「全ては嘘から始まりました。
嘘に嘘が重ねられ、そして不寛容から始まったのです。私はヨーロッパで、社会がどのように制御不能となっていくかを直接目にしました」
元カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーさんが、アメリカの連邦議会議事堂で起こった暴動事件に関してYouTubeで動画メッセージを公開。ナチスによるユダヤ人襲撃事件を引き合いに出し、暴動の参加者や、支持した共和党議員らを批判した。
シュワルツェネッガーさんは共和党員。ナチス・ドイツの統治下にあったオーストリアで、第二次世界大戦の終戦から2年後に生まれ、その後アメリカに移住した。
公開した動画は7分半で、全文は次のとおり。
この国の移民の一人として、アメリカ人の仲間や友人、世界に向けて、最近起こった出来事に関して伝えたいことがあります。
私はオーストリアで育ちました。私はクリスタル・ナハト(水晶の夜)をよく知っています。1938年に起こった、ナチスの過激派グループによるユダヤ人襲撃事件です。
水曜日には、それがアメリカでも起こりました。暴徒によって議事堂の窓が壊されましたが、それだけではありません。
彼らは、私たちが当たり前と思っていた理念を打ち砕きました。彼らはアメリカの民主主義を体現する建物のドアを壊しただけではありません。建国の原則をも踏みにじったのです。
私は民主主義を失った国の、荒れ果てた場所で育ちました。第二次世界大戦の終戦から2年後の1947年に生まれました。
周りの大人たちは、史上最も邪悪な政権に加担した罪悪感から、酒に溺れていました。全員が反ユダヤ主義者やナチスではなかったけれど、多くは一歩ずつ、追従して行ったのです。彼らは隣に暮らす人々でした。
これから話す記憶は、今まで公に語ったことはありませんでした。とても辛い記憶だからです。
父は週に1、2回、泥酔して帰宅すると、叫び、家族を殴り、母を脅しました。ですが私は、父を完全に責めることはできませんでした。隣の家も、そのまた隣の家でも、同じように暴力が行われていたからです。私自身の耳で聞き、この目で見たのです。
彼らは戦地で体にけがを負い、自らが目にしたこと、行ったことで精神的な傷を負いました。
全ては嘘から始まりました。嘘に嘘が重ねられ、そして不寛容から始まったのです。私はヨーロッパで、社会がどのように制御不能となっていくかを直接目にしました。
ナチスと同じことがまた起こるのではないかと、アメリカと世界が恐れています。私はそれを信じていません。ですが、身勝手さと冷笑は、悲惨な結果を招くと気づくべきです。
トランプ大統領は公正な選挙結果を覆そうとしました。彼は嘘をつき、人々をミスリードしてクーデターを企てました。
私の父や当時の隣人たちも、(ナチスの)嘘に惑わされたのです。誤った方向に導かれる先を、私は知っています。
トランプ大統領は指導者として失格です。彼は史上最悪のアメリカ大統領となるでしょう。彼自身がまもなく、古いツイートのように消えていくのは良いことですが、彼の嘘と裏切りを容認した政治家たちはどうするべきか。
彼らに、セオドア・ルーズベルト元大統領の言葉を思い出させたい。
「愛国心とは、国を支持するということ。大統領の側に立つということではない」
ケネディ元大統領の著書に『勇気ある人々』がありますが、我が共和党の多くの議員たちは軟弱で、勇気ある人々ではなかった。断言します。
(トランプ氏を支持した)共和党の議員たちは、旗を振って議会に乱入した、独りよがりの反乱者たちの共犯者です。
ですが彼らは失敗しました。アメリカの民主主義は依然として強く堅かったのです。乱入のすぐ後に議会は再開し、バイデン氏の勝利を承認するという職務を果たしました。なんと素晴らしい民主主義の証でしょうか。
私はカトリック教徒として育ちました。教会やカトリック学校に通い、聖書や教理を学びました。
今回の出来事で私が思い出したのは、「しもべの心」という言葉です。自分よりも偉大なものに仕える、という意味です。学ぶべきは、公の奉仕者の心です。
政治家に必要なのは、権力よりも政党よりも偉大なもの、より高い理念に奉仕することです。その理念はこの国が築き、他の国からも尊敬されてきました。
この数日、世界中の友人が私に電話、電話、また電話をしてきました。この国を心配しているのです。ある女性は、アメリカの理想主義がどうあるべきかを憂いて泣いていました。
その涙は、世界にとってアメリカとは何かを思い出させてくれます。連絡してきた全ての友人たちに、私は「アメリカはこの暗黒の日々から再起し、輝きを取り戻すはずだ」と話しました。
これは『コナン・ザ・グレート』で使った剣です。剣に焼き入れをするほど、剣は強くなります。ハンマーで叩かれ、炎で焼かれて冷水で冷やされ、工程を繰り返すことで剣はどんどん強くなります。
この話をするのは剣づくりのエキスパートになって欲しいからではありません。アメリカの民主主義も剣の鋼と同じなのです。鍛錬することで、より強くなります。
私たちの民主主義は、戦争、不正、暴動にさらされました。今回の襲撃事件で、失われかねないことが何かを知ったため、私たちの民主主義は強くなります。
このようなことが二度と繰り返されないようもちろん改善が必要です。度を超えた事態を引き起こした人たちの説明責任を追及しなければなりません。私たち自身、私たちの党の過去と不調和を見つめ直さなければいけません。そして民主主義を第一に考えなければいけません。
今回の悲劇で負った傷をともに癒し合いましょう。共和党として、民主党として、ではなく、アメリカ人としてです。このプロセスを始めるにあたって、政治的な立場は関係ありません。バイデン次期大統領に、こう言いませんか。
「バイデン大統領。私たちはあなたの素晴らしい成功を望みます。あなたの成功は、私たちの国の成功です。私たちを再び一つにする努力を、心から支持します」
そして、憲法を覆せると思った人々は知るべきだ。あなたは決して勝てないということを。
バイデン次期大統領、私たちはあなたを今日も、明日も、この先ずっと支えます。私たちの民主主義を脅かす人たちから、それを守るために。すべての人に、アメリカに神の御加護がありますように。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)