「核兵器の終わりの始まりです」。
1月22日、核兵器禁止条約が発効される。核保有国や「核の傘」に守られていると考える日本などが参加していない条約だが、それでも非常に重要な一歩。条約成立に尽力しノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)国際運営委員の川崎哲さんは、「すぐに核兵器ゼロ」とはいかなくても、この条約が核兵器を「使えない武器」にするために担う意義は大きいと解説する。
核兵器禁止条約とはどんなものなのか?
核なき世界のために私たちにできることはあるのか?
核兵器禁止条約とは?
▼史上初「非人道的で違法」とする条約
▼核兵器の開発・保有・使用・威嚇・援助全て禁止
まず、核兵器禁止条約とは、核兵器を「非人道的で違法」とした、史上初の条約だ。核兵器を完全に廃絶することを目指し、核兵器の開発・保有・使用・威嚇・援助などすべてを禁止している。一部の国に核兵器の保有を容認する「核不拡散条約(NPT)」とは大きく異なるアプローチだ。
さらに、締約国は核兵器や核実験の被害を受けた人々に医療などの援助を行う義務や汚染された環境を回復する義務を負うという点も画期的だ。
「核兵器は、絶対にあってはいけないものだ」ということを初めて国際社会が宣言する。新しい規範を作る条約なんです。広島・長崎の経験から日本では、被爆は「二度と起こしてはならない」と学校で習ってきましたが、世界の人たちはそうではない。核兵器は酷いものではあるけれど、「持っている国が大国であり、力の象徴」という風に見られてきたわけです(川崎さん)。
条約は国連会議での協議を経て2017年7月7日に採択された。条約は50カ国が批准(それぞれの国会で承認)してから90日後に発効するとされており、2021年1月22日が発効の日となる。
条約が発効した後、1年以内に最初の締約国会議が開催される。その後2年ごとに会議が開かれ、発効から5年後に再検討会議も開かれる。
日本の参加は?
▼核保有の9カ国は批准せず
▼「核の傘」日本も
現在、世界で核兵器を保有しているのは9カ国。NPTが認める核保有国のアメリカ、ロシア、フランス、イギリス、中国の5カ国に加えて、NPT非加盟国のインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮だ。
しかし、核兵器禁止条約をこれらの9カ国は批准していない。
アメリカは「条約は安全保障の現実を考慮していない。核軍縮を阻害する」と反対し、批准した国に対しても取り下げを求めていたことがAP通信などによって報じられている。
唯一の被爆国であり、核兵器廃絶を目標に掲げる日本も、この条約の批准はしない立場を表明している。核保有国であるアメリカの同盟国である日本は、アメリカが核兵器の抑止力を提供し、安全を保障するといういわゆる「核の傘」に守られていると考えているからだ。
採択から1ヶ月後に就任した河野太郎外務大臣(当時)は、2017年11月に更新したブログで「核兵器をただちに違法とする核兵器禁止条約に参加すれば、米国の抑止力の正当性を損なう。日本国民の生命や財産が危険にさらされても構わないと言っているのと同じ」と日本の立場を説明している。
「日本政府は表面的には『核保有国とそうでない国の橋渡しに…』などの説明をしていますが『アメリカの核が日本を守ってもらうのに必要だ』というのが一番本質的な日本政府の立ち位置です」(川崎さん)
意味があるの?という批判も…「非常に重要」(川崎さん)
▼経済活動が国家を超える
▼クラスター爆弾や地雷禁止条約は企業に影響
核保有国や日本、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などが参加せずに発効される条約。アメリカも、条約は失敗だとして反対の論陣を張っている。「意味があるのだろうか」と考える一般の人々もいるだろう。
「そう簡単に核兵器のゼロが実現できるとは私も思っていない」。長年、平和運動に身を捧げてきた川崎さんですらそう語る。
一方で、条約が掲げる規範がグローバルに活動する企業や金融機関に影響を与え、その経済活動が、国家という枠組みを超えた世界の新たな秩序を作り出す可能性がある。それは、別の兵器を禁止する条約で既に実践されてきたことだという。
