資生堂、銀座旗艦店で美容液の詰め替えサービスなど開始。持続可能なビューティーアクション「SBAS」始動へ

「もったいない」の精神を日本文化の美徳の一つとして捉え、世界の化粧品業界に日本から新しい試みを発信するのが狙いだ。
サステナブル・ブランド ジャパン

資生堂は27日、世界88カ国で展開するブランドSHISEIDOにおいて、サステナブルな活動や製品開発を通して、同社ならではの社会価値を創造するプロジェクト「Sustainable Beauty Actions(サステナブル・ビューティー・アクションズ、以下略称SBAS)」を始動すると発表した。これに伴い、東京・銀座の旗艦店で、主力商品である美容液の詰め替えサービスを始めるとともに、世界で初めて、100%植物由来のカネカ製生分解性ポリマーを容器に採用したリップを限定販売する。「MOTTAINAI(もったいない)」といったサステナビリティの精神を日本文化の美徳の一つとして捉え、世界の化粧品業界に日本から新しい試みを発信するのが狙い。(廣末智子)

「MOTTAINAI(リサイクルやリユース)」「HARMONY(社会や環境との調和)」「EMPATHY(共鳴)」を3本柱に

同社は昨年から新たな企業ミッションに「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」を掲げ、環境、社会、ガバナンスを重視するESG経営に同社独自の強みである文化(カルチャー)を加えたESCGの視点による、資生堂サステナブルビューティーイニシアティブを進めている。今回のSBASはその具体的な行動指針であり、同社版のSDGsとしても位置づけられる。

SBASの第1弾は、美容液「アルティミューン」の容器詰め替え(レフィル)サービス。顧客が持参した空きボトルを徹底した衛生管理のもとで洗浄、品質管理に最大限の注意を払った上で中身を詰め替えるもので、11月19日から「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE」で開始する。またこれに先立ち、同店で11月1日から、世界で初めて100%植物由来で海に返る素材「カネカ生分解性ポリマーPHBH®️」を化粧品容器に採用したリップカラーパレット「アクアジェルリップパレット」を数量限定販売する。

今後は、SHISEIDOブランドの商品において、レフィル対応の拡大・ボトルのリユースを促進していく予定で、容器の開発を巡っては、幅広い異業種との新たな連携を含めて、多様な可能性を探っていきたい考え。さらに、同社はSBASについて「生活者とともにサステナビリティを推進していくためのコミュニケーションの場」としての特設サイトも開設した。

会見では、SHISEIDOチーフ・ブランド・オフィサーの岡部義昭氏らが、SBASを立ち上げた理由について、「地球温暖化や海洋汚染、人種差別にまで及ぶさまざまな現代の問題に対し、われわれブランドが果たすべき使命は何か、その問いに対する一つの答えだ」と説明。事業の構造としては、日本ならではの精神でリサイクルやリユースに取り組む「MOTTAINAI」と、人や社会、自然との調和に基づいた活動を行う「HARMONY(調和)」、そして、ダイバーシティ、インクルージョンを目指す「EMPATHY(共鳴)」の3つを柱とする。この中で2025年までに100%サステナブルなパッケージングを達成することにコミットする。具体的には、「容器のリユース」「リサイクルできる容器材質にする」「生分解性の代替材料に切り替える」のうち1つ以上の達成を目指す方針だ。製品の基本的な成分ポリシーの開示など、サステナビリティに関する情報を見える化する、といった項目についても示している。また「性別や年齢、国籍などにとらわれず、美しさの連鎖が生まれる世界の実現に向けて貢献していく」とあらためてブランドの決意を表明した。

「江戸時代から持続可能な化粧品あった」ロバート・キャンベル氏らがディスカッション

これに続き「SBASネクストアクションを考える」と題したディスカッションが行われ、日本文学者のロバート・キャンベル氏とジェンダー・国際協力専門家の大崎麻子氏、講談社FRaU編集長の関龍彦氏がパネリストとして登壇。

日本文化に造詣の深いキャンベル氏は、江戸時代の女性が結った髪が崩れないようにするだけでなく、寝ている間に髪に香りを纏わせるよう、中で香がたけるような箱型のつくりになった「香り枕」を使っていたことなどを例に、「サステナビリティの精神が日本の生活の根底にある」と強調。化粧品の世界でも、貝殻の内側に紅を塗った、工芸品としても美しい口紅を売る店が江戸にあり、その紅を塗り切った女性はまた同じ貝に紅を塗ってもらっていたという文化を紹介。今回の美容液の詰め替えが決して新しい発想ではなく、「目で見て愛でることができ、実用性にも富む持続可能な化粧品があったわけです」と歴史を振り返った。

一方、現代におけるサステナビリティ・アクションに関して、関氏は、「個人が生活の中で粛々と行うこと、プロフェッショナルが力を合わせてやることの両方が大事」と提示。さらに「伝えることも同じくらい大事だ」と、メディアの力に言及。SBASについても「生活者に伝わって賛同され、増幅されて大きなうねりになっていくことが考えられる。誰もが気軽にできるメイクやスキンケアといった行動が、世界について考えるきっかけになるという意味であらためて化粧品の持つ力を感じる」などと期待を語った。

UNDP(国連開発計画)の一員としてSDGs策定の過程にも携わった経験のある大崎氏は、SBASの活動をSDGsと重ね合わせ、パッケージのあり方を刷新してサステナブルなものに変革させている点、また、サプライヤーとの協働や、消費者を巻き込んでアクションを起こしていくといった点が、トランスフォーメーションやマルチステークホルダーといったSDGsのキーワードを体現していると評価した。

 

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。SDGsを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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