「子供を授かった時に、一番、どうしようかと思いました。子供を幸せにできないのではないかと思って」。
7歳の時、広島市で被爆した児玉三智子さん(83)は、1月22日夜、iPadの画面越しに、若者たちに語りかけた。核兵器禁止条約が発効された日の夜、ハフポスト日本版とNO YOUTH NO JAPANは、インスタ上で「被爆者の証言会」を開催した。
聞き手を務めた慶應大4年でNO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さんに、児玉さんが強調したのは、被爆から生き延びたあとでも受け続けた、傷のことだった。
1945年8月6日、広島に原爆が投下された時。爆心地から4キロ地点にいた児玉さんは怪我を負っただけで済んだ。両親も無事だった。
しかし、児玉さんの母親のお腹の中には、赤ちゃんがいた。その子は、生まれてすぐ、身体中に紫斑(しはん)ができ亡くなった。
それから時間がたち、児玉さん自身が妊娠したとき。嬉しさよりも不安が先にたってしまったのは、幼い頃のその悲しい出来事を間近に見ていたからだ。
「そういう子が生まれるのではないか。頭の中にありました」。
被爆者の自分が子どもを生むことのリスク。被爆者ではない夫ともよく話し合い、最後には生むと決断した。児玉さんはこう説明する。
「たくさんの方が原爆で亡くなりました。私の腕の中で亡くなった親戚のお姉ちゃんもいました。私が転校する前に通っていた(爆心地により近い国民学校の)400人の児童生徒も亡くなった。その中には、お友達も先生もいた。亡くなった方達の命を、私も預かったと思うようになりました」
その後、児玉さんは無事に2人の娘をを産み育てた。幸い、2人とも健康に育ち幸せな結婚をしたが、2011年、45歳だった次女はがんで亡くなった。
ライブ配信を続けているインスタのコメント欄には「すごい話ですね…」「被害の大きさを改めて感じた」といった率直なコメントが次々と寄せられていった。
児玉さんは、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)という被爆者の全国組織で事務局次長を務めるなど、平和活動に熱心に取り組んでいる。
しかし、自分が被爆者であることを周囲に打ち明けたのは、戦後35年以上が過ぎてからだった。そして、語り部として何度もあの日の体験を話していても、今でも全てを話すことはできないという。思い出すだけで、胸が詰まってしまうからだ。
「被爆者だから」と就職できない差別を受けたこともある。学校の先生に聞くと、被爆者は満足に働き続けられない可能性があると判断されたようだった。
結婚でもまた、同じように差別を受けた。被爆者と結婚することを、男性側の親戚から大反対され、交際さえも断念せざるを得なかったこともあった。
「爆風で体が傷ついたり、放射能でがんや他の病気を発症しやすくなるということもありますが、心の痛みが、とても深いです。それが被爆者ですね。75年経っても忘れることはできない痛みです」
1月22日に発効された核兵器禁止条約では、前文で被爆者(hibakusha)という日本語をそのまま使い、この思いを持ち続けてきた人々の念願に答えた。
また、第6条では、核兵器による被害を受けた人や環境を回復することが定められている。その中には「年齢や性別に配慮した支援を差別なく十分に提供する」という文言が含まれている。
被爆者として結婚や子供を生むことへの葛藤を抱えてきた児玉さんはとりわけこの文言が「嬉しい」と言う。
一方で、核兵器禁止条約に、日本は参加していない。
児玉さんはそのことに触れ、一人一人が考えて欲しいことをこう話した。
「核兵器禁止条約は今日発行されましたが、核兵器はまだ地球上にあります。あるということは、75年前のことが起こりうるということ。ですから無くさないといけない。原爆の被害に遭わないためには無くさないといけない。あなた方、若い人たちが、核兵器の被害にあわないように、被害者にならないためには何ができますか?一歩踏み出してほしい。
それぞれの立場でやれることは違うと思います。小学生だったら、折り鶴を折る、家族に話すでもいい。自分のこととして考えて、自分の身に起きたことと考えて、一歩を踏み出して欲しい。被爆者の問題ではなく、私たちの問題として捉えて欲しい。
核兵器はいけないものということが今日、国際条約で決まったんです。だから、もう、いけないものだって堂々と言える。みなさん一緒にがんばりましょう。私もがんばりますから」
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インスタライブでは、長崎市出身の被爆三世で、ヒバクシャ国際署名などで活動している林田光弘さん(28)も出演。児玉さんの問いに答えて、「私たちにできる具体的なこと」として、被爆者の思いを受け止め繋いでいこうとする10代〜20代によるプロジェクトなどについても紹介した。
林田さんは「核兵器の問題って広島・長崎の人の問題と捉えてしまいがちだけれど、『アメリカの核の傘に入る』という選択をする政府を選んでいるのは私たち。だから、核兵器ってやっぱり私たちの問題なんです」とコメント。
また、新型コロナで修学旅行などが開催できなくなり、若い世代が被爆者の語りを聞く機会が失われていることについても危機感を持っているという。
「すすめ核兵器禁止条約プロジェクト」では、Zoomなどを通じてオンラインの被爆者証言会を継続して開催する予定だとして「皆さんの近くにも被爆者は住んでいます。だから、証言会をまず聞いて、主催者側にもぜひなってほしい」と訴えた。
「いろんな被爆者の方の話を聞いて欲しい。女性なのか、男性なのか、被爆当時何歳だったか、その違いで、その人の背負っている傷も、その後の生活も全然違うんです。被害のリアリティを多くの人に知って欲しい。核兵器を、軍事や安全保障上の問題だけではなく、リアルな被害者がいる問題と捉えることが、世界を動かす第一歩です」
※アーカイブ動画の視聴はインスタグラムから。