企業が「若者の違和感」を聞けば“大人社会”が変わる。今井紀明さんが「10代の声」を尊重する理由

環境問題などに声をあげる若い世代。その声に、大人はどう向き合って行くべきなのか。10代と向き合い続けるNPO法人理事長に聞きました。

2019年、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが、ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットに出席し、地球温暖化に本気で取り組んでいない大人たちに意見した姿が注目されました。

日本国内でも、若い世代が、プラスチックごみ問題、石炭火力発電所建設などの環境関連の事象に声を上げています。持続可能でよりよい世界を目指す国際目標SDGsは日本社会にも浸透しつつあります。

ところが、こういった若い世代の声に対し、ネット上では、「代案を出せ」「勉強しろ」などの言葉が一部の人から向けられることも少なくありません。

若い世代の声に、大人はどう向き合って行くべきなのでしょうかーー。

自身も高校時代に環境問題に取り組み、現在は10代の孤立を解決する「認定NPO法人D×P」の理事長を務める今井紀明さんは「違和感を発信すること自体が解決策を生むきっかけになりうる」とし、“大人社会”の空気を変えるには企業の姿勢が鍵になると指摘します。

「10代の悩みは、社会の『映し鏡』」

今井紀明さん
今井紀明さん
オンライン取材の画面より

<今井紀明(いまい・のりあき)さん/認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長>

1985年生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。高校生の時、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。活動のためにイラクへ渡航した際、現地の武装勢力に人質として拘束される。帰国後、「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。 

偶然、通信制高校の生徒が抱える課題を知り、親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なる。専門商社勤務を経て、2012年にD×Pを設立。「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望がもてる社会」を目指して活動している。

最初に伝えておきたいのですが、僕は、声を上げている若い世代の努力と勇気を心から尊敬しています。

日本の学校教育では「社会課題へのアクションの仕方」を学ぶ機会がほぼないにも関わらず、自分たちで考え、行動していることへのリスペクトはあってしかるべきと思っているからです。

個人的な経験からも「若者の声から学ぶべき」と実感しています。

スタートアップで活躍しているZ世代を中心とした若い企業家から学ぶことは多いです。また、NPOの仕事を通じて、日々10代の話を聞いていますが、その悩みは社会の「映し鏡」だと感じます。社会のひずみのしわ寄せを受けやすい年代なのに、年齢や金銭面の障壁があり、自分ではどうにもできないことも多い。一方で、自由な発想で、「これから生きていく世界」に意識が向いている人も多い。だから、若い世代の声は「聞かれるべき」だと思うんです。

もちろん年代にとらわれず互いから学ぶことが必要だと思いますが、大人側は積極的に若者・子どもたちに「インタビュー」して、彼らの問題意識の背景を掘り下げ、学ばないといけない。僕自身は、それが「大前提」だと思って行動しています。 

先生たちは「具体案ないじゃん。だめだね」みたいなことは決して言わなかった

<NPOを立ち上げ、社会課題解決のために行動を続ける今井さん。その背景には、高校時代の経験があるという。環境問題に取り組み始めた頃、自身の感覚を尊重してくれた人たちがいた>

今井紀明さん(2019年撮影)
今井紀明さん(2019年撮影)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

高校1年の頃、環境に関心を持ち始めました。地球温暖化について知ったことや、レスター・ブラウン氏の「地球白書」を読んだことなどから危機感を抱きました。しかしSNSもない時代で、どう動いたらいいのか分からない。最初は、「何かしないといけない」と口に出すことぐらいしかできませんでした。

この時のことで強く記憶に残っているのは、学校の先生が話を聞いてくれたことなんです。

僕が1人でやっていることに対し、先生は淡々と話を聞いてくれ、「その感覚は大切にした方がいいよ」と言ってくれた。「何ができるだろう」と一緒に考えてくれた。生徒会の協力も得られ、学校でのゴミ分別の実施に繋がったんです。最初は声を上げることから案を一緒に作り、学校の状況が変わっていくことをその時に体験しました。

同級生たちからは「変わった人」と思われていた僕ですが、先生たちは「具体案ないじゃん。だめだね」みたいなことは決して言わなかった。校長先生から「頑張れ」と鼓舞された記憶もあります(笑)。大人が聞いてくれ、支えてくれた。最初に潰されなかったことが、現在の僕につながっています。

子どもたちや若者が声をあげるのはなぜなのか。そこを社会が見つめる必要性がある

今の若者を見ていて「しんどそうだな」と思うのは、ネット上でのバッシングがあることです。

僕の頃と変わらず、アクションの仕方は学校ではほぼ習わないだろうし、同級生から「異質な人」という目を向けられることもあるかもしれない……。それでも調べて行動につなげたのに、ケアのないネット空間で社会の大人から「否定の言葉」を投げられる。「代案出せよ」「勉強してこい」…世の中には、代案が必要なケースや事情もあると僕は思っていますが、子どもたちや若者が声をあげるのはなぜなのか、そこを社会が見つめる必要性があると思います。芽を潰すことは、社会の未来にとって損失でしかありません。

