今年はお家で「3時間おせち」。京都「菊乃井」村田吉弘さんのレシピで作ってみませんか?

「手抜きではなくて、論理的に考えていらない手間をどんどん省いているのです」。
撮影/久間昌史

この写真のおせち料理がたった3時間で作れるといったら、みなさんびっくりしませんか?

1月1日といえば、数日前から準備をし、きれいにお重につめられたおせち料理とお雑煮をいただく。

それが、ユネスコの無形文化遺産にも登録された「和食」の食卓の風景です。

でも昨今では、料理屋さん監修のおせちが手頃に買えたり、スーパーマーケットにはさまざまなおせち料理が売られたりするようになって、おせちは「作るもの」から「買うもの」へと確実に変化しています。

でももし、たった3時間で11品のおせち料理がお家で作れるとしたら、どうでしょう?

そんなに手間をかけずに作れるなら、作ってみてもいいかもしれないと思えてきませんか?

しかも、それが京都にある名料亭「菊乃井」の村田吉弘さん考案の「3時間おせち」だとしたら!

3時間で11品もおせち料理を作るコツなどを、村田さんに聞きました。

村田さん考案の「3時間おせち」のお品書きは下記の通り。

①菊花かぶら

②鰆南蛮漬け

③海老つや煮

④鯛きずし

⑤錦玉子

⑥栗きんとん

⑦海老松風

⑧スモークサーモン黄身巻き

⑨鴨ロース

⑩鰤照り焼き

⑪煮しめ

以上11品です。

村田吉弘さん
撮影/久間昌史
村田吉弘さん

――これだけの品数をたった3時間でつくれるなんて、その秘密はどこにあるんですか?

私は料理人ですから、本来いらない手間はすべて省くことができるんですよ。たとえば「調味調料は“さしすせそ”の順番で入れましょう」というのを聞いたことがあると思いますが、そんなことをしなくても、一緒に合わせておいてから入れても変わらず、おいしくできる。

今回の3時間おせちでは、煮しめを一つの鍋ですべて炊いています。一つの鍋で炊いたら味が混ざって美味しく出来上がらないという人も、思い込んでいる人も多い。だから一つひとつ別の鍋で炊くわけです。それでは、すごく手間がかかってしまいます。でも、私のような料理人は、そんな手間をかけなくても、鍋一つで一緒に炊いた方が美味しくなると知っている。

里いもも、「米のとぎ汁でゆがいて」と言われていますが、電子レンジにかければ十分。皮を剥いて長く置いておくと灰汁が出てしまいますが、皮を剥いてすぐにレンジにかければ灰汁は出ません。だから、15〜20分もあれば、煮しめが炊けます。

手抜きではなくて、論理的に考えていらない手間をどんどん省いているのです。

――昨今、おせち料理を作る家庭が減っていることについて、和食をユネスコの無形文化遺産に登録させた立役者でもある村田さんはどう思われますか?

遺産に登録された「和食」は私たちの生活に密接な関係があり、「お正月の午前中に雑煮というものを国民みんなが食べる」ということが一番評価されて承認されました。雑煮やおせちを食べるという習慣をなくすことは自分たちの文化をなくすこと。口でいくら文化といっても何もしないのではダメでしょう。全員で守っていくものです。

おせちをすべて作りましょうとは言いませんけれど、ちょっとくらい作ってみたらどうでしょう、と思いますね。

「今年は、これとこのおせちは家で作ったんだよ」というだけで、お子さんやお孫さんたちも喜んでくれるのではないでしょうか。「すごい!」「おいしい」と言ってもらったら、作った方もうれしいですよね。

「今年はどこのを買ったの?」「今年はどこどこのよ」「いくらしたの?」なんて会話では悲しいじゃないですか。

だから、自分の家で作ることを諦めてしまう、やめてしまうというのはどうなのかなと思いますね。負担がかからない程度で、作ってみてほしいです。

たとえば、黒豆は作ろうと思うと、3日も4日もかかります。それは現代の一般家庭では大変な手間でしょうから、買えばいい。

でも、3時間くらいでおせちが作れるのだったらできるでしょう。

11品全部作らなくてもいいんです。これは食べたいなとか、おいしそうだなと思うものを作るだけでもいいんですから。ぜひ今年は家で作ってみてください。

今回は特別に、11品の3時間おせちから4品の作り方をご紹介します。

菊乃井・村田さんの経験と知恵から生まれた絶品レシピ、試してみてください。

海老つや煮

撮影/久間昌史

【材料 2人分】

車海老…4尾(1尾、約30グラム)

