コロナ禍で急増している生活困窮者。困窮者の生活保護制度利用を妨げているものは何か?
生活困窮者の支援をする一般社団法人つくろい東京ファンドによるアンケート調査の結果、生活に困窮しているにもかかわらず、生活保護の利用を躊躇したり、忌避したりする人が多い背景には、「扶養照会」の存在があることがわかった。
同団体は、厚生労働省に対し、扶養照会の運用を最小限に限定するよう求めるネット署名活動もスタートさせた。
生活保護の利用は約2割
つくろい東京ファンドでは年末年始、都内の生活困窮者向け相談会の参加者を対象に、生活保護利用に関するアンケート調査を実施。165の回答があり、うち男性は150人(90.9%)、女性は13人(7.9%)、その他・無回答が2人(1.2%)。
代表理事の稲葉剛さんは1月16日の記者会見で、「新型コロナの感染拡大が始まり、特に秋以降、炊き出し場所などに集まる人が急増している」とし、生活困窮者の危機的な状況について指摘した。
アンケートに答えた人々は、生活に困窮している状態にあると考えられ、ほとんどが生活保護の利用要件を満たしていると推察される。
しかし、現在、生活保護を利用している人は22.4%にとどまった。64.2%の人が、一度も利用していないと答えた。
コロナ禍の年末年始の支援活動を通しわかったことは、「例年にくらべ、住まいや持ち家があり、家族で食糧支援を求める」人が多かったこと。
路上や公園、ネットカフェ、カプセルホテル等を生活拠点とする不安定居住層はアンケートに答えた人全体のうち52.1%、生活保護利用歴なしの人々の中では54.7%を占めていた。
「扶養照会」に半数以上が抵抗あり
生活保護を申請するにあたり、高いハードルになっているのは「扶養照会」だ。
扶養照会とは、福祉事務所が生活保護を申請した人の親族に「援助が可能かどうか」と問い合わせること。現在、もしくは過去に生活保護の利用歴のある人の中で、「抵抗感があった」と回答した人は54.2%で半数以上に上った。
「抵抗感があった」と回答した人の中からは、以下のような理由があがり、扶養照会への心理的負担が多いことがわかる。
・家族から縁を切られるのではと思った。
・知られたくない。田舎だから親戚にも知られてしまう。
・以前利用した際、不仲の親に連絡された。妹には絶縁され、親は「援助する」と答え(申請が)却下された。実家に戻ったら親は面倒など見てくれず、路上生活に。
また、生活保護を現在、利用していない人の中でも、およそ3人に1人にあたる34.4%が「家族に知られるのが嫌」だと回答している。
特に20〜50代に限定すると、42.9%とさらに高い割合を占める。稲葉さんはこうした原因を、「たとえば若い人の中には、田舎で暮らしている親と関係が良好ではなく、都会で一人で暮らしており、連絡したくないと考える人もいる」とした。
また、過去に利用したことがある人の中では、相部屋や、生活保護の相談を受ける職員の対応を、利用したくない理由としてあげる割合も高い。
一方、現在利用していない人で、生活保護の制度や運用が変わり「親族に知られることがないなら利用したい」と答えた人は39.8%、どう変わっても利用したくない人は5.5%と低い数字であることから、稲葉さんは「今の制度に問題がある」と指摘した。
アンケートの結果からは、生活保護をめぐっては適切な知識が十分に周知がされていないことももわかった。
厚労省では、2020年の年末に「生活保護を申請したい方へ」と題したページを公開し、「よくある誤解」なども紹介。「生活保護の申請は国民の権利です」と説明している。
扶養照会の実績0%の自治体も。署名活動を開始
アンケート調査の結果からは、生活保護の利用には「扶養照会」の高いハードルがあることが浮き彫りになった。
実際、扶養照会を行い、援助につながることは極めて少ないという。
同団体が都内の自治体(足立区、台東区、大田区、荒川区、あきる野市など)を対象に調査したところ、扶養照会の実績は0〜0.4%だった。
こうした状況を受け、つくろい東京ファンドでは、change.orgを使ったネット署名活動「困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!」をスタートさせた。
アンケート結果や、コロナ禍で生活困窮者が急増しているという状況を踏まえ、扶養照会の運用を最小限にし、下記2点を厚生労働省に対し求めている。
・扶養照会を実施するのは、申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合のみに限る。
・生活に困窮している人を制度から遠ざける不要で有害な扶養照会はやめてください。