「クラスター爆弾や対人地雷を禁止する条約(日本は共に加盟)は既にありますが、それらの兵器が世界から無くなったわけではありません。しかし、条約ができた後で、例えば『シリアの内戦でクラスター爆弾が使われたらしい』と判明すると国際的に大問題になりましたね。
企業も国際的な非難を受けます。銀行も兵器の製造のためにお金を貸すことは許されなくなっていきます。現にアメリカは、それぞれの条約にも加盟していませんが、アメリカの企業は製造をやめる動きになっています。
グローバル経済の時代ですから、グローバルに活動する金融機関であればあるほど、国際的な人道や環境、倫理を気にするようになります。国連が掲げた『SDGs』(持続可能な開発の目標)という考え方も広がってきました。『人道や国際法を遵守しているか?』それが、企業や金融機関にも問われています。さらに、国際ルールに反している企業にお金を貸していると後々に非難されて問題になる。すると、自らの企業活動のリスクになります。
核兵器に投資することが企業のリスクになる。条約でそう時代を変えるんです」
日本でも、クラスター爆弾の禁止条約が発効した後で、全国銀行協会がクラスター爆弾を製造する企業への融資などを禁止を宣言をするといった動きがあった。
また、アメリカのバイデン新大統領はオバマ政権時代に進めようとしたが、核抑止力に期待する日本などが反対して実現できなかった「核の先制不使用の宣言」(相手から核攻撃を受けない限り、自分たちは核兵器を使わないという宣言)について再検討することを選挙戦中に表明している。
川崎さんは「アメリカが核兵器禁止条約に直ちに参加するとは考えにくいが、『先制不使用の宣言』を進めることはできるのか。日本はその時どのような立場を取るのか、日米の新しい政権の動きを監視していきたい」としている。
私たちに何ができる?
まずは「話題にする」
議員・金融機関への問い合わせも
核兵器禁止条約の効力をより高めていくためには、批准する国の数を増やすことが有効だ。しかし、日本政府が参加していない中で、私たち一人一人は核兵器をなくすためにどんなことができるだろうか?
まず簡単なのは身近な人たちやソーシャルメディアなどで話題にすること。そして、今ならばまだ聞くことができる被爆者の話を聞き、被害の実態を知ること。そう川崎さんは話す。
また、今後開かれる核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバーとして参加する道もまだ残っており、公明党なども働きかている。
川崎さんらによる「議員ウォッチ」の活動で国会議員や都道府県知事が核兵器禁止条約に賛成するかどうかの調査を行なっている。その結果、国会議員およそ700人のうち賛成者は23%。ほとんどが野党議員だったが、広島選出議員の一部や公明党議員からは前向きなコメントもあったという。
「反対の理由を『政府がやらないと決めているから』とする国会議員もいるんですが、おかしいことです。『国会が方針を決めて行政府が実施する』というのが、私たちが小学校で習った日本の三権分立でしょう。本来の姿ではありません。23%は賛成ですが、残りの議員は『反対している』というより『考えていない』。私たちにできることは残りの議員に『考えさせる』ということ。それを変えていけば少しずつ日本も変わっていくのではないでしょうか?」
「議員ウォッチにはボランティアで若い方も参加していますから、参加するのもいいです。そして、国会議員は地元の有権者から、何か言われるのが非常に効果的ですから、聞いてみる。なぜ議員が『考えていない』で済まされるのか、それは核兵器について有権者が何も言っていないからです。人数は少なくてもいい。地元で一人一人が聞いていくのはとても大事です」
また、日本では現在、温度差はあるが16の銀行が核兵器の製造企業に資金を提供しないと表明している。
「皆さんがお金を預けている銀行がその中にあるか調べてみる。聞いてみる。入っていなければ変える。そうしたこともできるのではないでしょうか」。
【1月22日夜7時からインスタライブ】
ハフポスト日本版はNO YOUTH NO JAPANとのコラボレーションで、被爆者の児玉三智子さん、ヒバクシャ国際署名を進める林田光弘さんに話を伺うInstagramのライブ番組を開催予定です。核のない世界のために、日本の私たちに何ができるか?若者たちと一緒に考えます。
視聴はハフポスト日本版のインスタグラムをフォローしてくださいね。