酒・水…各160ミリリットル

薄口醤油・みりん…各40ミリリットル

砂糖…少々

【作り方】

1 海老は背わたを取り、背を曲げ、「つ」の字の形に串を打つ。

2 酒、水、薄口醤油、みりん、砂糖を合わせて鍋に入れて火にかけ、沸騰したら海老を入れる。1分半〜2分煮たら海老を取り出す。海老と煮汁を別々に冷ます。

3 冷めたら海老を煮汁に戻して、味を含ませる。

4 海老の殻をとり、盛り付ける。

鯛きずし

撮影/久間昌史

【材料 2人分】

鯛(皮付きの刺身用さく)…100グラム

塩…2グラム

締め酢…200ミリリットル

(酢・180ミリリットル、薄口醤油・30ミリリットル、砂糖・25グラム)

【作り方】

1 締め酢の材料をよく混ぜ合わせておく。鯛に塩をふり、1時間おく。

2 鯛の皮に縦に包丁目を入れ、上からふきんをかぶせて熱湯をかける。すぐに氷水にくぐらせて冷ます。

3 鯛の水気をよく拭き、締め酢に10分漬け、1センチ幅に切る。

栗きんとん

撮影/久間昌史

【材料 2人分】

栗甘露煮…6個

さつまいも…120グラム

栗の甘露煮のシロップ…50ミリリットル

水…50ミリリットル

【作り方】

1 さつまいもは皮をむき、1センチの厚さに切って、600Wのレンジに4〜5分かけ、裏ごしする。

2 1を鍋に移し、栗の甘露煮のシロップと水を加えて弱火にかけ、ゴムベラなどで混ぜながら練る。

3 なめらかになったら、栗を加えて混ぜ、つやが出たら火からおろして冷ます。

1つの鍋で作る煮しめ

撮影/久間昌史

【材料 4人分】

里芋(正味)…200グラム

こんにゃく…1/2枚

にんじん(正味)…100グラム

れんこん(正味)…100グラム

どんこしいたけ(乾燥)…20グラム

早煮昆布・長さ20センチ…4枚

粟麩…長さ4センチ

きぬさや…8枚

昆布のもどし汁…100ミリリットル

だし…320ミリリットル

濃口醤油、みりん…各40ミリリットル

砂糖…15グラム

柚子、サラダ油…各適量

【下準備】

1 しいたけは一晩水につけて戻す。粟麩は一度冷凍し、半解凍の状態で1センチ幅に切り、油で揚げる(生のまま揚げると破裂するので注意)。早煮昆布は水でもどして結んでおく。

2 にんじんは皮をむき7〜8ミリの厚さの輪切りにする。れんこんは皮をむき、厚さ1センチの半月に切る。里いもは皮を六方にむき、600Wのレンジに約5分かける。

3 きぬさやは筋を取り除き、塩を入れた湯でゆでる。こんにゃくは厚さ5ミリに切り、真ん中に縦の切り込みをいれ、端をくぐらせて手網にする。これをゆでて、あくと臭みを抜く。

【煮る】

1 鍋に粟麩ときぬさや以外を材料ごとにわけて並べ入れる。

2 昆布のもどし汁、だし、濃口醤油、みりん、砂糖を加え、落としぶたをして強火で煮る。煮汁が1/3になったら粟麩を加え、煮汁がほぼなくなったら、火からおろす。

3 器に盛り、きぬさやと刻んだ柚子を添える。

◆残り7品の作り方は『家庭画報 2021年1月 新春特別号』にてご覧ください。

世界文化社刊 1450円+税
撮影/久間昌史
世界文化社刊 1450円+税

取材・文:榊原すずみ/ハフポスト日本版