を進めており、現在、その整備費用の一部をクラウドファンディングで募っている。
SDGsと「いのち輝く神奈川」
神奈川県では、全国の自治体に先駆けて、SDGsへの取り組みをスタートしてきた。
神奈川県のSDGsを統括する山口健太郎理事は、その思いを次のように語る。
「本県では、2011年に黒岩祐治知事が就任し、『いのち輝く神奈川』を掲げ、医療だけでなく、環境、エネルギー、教育など、総合的に施策を連関させて、いのちが輝き、誰もが元気で長生きできる神奈川の実現に向けて取り組んできました。これまで、SDGsを推進する中で感じたのは、SDGsの17のゴールは、どれもこれまで神奈川県がやってきたことの延長線上にあり、それをSDGsという枠組みでさらに発展させていこうと考えています」
パートナーシップにより「ともに生きる社会を実現したい」
神奈川県は、市町村や企業、NPOなどの団体、UNDP(国連開発計画)など、国内外の様々な団体とのパートナーシップにより、SDGs達成に向けた取り組みを進めている。
SDGsを推進している企業・団体と県が連携して取り組む「かながわSDGsパートナー」には、これまで333者が登録しており、パートナー同士の連携を後押しする「SDGsパートナーミーティング」の開催などの活動がこれまで行われている。
また、県内の身近なSDGsの活動を紹介する事例集として、「SDGsアクションブックかながわ」を作成し、1人ひとりのSDGsの具体的な行動の後押しを図っている。
この「SDGsアクションブックかながわ」で「アール・ド・ヴィーヴル」による取り組みが紹介されている。神奈川県では、2016年に津久井やまゆり園でおきた事件を繰り返してはいけないという強い思いで、「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、共生社会の実現を目指している。2020年12月には、アール・ド・ヴィーヴルと県が主催し、地域の養護学校の生徒さんたちを中心とした作品展を開催した。
「あらゆる立場のステークホルダーがパートナーシップを結んで協力することで、ともに生きる社会を実現していきたい」(山口理事)という。
「得意なことで社会とつながり、収入にできるような道を」
障がいのある人たちとの共生も、大きな目標のひとつだ。
アール・ド・ヴィーヴルは、2016年に小田原で障がい者向けの就労支援事業所を設立。アートの創作活動を中心に、作品リース、グッズの製作販売、デザイン受託など、新しいスタイルの「働き方」を障がい者に提供してきた。
そのコンセプトは、重度の障がいがある人たちが、自分の得意なことで社会とつながり、働ける場を作っていきたいというもの。
理事長の萩原美由紀さんは、「障がいのある人たちは、福祉作業所で軽作業をして工賃をもらうなど、働く場が限られているのが現実です。でも、障がいがあるからやりたいことをあきらめるのではなく、自分の得意なことで社会とつながり、収入にできるような道を開いていきたい」と語る。
“自分で選択していく人生を送ってほしい”
“障がいがあっても自分で選択していく人生を送ってほしい”。そうした願いのもと、8年前に活動をスタートした萩原さん。当事者と家族の方の声、そして思いを共有する専門家、地域の仲間に支えられ、今日まで活動を重ねてきた。
「障がいのある親子の集まりを通して、外に向かって発信をしていかないと、何も変わらないということを痛感するようになりました。それが、障がいのある子を育てている人たちの気持ちを前向きにするかもしれないと考えたのです」(萩原さん)
そこで、大事なのは、障害のある人たちのリアルな姿を社会へ発信していくこと。子どもたちは、表現・創作する活動を通じて、生き生きと自分を表現する力にあふれている。だがーー。
「大人になると自己実現の機会が少なくなってしまいます。作業所と自宅の行き来だけの日々になり、笑顔が見えなくなった人も。『もっと』と思いが強くなりました」(萩原さん)
彼らの持つ才能を発揮できる場をつくりたいと、障がい者対象のアートワークショップを開催。それがNPO設立や事業所の設立へとつながっていった。
「それが自己肯定感となり、新たな作品作りの意欲にもなる」
アール・ド・ヴィーヴルでは、自分の好きなことを自分のペースで自由に創作。絵画、織物、アクセサリーづくりなど、創作内容は多岐に渡る。現在、登録者は40名で、1日平均15人ほどが訪れている。
完成した作品は、一般のギャラリーでアートディレクターにより展示。「作品から生きる力強さを感じる」と、展覧会を心待ちにするファンも多い。
「アートに興味のある方から、作品を気に入ってくださり、お声をかけていただけることが、作者である彼らの大きな励みです。それが自己肯定感となり、新たな作品作りの意欲にもなっています」(萩原さん)
収益源は、作品の販売、企業などへのリース、グッズの制作販売。その一部が工賃として作者に還元される。企業の社会貢献やSDGsへの意識の高まりもあり、リース契約の機会も増えている。
誰もがともに学び、ともに働ける社会
アール・ド・ヴィーヴルが新たに建設中の施設では、個々にあった創作活動スペースを確保するとともに、地域との交流も深めていきたいという。
「地域に根ざしたオープンな施設として、地域の方々がギャラリー・カフェに気軽に訪れてくれるようになるといいな、と思っています。
私たちは、“障がいのある、ない”でどこか線引きしがちですが、それが不平等を生んでいます。“できない”と分断するのではなく、誰もがともに学び、ともに働ける社会に。新施設が地域の財産になれるよう頑張りたいです」(萩原さん)
アール・ド・ヴィーヴルの活動を支援する神奈川県も、「障がい者と健常者が共に生きる、インクルーシブな社会」の実現を目指している。
「多様性を受け入れる社会は、県の目標でもあります。そのために資金援助だけではなく、障がいを持つ人たちとの出会いの場もどんどん提供していきたい。実際、県主催のアートワークショップにもアール・ド・ヴィーヴルには参加してもらっていて、広く県民と交流していただいています。
きっかけは、クラウドファンディングへの寄付でも、ワークショップでアートに触れるのでもいい。そこからお互いの理解を深めていくことで、心豊かな社会になっていきます。それがSDGsの実現を後押ししてくれるはずです」(山口理事)
2月28日までクラウドファンディングで支援募る
アール・ド・ヴィーヴルでは活動拠点を整備するため、クラウドファンディングを通じて支援を募っている。2月28日まで。詳細はこちら。
(工藤千秋)