政治家の『友好』『対話』ってどこまで意味があるんだろう?
11月24日、来日していた中国・王毅外相が共同記者発表の場で「正体不明の日本漁船が釣魚島(沖縄・尖閣諸島の中国名)周辺に入る事態が発生している」などと発言。すでに喋り終え反論の機会をなくした茂木敏充外務大臣を横目に、一方的に尖閣諸島の領有権を主張した。
その1週間前。民間シンクタンク「言論NPO」が発表した世論調査結果では、中国に「良くない印象を持つ」と答えた日本人は89.7%にのぼった。過去3年間、対中感情は徐々に改善していたが大幅に後戻りした格好だ。
無理もないだろう。尖閣諸島への度重なる挑発に加え、香港問題などでもその強権的なやり方が盛んに報じられた。アメリカやイギリス、日本などが懸念を表明するたびに、中国の報道官は「内政干渉だ」と跳ね除ける。
留学やビジネスなどを通じて、日本人と中国人が理解を深め合うことは重要だろう。だが結果を求められる政治家はどうか。日中には長い対話の歴史があるが、未だに中国は尖閣諸島沖に軍の指揮下にある海警を派遣するし、知日家として知られる王毅外相もあの様子だ。対話がどこまで功を奏しているのか、いまいち分からない。
その折、日本の国会議員2人が中国の滞在エピソードを元にした作文を書き、主催の出版社から賞を受け取ると聞いた。中国とゆかりのある政治家はこの疑問にどう答えるのだろうか?早速、取材を申し込むことにした。
■対話重視も...王毅氏発言に抗議
「お待たせしました、すみません」
永田町の参議院議員会館。事務所の中で待っていると、公明党の矢倉克夫・参議院議員が時間ちょうどに駆け込んできた。
矢倉氏はアメリカの弁護士事務所で働いていた2005年、従来の歴史好きも手伝って中国行きを決意。翌06年から1年あまり上海や北京で暮らした。その後2013年の参院選で初当選した。
所属する公明党は中国と独自のパイプを持つことで知られる。また日中友好議員連盟の一員でもあり、共産党ナンバー3の栗戦書(りつ・せんしょ)氏など中国の指導者たちとの面会経験を持つ政治家だ。
「日本人の中国への感情が悪くなっているのは残念です。かつては親しみを持つ人も多かったが、今は持てなくなった現実がある」と矢倉氏。一方で、自身も王毅外相の発言には違和感を覚えたという。
「日本人と前向きな関係を持とうとしているのか。尖閣は明らかに日本固有の領土。我々政治家も皆そう思っているなかで、解決を求めるよりも、共同記者発表という場で中国への国内アピールとも捉えられる発言をするのはどうかと思います。中国と理解し合いたいが故に、正直、怒りにも似た感覚があります」
「元々は(日本人が中国を)親しく思っていたのにそうでなくなったのは、どういう背景があるかよく考えてもらいたい」と矢倉氏は付け加える。
では、日本はその中国とどのように付き合うべきか。矢倉氏は11月に合意したRCEP(地域的な包括経済連携)を例に挙げ、日本が国際ルールづくりを主導し、そこに中国を巻き込んでいく方法を挙げた。
「RCEPはASEAN(東南アジア諸国連合)と中国・韓国などが加入しましたが、ルールづくりの中心に日本がいたのは大きい。敵か味方かの政治言論とは一線を画して、多国間協調を軸にして、仲間づくりをする。そこに中国もしっかり入れ込んでいく。長期的な戦略を持った外交は、日本こそやらなくてはいけません」
今後、対話による問題解決は成り立つのか。水面下の動きは目に見えないのが常だが、国民の目に映るのは強硬的な中国の姿がほとんど。政治家同士の「友好」「対話」に疑問を持つ国民が出てきてもおかしくはない。
「それは本当にそう思います」と矢倉氏。
「私も個人レベルで(中国側に)伝えていかなければいけないし、実際に伝えている部分もある。ただ個人の関係はあえて言える話ではない。“こんな働きかけをしています”というアピールに使わないからこそ向こうから信頼されている、というのもあります」と表向きに話すのは憚られるという。
その一方で「とはいえ、どう発信していくのかというのは確かに課題。世論が紛糾して、動きがまったくできなくなってしまうと、日本の政治家からも中国と真剣に向き合う人が少なくなっていく」と危機感を抱く。
