より安全なレシートへ。アメリカやヨーロッパで環境や健康への影響を見直す動きが広がる

紙のレシートは、環境負荷や人体への影響が懸念されており、消費者も電子レシートへの切り替えを求める声もあります。
サステナブル・ブランド

米小売でより安全性が高く、環境負荷が少ないレシートへの転換が進んでいる。最大手の薬局チェーンCVSヘルスは、全米1万店舗で内分泌かく乱化学物質「ビスフェノールS(BPS)」でコーティングされた感熱紙レシートをフェノールフリーの再生紙に切り替え、さらに電子レシートの利用を促進することを決めた。ディスカウントストア大手のターゲットも今年中にフェノールフリーのレシートに転換する。米国のみならず、人体への影響を及ぼす化学物質を見直す動きは、欧州を中心に世界的に広がろうとしている。(翻訳・編集=サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

米環境団体グリーン・アメリカによると、米国では、紙のレシートの使用により、年間300万本以上の木と約340億リットルの水が使われている。さらに、レシートの生産過程で約13万6000トンにおよぶ廃棄物が発生し、40万台以上の自動車が排出する量に相当する温室効果ガスが排出されているという。

健康面でも懸念がある。レシートに使われる感熱紙の多くがビスフェノールA(BPA)やビスフェノールS(BPS)でコーティングされ、生殖機能障害や二型糖尿病、甲状腺疾患など人体に影響をおよぼす危険性があるとされている。欧州連合(EU)は現在、欧州グリーン・ディールの一環で、安全で持続可能な化学物質の生産や利用を促進する方針を進めている。日本企業でも、リコーが今月8日、BPAやBPSの人体への影響が懸念されていることなどを理由に、2021年春からフェノール系化合物を含まない感熱紙の販売を開始し、生産・販売するすべての感熱紙を順次フェノールフリーに変えていくこと発表した。

サステナブル・ブランド

グリーン・アメリカは今月、ホールフーズやアップル、スターバックスなど大手小売やファーストフードチェーンなど35社のレシートの安全性について調べたレポート『スキップ・ザ・スリップ(Skip the Slip)』を発表した。消費者が店頭などで電子レシートを選べる選択肢を設け、フェノールフリーのレシート紙を導入した企業には、CVSヘルスやターゲットのほかにアップル、ベン&ジェリーズ、ベスト・バイの5社が名を連ねる。フェノールフリーのレシート紙を導入しているものの電子レシートの選択肢がない企業は、ホールフーズ、コストコ、トレーダー・ジョーズ、リドルだ。

グリーン・アメリカはレポートと同名のキャンペーン「スキップ・ザ・スリップ」を通して、2017年からレシート紙の削減と安全性を求めてきた。今回、フェノールフリーのレシートへの完全な切り替えを行ったCVSヘルス宛の嘆願書には、数千人の署名が集まったという。その後、CVSヘルスとグリーン・アメリカは、レシート紙の長さを見直すこと、顧客に電子レシートを選んでもらうようプロモーションすること、ビスフェノールフリーの再生紙への切り替えについて対話を行ってきた。CVSによると、プロモーションの強化により、2019年には100万人以上の顧客が電子レシートに切り替えたという。長さにすると、地球を一周できる、4万3800キロメートルのレシート紙が節約できたことになる。

報告書によると、米国での感熱紙の需要は年々増加しているが、新型コロナウイルス感染症の拡大後、感熱紙を使ったレシートの消費量は減っており、2019年の28万トンから2020年は25万2000トンと1割減になる見込みだ。このまま自宅から買い物をする人が増え、コロナ後も紙のレシートが減り続ければ、需要も減少し続ける可能性がある。しかし、同団体は、ペーパーレスは個人や企業で進んでいるが、ある分野で紙の使用量が減っても、別の分野で消費が増えることがあると指摘する。例えば、オフィスでの紙の使用量は減っているが、オンラインショッピングや配送に使われる包装は増えていることなどが挙げられる。

消費者も電子レシートへの切り替えを求めている。グリーン・アメリカが2019年に市場調査会社センサスワイドと実施した1011人を対象にした調査によると、89%の消費者が電子レシートを選べるようにして欲しいと回答。特に電子レシートを求める声が高かった年齢層は44歳以下だった。電子レシートを求める理由で多いのは、「環境」と「レシートの保管のしやすさ」。さらに回答者の50%以上が、受け取った半分以上のレシートを捨てるか紛失していると回答した。

グリーン・アメリカの気候キャンペーン・ディレクター、ベス・ポーター氏は「CVSヘルスがレシートを切り替えたことは、電子レシートと安全性が高い再生紙を求める消費者の声の高まりの表れだ。同社が、事業全体で発生する廃棄物を削減する余地がないかを極め、今回の進歩をさらに発展させることを促していく」と語っている。

【関連記事】

注目記事