東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が2月4日、報道陣の囲み取材に応じ、一連のJOC評議員会での発言を撤回した。
批判が上がっていたのは主に、森会長の次のような発言だ。
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」
「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」
森会長への取材に参加し、腑に落ちなかったことがいくつかある。みんなの憤りは森会長に届いているのか。直接質問した立場から、感じたことを伝える。
差別する発言そのものが問題
森会長の説明で、引っかかったことがいくつかある。ひとつは、撤回の理由について「誤解を生んではいけないので」と答えたこと。
また冒頭の説明では、「不快な思いをした皆さんにお詫びを申し上げたい」と陳謝した。
今回の問題の核心は、「不快な思いをした人がいる」からでも、「誤解を招くような発言」だからでもない。差別するような発言そのものが問題なのだ。
オリンピック憲章でも「性別を始め、いかなる種類の差別も受けることなく」などと掲げている。
森会長は、発言そのものが問題であるという意識が、あまりに欠けているという印象を受けた。なぜ国内外から多くの批判や憤りが上がっているのか、理解した上でこの場に臨んでいるようには見えなかった。
その理由は、発言の何が問題なのかについて、本人の口から腑に落ちる答えが返ってこなかったからだ。
何が「不適切」なのか
森会長は自身の発言を「不適切」という言葉で表現した。
記者から「発言の何が問題だと思うか」という質問があったが、森会長の答えは「男女を区別するような発言をしたこと」だった。
組織委員会の女性理事を「わきまえている」と表現したことについて、「女性は発言を控える立場という認識か」と追及されたが、「そうではない」と否定した。
発言の意図を問われると「場所だとか時間だとか、テーマだとか、そういうのも合わせて話してくことが大事なのではないですか。そうでなければ会議は進まないのではないですか」と答えた。
一連のやりとりを聞いていても、森会長は自身の発言の問題点を「男女を区別した」点と捉えただけで、何がどう「不適切」だったのかには言及しなかった。
また森会長の態度からも、この問題に向き合っていないのではという疑問を持った。
回答をはぐらかす森会長に対して、記者が追及を続けようとすると「面白おかしくしたいから聞いているんだろ」と、逆に怒りをぶつける一幕もあった。
「何を問題だと思っているか知りたいので聞いている」と記者が食い下がったが、「さっきから話している通りだ」と避けた。
不確かな情報を公の場で話す危うさ
最後に自分にマイクが回ってきた。
発言への認識を確認しようと、「女性が多いと会議の時間が長くなる」という発言は、誤った情報ではないかと尋ねた。すると森会長は、競技団体から「そのように聞いている」と返した。
森会長に情報の根拠を尋ねても「そういうことを言う人は、どういう根拠で言っていたのかは分かりません」と責任転嫁するような答えだった。
最後に「みんな怒っている。森さんの五輪を見たくないと言う声も上がっている。その声をどう受け止めるのか」と尋ねた。
森会長の答えが、「謙虚に受け止めています。だから撤回をさせていだただくと言っているんです」というものだった。
オリンピック・パラリンピックを運営する組織委員会のトップが、根拠が不確かで、差別的な発言を、JOCの評議員会という公開された場で発信する。
その危うさを、森会長は感じているのだろうか。
(濵田理央 @RioHamada)