東京・池袋で2019年4月、車を暴走させて母子2人を死亡させ、他9人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告の第4回公判が1月19日、東京地裁であった。
この日は、事故解析を担当した警視庁の交通事故解析研究員の証人尋問が開かれた。
事故解析研究員は検察側の尋問で、事故現場手前の交番やガソリンスタンドの防犯カメラ、飯塚被告が運転していた車のドライブレコーダーの映像を解析したと説明。
被告の車と同様の車両による再現・検証の結果と合わせて、▽交番付近▽ガソリンスタンド付近▽被告の車が縁石に衝突する直前▽事故が起きた1つ目の横断歩道の直前▽事故が起きた2つ目の横断歩道の直前の計5地点について、当時の走行速度を割り出したと説明した。
その結果、各地点の速度を次の通りに割り出したという。
交番付近:時速約53キロ
ガソリンスタンド付近:時速約60キロ、時速約62キロ(カーブのため2地点を計測)
縁石に衝突する直前:時速69キロ
1つ目の横断歩道の直前:時速約84キロ
2つ目の横断歩道の直前:時速約96キロ
また映像解析の結果、ガソリンスタンド付近を走行していた飯塚被告の車両について、加速時にみられる前方が浮き上がる現象が確認されたと指摘した。
弁護側の反対尋問では、カーブだったガソリンスタンド付近の速度解析について、直線距離を基に割り出している点に触れ、解析結果の精度を問われた。
これに対して事故解析研究員は、車の中心部分の移動距離を計測したことに触れ「鑑定に耐えられる。鑑定に支障はありません」と述べた。
これまでの公判で、検察側は、飯塚被告がアクセルとブレーキを踏み間違えたと主張している。
これに対して弁護側は、経年劣化によって「電気系統のトラブルでブレーキがきかなかった可能性は否定できない。踏み間違えの過失は認められない」と否定。車に異常があった可能性を訴えている。
時事通信が報じた起訴状の内容によると、飯塚被告は2019年4月19日、ブレーキと間違えてアクセルペダルを踏み続け加速。赤信号を無視して横断歩道に進入し、松永真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(同3)をはねて死亡させたほか、9人に重軽傷を負わせたとされる。
遺族が会見、民事訴訟を起こしていた
亡くなった松永さんの夫・拓也さんらは、被害者参加制度を利用して公判に参加した後、司法記者クラブで会見を開いた。
拓也さんは「加速したことは疑いのない事実だと思う。過失すら認めてくれない。しかし明確な不具合の根拠も出てこない。裁判を続けてつらい思いだ」と打ち明けた。
松永さんの父親、上原義教さんも「車のせいにするのは残念でたまらない。これから反省して、心からお詫びされることを願っている」と訴えた。
松永拓也さんと上原さんはまた、自らを原告とする、飯塚被告に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたことを会見で明らかにした。
この刑事裁判の初公判があった2020年10月8日に提訴したという。
弁護団は、コロナ禍や被告の無罪主張により刑事裁判の長期化が予想されることなどを踏まえて、判決を待たずに提訴したと説明。「民事訴訟の方が期日が柔軟に入りやすい。(刑事よりも)被告本人に早く話を聞けるかもしれないというのがポイント」と述べた。
拓也さんは「まずは刑事裁判に向き合いたい。コロナ禍で裁判が進まないという前提を踏まえて、私は何よりも早く、なぜ2人がなくならなければならなかったのか、加害者に聞いてみたい」と思いを語った。
被害者にも特別休暇を、厚労省に働き掛けへ
拓也さんはさらに、被害者の精神面の回復や被害者参加制度の利用を目的とした特別休暇の付与を求めて、厚労省に働き掛けをする考えも明らかにした。
弁護団によると、犯罪被害者に対する特別休暇についての明確なルールはなく、企業の判断に委ねられている。厚労省から企業に対する「お願い」に止まっているのが現状だという。
拓也さんは現在、有給休暇を使って裁判に参加していると説明した上で、「被害者や遺族の立場を考えて、特別休暇が認められる社会になってほしい」と説明。
「(事故から)1カ月間、心理的な面で会社に行けなかったので、休暇をつなぎ合わせた。たまたま休暇が残っていなければ、回復できなかった。これから被害者になってしまう方に同じ思いはして欲しくない。厚労省には考えてほしい」と訴えた。