違和感を発信すること自体が問題を表面化し、解決策を生むきっかけになりうるんです。ですから、違和感を口にすることは尊重されなきゃいけないと思っています。

企業らが話を聞く姿勢を見せることで、個人の大人も“影響される”

<ネット上での否定的・攻撃的な言葉は、多数の好意的な言葉の中のほんの一部であったとしても、向けられた側には大きな精神的負担になることがある。今井さんは、SNSなどのプラットフォーム側が利用者ケアに取り組むべきだとする一方で、「それだけでは、若い世代に攻撃的な態度をとる人が完全にいなくなることはないだろう」と考える。ここで鍵となってくるのが、「民間企業らの『聞く姿勢』」だと提案する>

今井紀明さん(2019年撮影)
今井紀明さん(2019年撮影)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

現状を変えるには「空気を変えていくこと」が大切だと思うんです。

理想は、社会課題解決について学校教育で学び、「声を上げる風景」を“当たり前”にすることかもしれません。しかし、政治を動かし、学習指導要領に落とし込んでいくのは時間がかかりますよね。

では、最短距離で空気を変えるにはどうしたらいいか。それは、企業や社会的立場のある人が「若者の声を聞く姿勢」を見せていくことだと思います。

ユーグレナ社が10代のCFO(最高未来責任者)を募集した事例は注目されましたよね。あのように経営に直接関わる形もいいですし、顧客としての若者に向き合うのでもいいと思います。

「企業は10代の言う通りにすべき」と言っているのではありません。採り入れるかどうかは別の話として、企業や立場のある人が話を聞く姿勢を見せていくことで、個人の大人も「そういう振る舞いをした方がいいのか」と影響されるんです。そうやって一般社会のムードが変わっていくと思っています。

それに、若い世代の声を聞くことは、企業内の体制を時代に合わせたよりよいものに変化させることにつながるかもしれない。環境問題に取り組む姿勢は、グローバルで企業評価を得ていくのに不可欠になってきていますよね。

10代には、違和感は口に出していいし、辛くなったら声をあげるのを休んでいいし、困ったら信頼できる人に相談して欲しいと伝えたい。僕に相談してくれてもいいです。財界人や僕らのようなNPOなどがセーフティーネットとして機能することも必要だと思っています。

 「若者からの相談を通じて、現状の課題に気付かされることは多い」

<若い世代の声は「社会の映し鏡」で「聞かれるべき」と語る今井さん。それは、より良い未来につなげるためだけでなく、困難に直面している人に気づいていくためでもある>

今井紀明さん(2019年撮影)
今井紀明さん(2019年撮影)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

新型コロナの影響による困窮の声は、本当に多く聞こえています。

想像してみてください。親に頼れず、貯蓄もない中、緊急事態宣言でバイトのシフトが減り、学費の支払いどころか、食べることが難しい若者が多くいます。D×Pでは月1000円からの寄付を原資に、コロナ禍で苦しむ若者に食糧支援や現金給付を始めました。今年に入ってからも相談は止まず、1月も100件もの相談が寄せられた週末がありました。

コロナの問題に限らず、若者からの相談を通じて、現状の課題に気付かされることは多いです。

10代から「生理が来ないほうがいい」と相談されたことがありました。生理用品が金銭的負担になっていて、買うお金がないから外出できないんです。「生理の貧困」については海外で対策が始まっているのも知っていたのに、僕が国内の問題としてとらえられていなかったことを突きつけられました。

また、チャット相談の中で、「親の介護があり、学校に行けてない」という声を聞くことが最近気になっています。ヤングケアラーの問題です。当事者は、日々の生活に忙しすぎて周囲との関係が薄れていることも多く、行政やNPOも当事者に気がつけていない。 

こういった人たちを我々の方から見つけにいき、声を聞き、支援につなげなければいけない。そう思って活動を続けています。

■取材を終えて

「代案を出せ」
「大人に利用されているだけ」
「勉強しろ」

若者の意見に対して、ネットという「公」の空間で一部から向けられる抑圧的な言葉や冷笑的な態度ーー。

こうした構図を見て、声を出すことをためらう人もいるかもしれません。

でも、そもそも「完璧な代案」がないと声を上げてはいけないのでしょうか?

「芽を潰すことは、社会の未来にとって損失でしかありません」という今井さんの言葉が印象的でした。(湊彬子 @minato_a1 ・ハフポスト日本版)

注目記事