家族や友人から「同性愛者」だと打ち明けられたとき、あなたならどうするだろうか。
中国の若者たちが、同性愛者であることを親に告白する葛藤を描いたドキュメンタリー映画『出櫃(カミングアウト)〜中国 LGBTの叫び』が、1月23日から映画館で上映される。
「結婚しないとあなたの人生は終わり」
「中国社会には同性愛者の居場所なんかない」
親からどれほど否定され、傷つけられても諦めない。映画には、「自分らしく生きたい」と「親だからこそ理解してほしい」という願いのはざまでもがく若者たちの姿が描かれている。
監督の房満満さんは「皆さんが本当は大事だと分かっていても、これまで言えずに隠してきた部分と向き合うとき、映画の若者たちの生き方から少しでも勇気をもらえるといいなと願っています」と語る。
(以下、一部作品のネタバレを含みます)
同性愛「絶対に治せる」
父親に初めてゲイだと伝える決意をした20代の男性と、母親にカミングアウトをしてから10年以上経つも理解されず、苦しみを抱える30代の女性を中心に物語が展開する。
「私のメンツはどうなるの」
「結婚しないなら自殺する」
「(同性愛は)治そうと思えば絶対に治せる」
LGBTQへの理解の世代格差、世間体や「子孫繁栄」を重んずる文化、ときに依存し合うほど強い親子関係...。
こうした中国の社会的背景も重なり、2人の親たちはときに過激で辛らつな言葉を子どもにぶつける。
房さんは「男女が結婚して家庭をもち、子を授かるという伝統的な家族観にしばられ、性的少数者はいないことにされ続けてきました。2人の親が示す否定的な反応は、今の中国社会を代表するものだと思います」と話す。
子どもを受け入れようとしない父母の態度は、「同性愛への嫌悪」だけが理由ではない。
性的少数者への理解が広がらない社会で、同性愛を公表して生きる選択をすれば娘や息子は「幸せになれない」として、子の未来を案ずる心情もある。
平行線をたどる親子の思い。映画では当事者の親や友人でつくるNGOが、子の同性愛を受け入れられず苦悩する親とつながり、親子がすれ違いを乗り越えられるようそばで支える。
自分だったらどうするか
房さんは2009年に日本へ留学。大学院を卒業後、2014年にドキュメンタリー番組制作会社「テムジン」に入社した。
『出櫃』制作のきっかけは、同じく中国の留学生であるゼミの後輩から、同性愛者であること、親にそのことを伝えられずに苦しんでいることを告げられたことだった。
「ときにお互いをコントロールし合うほど、中国の親子関係は結びつきが強い傾向があります。愛する親を傷つけたくない、でも親だからこそ理解してほしい。その葛藤を描きたいと思いました」
タイトルの「出櫃」は「クローゼットから出る」という意味で、セクシュアリティーを明かすカミングアウトのことを指す。
房満満(ぼう・まんまん)
中国・江蘇省生まれ。2009年に留学で来日し、2014年に「テムジン」に入社。ディレクターとして、主に中国の社会問題をテーマにドキュメンタリーを制作している。『激動の家族史を記録する 中国・新たな歴史教育の現場』で、2018年度ATP賞最優秀新人賞を受賞。『出櫃(カミングアウト)〜中国 LGBTの叫び』は2019年東京ドキュメンタリー映画祭短編部門でグランプリを受賞した。
撮影期間は4か月。房さんは「登場する2人は、父母から理解を得ることに挫折すればするほど、同性愛の当事者として生きていく決意がどんどん深まっていった気がします」と振り返る。
「日本はLGBTQをテーマにした多くの映像作品に触れることができ、パートナーシップ制度が各地に広がるなどの動きもあります。それでも、関係の近い人からカミングアウトされたとき、どれだけの人が受け入れられるでしょうか。自分だったらどうするだろうと、想像しながら観てもらえたらうれしいです」
<上映スケジュール>
『出櫃(カミングアウト)〜中国 LGBTの叫び』は、1月23日からK’s cinema(東京都新宿区)での上映を皮切りに、以下の映画館で上映される。
東京 K’s cinema 1月23日〜
愛知 シネマスコーレ 1月30日〜2月5日
大阪 シアターセブン 2月13日〜
京都 アップリンク京都 3月5日〜
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト)