新型コロナウイルスの感染拡大に収束の兆しが見えない中、2021年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催は今後どうなるのか。
菅義偉首相大臣は1月18日に開会した通常国会での施政方針演説で「新型コロナウィルスに打ち勝った証」としての五輪の開催に改めて意欲を示したが、海外では中止に言及する声や懐疑的な報道が活発になっている。
開催を実現したい日本の首相をはじめとする大会関係者と海外の識者の見解には大きな隔たりがある。それぞれの最近の発言や報道から改めて振り返る。
「コロナに打ち勝った証」としながらも「ワクチン接種」を前提とせず...
菅首相は18日、通常国会での施政方針演説で五輪について、以下のように述べた。
夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります。
翌19日には、橋本聖子東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣が閣議後の記者会見で、記者からの質問に回答。
橋本氏は五輪について「世界が直面している課題というものを、東京大会を通じてしっかりと課題解決、先進国という立場で世界のトップランナーとなるべく、成熟した国家としてやるべき東京大会をしっかりやり遂げていくのが重要であると思っている」と説明したと報じられた。
また、FNNプライムオンラインは19日、自民党の二階俊博幹事長が五輪について「開催をちゅうちょする問題ではない」として開催に向け強い意欲を示したと伝えた。
開催の可否を握るとされているのが、日本を含めた世界における新型コロナウイルスのワクチン接種の状況だ。
しかし、先進国・途上国ともに接種が思うように進まず、「集団免疫」の獲得が困難な情勢とも報じられている。
一方、加藤勝信官房長官は19日の記者会見で、「ワクチンを前提としなくても、安全・安心な大会を開催できるよう、必要な検査、行動管理をはじめとした総合的な感染症対策について検討が進められているところ」として、五輪の開催ではワクチン接種を前提とはしないとの考えを示している。
世論調査では「中止すべき」が多数
2020年12月、延期された五輪の開催についてNHKが世論調査を実施。
調査では「開催すべき」「中止すべき」「延期すべき」「わからない・無回答」の4項目で回答を求めたところ、「開催すべき」が27%、「中止すべき」が32%、「さらに延期すべき」が31%で、「中止すべき」が「開催すべき」「さらに延期すべき」を上回ったと報じた。
世論においても中止に賛同する声の割合が大きくなっている実情だ。
ネット上でも「ワクチン接種が行き届かない状況で開催は難しいのでは」などと開催に疑問の声が多く挙がっている。
東京五輪、海外で相次いで懐疑論「中止あると思う」
海外では、大会の開催に懐疑的な見解も多い。中止の可能性に言及する報道が連日のように出ている。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズの電子版は1月15日、「東京オリンピック開催の望みは薄くなった」という見出しで記事を掲載。
五輪について「(開催の)見通しは暗くなってきている」と指摘し、国際オリンピック委員会(IOC)が「第二次世界大戦以来初めてオリンピックをキャンセルすることを余儀なくされる可能性がある」とした。
その根拠として、日本の河野太郎行革担当相が1月14日に東京オリンピックが「どちらに転ぶかは分からない」と述べたとロイター通信が報じたことやワクチンの普及が予想より遅れている点を挙げ、「人類の多くはこの夏までワクチン接種を受けないままになるだろう。日本は2月下旬まで国民への予防接種を開始する予定はない。このプロセスには数カ月かかる」と指摘した。
さらにはIOCや日本側も、競技に参加する選手やコーチらが「予防接種を受けずにオリンピックに参加することになると想定している」と伝えていた。
また20日には、2012年ロンドン五輪・パラリンピック大会組織委員会で副会長を務めたキース・ミルズ氏が19日放送のBBCラジオで「もし私が東京の組織委員会の立場にあったなら、中止プランを準備していると思います。そして(実際に)、東京の委員会は中止プランを準備していると私は思っています」と話したと報じられている。
ミルズ氏は開催可否の判断は「1、2ヶ月以内」とし、「東京の組織委には中止計画があると思う」とまで踏み込んで発言していた。
一方では、ロンドン五輪の大会組織委員会の会長で現在は世界陸上競技連盟会長やIOCの委員を務めるセバスチャン・コー氏は「中止にはならないと思う」とコメントしたと報じられ、見解が割れている。