婚姻制度や夫婦の姓に関する制度のあり方は「国会で論ぜられ、判断されるべき」ーー。
夫婦同姓規定を「合憲」とした最高裁判決から、12月16日で5年。ここにきて、選択的夫婦別姓をめぐる動きが大きく後退しようとしている。
一体何が起こっているのか。
自民、反対派の異論で大幅な後退
12月15日に自民党で開かれた会合で、政府が示した第5次男女共同参画基本計画の最終案からは、第4次にあった「選択的夫婦別姓(氏)」の文言も削除された。
朝日新聞などによると、「国会において速やかに議論が進められることを強く期待しつつ、国会での議論の動向などを踏まえ、政府においても必要な対応を進める」と政府原案は、「さらなる検討を進める」とトーンダウンした。
12月11日にニコニコ生放送で選択的夫婦別姓について尋ねられた菅義偉首相は「時間をかけてやるべきこと」との認識を示し、「党内で大変な議論があったようなので、そういうことをしっかり見ながら判断しないと。あまり感情的にならないように…」と語っていた。
5年の変化…選択的夫婦別姓に「賛成」は7割
だが、「国会で議論を」と促されたのは5年も前だ。
最高裁大法廷で、選択的夫婦別姓を求める裁判の判決が下されたのは、2015年12月16日。
夫婦同姓で女性が受ける不利益は「旧姓の通称使用が社会的に広まれば一定程度緩和されうる」として合憲だとした一方、婚姻制度や夫婦の姓のあり方は「社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき」だとして、議論のボールを国会に投げた。
当時の裁判官15人中、「合憲」としたのは10人。女性裁判官は3人全員が「違憲」としたことも話題となった。
この年の12月25日に閣議決定されたのが、現在議論されている基本計画の前段となる第4次男女共同参画基本計画だった。
こちらには、選択的夫婦別姓について「検討を進める」という文言が盛り込まれた。
家族形態の変化、ライフスタイルの多様化、国民意識の動向、女子差別撤廃委員会の最終見解なども考慮し、選択的夫婦別氏制度の導入など民法改正などに関し、司法の判断も踏まえ、検討を進める。
(第4次男女共同参画基本計画より、一部抜粋)
2015年からの5年間で、各地の議会では選択的夫婦別姓制度の法制化に向けて国に議論を求める意見書が可決され、若い世代からも制度の早期導入を求める声も多数上がっている。
早稲田大学と市民団体が合同で行った調査では、全国で7割以上が選択的夫婦別姓について「賛成」と回答。
最高裁判決が指摘した「社会の受け止め方」は着実に変化し、多様な家族のあり方を受け入れる空気感が醸成されてきている。
選択的夫婦別姓、自民政権下では導入ない?
最終案の了承後、慎重派の高市早苗議員は、ネット番組に出演。
基本計画について「5年間内閣を拘束するもの」だと指摘し、「与党で反対意見が出ると、閣議決定も法案提出もできないので、一定の合意ができているものを基本計画に書き込む。今回は戸籍まで夫婦、家族の氏が違ってしまうことには賛否両論あったので、柔軟な書き方になった」と語った。
基本計画は5年ごとに見直される。
番組では、「今後5年間、自民党政権の中では選択的夫婦別姓の導入はほぼないと思っていいのか?」という質問も出たが、高市氏は「それは分からない。最高裁で違憲判決が出たら、これは有無を言わさず内閣も変えないといけない」と5年前に最高裁から国会に渡されたボールを再び司法に投げ返した。
ボールは再び司法に…
選択的夫婦別姓をめぐる裁判は、2015年以降も、サイボウズ社長の青野慶久氏をはじめ、複数の訴訟が提起されているが、いずれも地裁、高裁で請求が棄却されている。
朝日新聞によると、最高裁に特別抗告している事実婚の3組のカップルの訴訟については、長官と判事の15人全員がそろう大法廷で審理されることになるという。審理日程は決まっていない。
最高裁によると、2020年12月時点で最高裁の女性判事は15人中2人。
11月に菅首相に答申した第5次男女共同参画基本計画を作るための「基本的な考え方」の中には、「最高裁判事も含む裁判官全体に占める女性の割合を高めるよう裁判所等の関係方面に要請する」 という項目も盛り込まれている。