米国の前大統領の支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件を受けて、ツイッター等のSNSなどが暴力を扇動したとして、トランプ氏のアカウントを停止した。これは「言論の自由」を制約する行為ではないかと世界各国で議論されている。
私はこの問題について米国弁護士の視点からなるべくわかりやすく見解を示したい。
合衆国憲法修正第一条は適用されない
結論から言えば、アメリカ合衆国憲法修正第一条は、一企業であるTwitterやFacebookには適用されない。修正第一条は政府が言論や出版の自由を制約することを防ぐために存在する。ただし、法の平等な保護にかかわる修正14条によって州や地方自治体にも適用されるようになったが、民間企業には適用されない。
つまり、民間企業は規模の大小にかかわらず、修正第一条を遵守する必要はないのである。トランプ氏のアカウントを凍結させたフェイスブックやツイッターは、自社の判断で利用を停止させることができる。「SNSを運営する企業が言論の自由を抑圧している」と主張している人は言論の自由の順守を求める意図だとは思うが。
ただし、今回の事件によって言論の自由を巡り様々な議論が発生したことは、私たちがこの問題に向き合う機会を与えたともいえる。
例えば、合衆国憲法修正第一条の下では、「悪い言論」であっても、「良い言論」と同様に扱わなければならないということを示している。言論の良し悪し等あってはならない。つまり政府がそれをジャッジする等あってはならないと今回の一件でアメリカ国民にも再確認させた。
また、トランプ氏支持者による連邦議会襲撃とトランプ氏による特定のスピーチとの因果関係を立証するのは非常に難しいことである。政府は「喫緊の無法行為を扇動、行為を発生させる可能性のあることや、喫緊の無法行為を誘発、行為を発生させようとした発言」に対しては制限したり、罰したりすることはできる。一方で、トランプ氏の発言もまた修正第一条で保護されている。事件との因果関係を立証しようとする時、もし彼が「よし、今すぐ国会議事堂に群がって来い」と言っていたら、扇動したと立証できるだろうが…そうではなかったからだ。
米国通信品位法第230条(Communications Decency Act of 1996)
さらに、今回のトランプ氏のアカウント凍結は、プロバイダ免責を定めた条文を根拠にしていたことが議論に拍車をかけた。通信品位法第230条は1996年に可決され、ウェブサイトで共有されるコンテンツについてインターネット会社に法的免責を与えており、コンピュータ・ネットワーク上の猥褻表現あるいは下品な表現の規制を目的に導入された。オンライン上でのコメントや投稿に対するユーザーの責任を問うものである。ハイテク企業がこの法律を盾にして、大統領のアカウントを凍結することを許可したことが物議を醸した。
長年にわたり、この改正は超党派の問題であり、民主党と共和党の両方が改正を求めてきた。トランプ氏はオンラインに投稿した内容への説明責任を問われることについてIT企業を保護するこの法律を声高に批判してきた。そして、バイデン大統領もこの法律を批判している。しかし、多くの者がこの法はインターネット利用者が自由で安全な環境を確保するために必要不可欠であると考えているだろう。
言論の自由と安全な発言環境の両立を検討
時に、事件における一般的な感情と法的見解は一致しないことがある。私たちが言論の自由を主張しつつ、社会において円滑なコミュニケーションを図るには、法律と社会性の双方を理解していなければならないだろう。
SNS上の私たちの発言に合衆国憲法修正第一条の効力は及ばないが、多様性が重んじられる現代においてSNSを運営する企業が誰かの発言を禁じることは、様々な意見に耳を傾ける力を失うことにつながりかねない。
私たちは今、言論の自由と、企業が自らの要望通りにウェブサイトを運営する自由を両立させられるよう、新たな規制を検討する時期を迎えているのかもしれない。
(文:ライアン・ゴールドスティン 編集:榊原すずみ/ハフポスト日本版)