そこまでして続ける「対話」の役割はどこにあるのか。
「本当に問題が大きくなった時の安全弁です。お互いの国が激しくやりあっても、“彼らがいるから大丈夫だ”とお互いが思える。自分も中国人と歴史認識をめぐって激論になったこともありますが、それくらいやってようやく友達になれた。そういう関係を国同士でも作れればいいですね」
■海江田万里氏「日中開戦はあり得る」
衆議院議員会館6階。面会スペースへ通されると、立憲民主党の海江田万里・衆議院議員はすでにそこに座っていた。 国交回復3年目の1975年に初めて訪中した時から、中国の政治家たちと交流を重ねてきた政治家だ。
江沢民(こう・たくみん)氏と胡錦濤(こ・きんとう)氏の2人の最高指導者とも面識があったといい「一番親密に付き合ったのは胡錦濤。“和諧”や“小康”という言葉を好んだ使った調整型のリーダーだった」と振り返る。
「対話の必要性ってなんでしょう?」海江田氏に聞くと、返ってきたのは「戦争」という言葉だった。
「中国とは下手すると戦争になる可能性があると思うんだよね。日本からではなく、中国から仕掛けてくる可能性がある。前の戦争(第2次世界大戦)では、日本人は中国に負けたという意識はなく、アメリカの物量に負けたんだという意識がある。かたや中国には日本人に散々いじめられたという意識がある。日本と中国の間で戦争状況になる可能性はあるんだよ。これは何としても防がないといけない。そういう危険はますます大きくなっていると思っているからね」
2020年は新型コロナの影響で人の往来は制限されたが、海江田氏は中国側とのやりとりは続けているという。
「(水面下では)対話の窓は開かれていますよ。公式の話と本音は色々ある」と海江田氏。「対話で解決しなくてどうするの?戦争しかないじゃない」と繰り返した。
国会では、強硬姿勢を強める中国に対応しようとする動きが出始めている。香港問題をきっかけに生まれた超党派の議員連盟・JPAC(対中政策に関する国会議員連盟)はいま、人権侵害を理由に制裁を科すことができる法律の制定を目指す。
議連には立憲民主党の議員も所属しているが、海江田氏の名前はない。中国をよく知る政治家として、参加することはないのか。
「僕は参加しない」
理由を聞いてみた。
「だから」
明らかに気色ばむ。
「それはそれでいいんだよ。そう考える人がやればいい。ナンセンスだとか、やるべきではないとかは言わないよ。私たちは私たちであくまでも相互理解のうえから平和的な関係を築けると思っているから。私は今の立ち位置でいい」
海江田氏が度々あげたのは「日中不再戦」という言葉だ。日中が戦争状態に陥る可能性を相当強く意識していることがうかがえる。
「日中関係の良かった時代に、中曽根(康弘)首相と胡耀邦(こ・ようほう/当時の総書記)さんの個人的な関係があった時期がある。外交文書で明らかになっているが、日本で首脳会談をやった時に、21世紀の初頭までは戦争しない、そのために努力しようと言っているんだ」と海江田氏は語る。
外務省の公文書館で2018年に行われた東京大学の川島真教授(国際関係史)の講演によると、胡耀邦氏は当時中曽根首相に「自分としては21世紀初めにかけては、いかに日本が自衛力を拡大させようと、中国と戦うことはないと信じる」と発言したという記録が残っている。その21世紀もそろそろ4分の1に差し掛かる。
「なぜわざわざ21世紀の初頭までと言ったのかずっと考えている。日本からは、戦争を経験した人がほとんどいなくなり、少なくとも政治や社会の第一線からは退いている。中国は経済も軍事力も21世紀までは強くなかったが、どんどん強めてきている。一番危ない時期だと思う」と海江田氏。「中国は非武装中立だなんて絶対言わないけど」としながらも、あくまで対話による解決を強調する。
「お互いが違うから対話が必要。中国のいうことを全面的に受け入れるのではない。尖閣で日中の主張が対立したら、私は日本を支持しますよ。でも海警と海上保安庁が衝突したり、軍隊と自衛隊が戦火を交えていいはずがない。対話を通じて解決するしかないじゃない。今こそ必要なんだよ」