アフターピルの処方箋なし販売、産科婦人科学会トップが慎重姿勢 海外では90カ国で販売

アフターピルのアクセスの改善を求め、市民団体などが国に要望書を提出するなど、多くの人たちが声を上げてきた。政府も検討する方針を打ち出している。
会見する日本産科婦人科学会の木村正理事長
会見する日本産科婦人科学会の木村正理事長
Nodoka Konishi / HuffPostJapan

避妊に失敗したり、性暴力を受けたりした際、72時間以内に服用することで妊娠の可能性を著しく下げるアフターピル(緊急避妊薬)。

政府は処方箋なしで購入できるよう検討する方針を打ち出しているが、日本産科婦人科学会の木村正理事長は12月12日の定例記者会見で「いろんな条件が成熟していない」とし、導入に極めて慎重な姿勢を示した。ハフポスト日本版の質問に答えた。

「いろんな条件が成熟していない」 

アフターピルは72時間以内にできるだけ早く飲む必要がある一方、日本では基本的に産婦人科などの受診や処方箋が必須で入手のハードルが高い。アクセスの改善を求め、市民団体などが国に10万筆を超える署名と要望書を提出するなど、多くの人たちが声を上げてきた。コロナ禍では、10代からの妊娠相談が増加したことも報じられている。

ハフポスト日本版は記者会見で、処方箋なしの薬局販売について、理事長の見解を尋ねた。

木村理事長は「薬局で買えるような成熟した社会になればいいなと思っています。しかしその状況になっているかというと、かなりいろんな条件が成熟していないのではないかと懸念するところ」と答えた。

現在インターネット上でアフターピルを入手する非合法な方法も広がっていることに懸念は示しつつも、「犯罪のような使い方をするために一度に何十錠も買えるということについてはどうするのかというようなことが、議論の俎上に上がっていないのでは」との認識を示した。

薬剤師の知識が現時点で十分でないこと、悪用乱用に「弱い立場の方が巻き込まれはしないか」など指摘し、「解決法を見せていただけたら一番いいのかなと思います」とした。

また、「緊急避妊薬は100%効く(妊娠しない)わけではない」「時々そういう感じで読めるような情報が入ってまいります。これはかえって、多くの女性を不幸にする情報の提供の仕方ではないかと懸念しています」などと述べた。「そのあたりがもう少し上手く伝わってほしいなと思いますし、そういう社会になってほしい。そういう社会になった時点では、私たち学会がやめてくれと言う立場ではないと思います」とした。

反対ということかと確認すると、「反対というか、もう少し条件をいろいろ提示させてください。条件を提示していただかないとなかなかよく分かりませんねと。ばんばん売ったら、それがOKとなるわけです。国として、例えば50錠買ってもオッケーというサインになってしまう。今のままだと」など、細かい部分の条件が出ない限り判断できないと繰り返した。

こうした懸念点を上げ続ける姿勢に、他の記者からも「安全性を担保する要件をつけて、処方箋なしの薬局販売でアクセスを良くするということ学会として取り組まないのか?」などの質問が上がった。

これに対しても、木村理事長は「学会として絶対反対とか絶対やってくださいという立場ではない。懸念は懸念。心配です。すごい心配」「お使いになりたいと言う気持ちはわかりますし、だけど今のままで、はいどうぞと売ってしまっていいのかしらというのは思います」と消極的な姿勢を崩さなかった。

アフターピルへの関心は高まる

緊急避妊薬をめぐってはこれまでも、手に入れるためのハードルを下げるべきかという議論は厚生労働省の検討会で行われてきた。

しかし朝日新聞によると、2017年に薬局での販売について議論した際には「時期尚早」などとして見送られた。2019年のオンライン診療での処方についての議論でも、医師らから「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかもしれない」などの理由で慎重に行うべきだという声が出るなど、女性だけの問題であるかのように矮小化され、病院へ行くというハードルの高さなどが十分理解されないまま、議論が展開されてきた面がある。

日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長も10月、薬局販売について、ハフポスト日本版の取材に「性教育を進めるのが先」「悪用したい人にとっても敷居が下がる」と反対の立場を示していた。

一方で10月に政府が薬局での販売を検討していると報道された際、Twitterでは「緊急避妊薬」がトレンド入り。与野党の国会議員からも喜びと期待の声が上がるなど、関心は高まっている

アクセス改善目指す産婦人科医「悪用・乱用の視点だけでなく、女性の健康と権利を守るという視点を」 

遠見才希子さん
遠見才希子さん
遠見さん提供

緊急避妊薬のアクセス改善を目指す「緊急避妊薬の薬局での入手を実現するプロジェクト」で共同代表を務める産婦人科医の遠見才希子さんは、ハフポスト日本版にコメントを寄せ、アフターピルの役割は重要であることや安全性を訴えた。

緊急避妊薬は、避妊の失敗や性暴力被害など万が一のときのバックアップとして非常に重要です。あくまで緊急時に使用するものであり、日頃の避妊法として使うことはできませんが、安全性が高く、重篤な副作用はなく、たとえ繰り返し使用しても健康被害は報告されていません。海外では約90カ国以上で緊急避妊薬を薬局で安く買うことができます。

意図しない妊娠は女性の人生や健康に大きな影響を及ぼし、なかには児童虐待につながるケースもあります。意図しない妊娠を防ぐことの重要性を多くの産婦人科医は現場で実感しているはずです。日頃の避妊法や性教育を充実させることはもちろん大切ですが、万が一は誰にでも起こる可能性があります。

その上で、女性と健康と権利を守るという視点の重要性を訴える。

緊急避妊薬を手に入れやすくすることにもし反対する産婦人科医がいるなら、一体、誰のために何のために産婦人科医をしているのだろうと疑問に思います。私たち産婦人科医には、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)を尊重し、女性が自分の体のことを自己決定できるよう適切な情報とサービスを提供する役割があります。

悪用・乱用の視点だけでなく、女性を信用し、健康と権利を守るという視点を大切にし、緊急避妊薬を安心して入手できる選択肢を増やすことと安全に使用される環境整備を両輪で推進する必要があります。 

約90か国で処方箋なしで購入可能

海外に目を向けると、多くの国で緊急避妊薬は処方箋なしで購入することができる。

緊急避妊薬のアクセス拡充に取り組むICECのウェブサイトや活動団体によると、緊急避妊薬はオーストラリアや中国、イタリア、アメリカなど約90か国で医師による処方箋なしに薬局で購入可能だ。国際産婦人科連合(FIGO)とICECの共同声明でも、緊急避妊薬は「処方箋なしでの薬局カウンターでの販売に適している」と記載している。

WHOもアフターピルについてのファクトシートで「研究では、若い女性も成人女性も、ラベルや説明書を容易に理解できると実証されている」とする。(市民団体による日本語訳はこちら

さらに2018年の勧告では、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性と少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画に常に含まれなければならない」としている。

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