「学校で男の子に突然、キスされた」
小学生の娘のひと言をきっかけに、「からだの自己決定権」や「同意とは何か」を易しく、ポップなイラストで説明したアメリカ発の本が、日本でも翻訳・発刊された。
著者は、『性的同意』を紅茶に置き換えたアニメーション「Tea Consent」の制作者の一人だ。 この動画は世界各国で訳され、話題になった。
自分のからだをどうするかは、自分が決める
相手の同意がもらえないことは、やってはいけない
同意なしに誰かがいやなことをしても、悪いのはあなたじゃない
いじめや性暴力、ハラスメントの被害者にも加害者にもさせないために、子どもたちに知ってほしいことが詰まっている。
娘は「嫌」と言えなかった
本のタイトルは「子どもを守る言葉『同意』って何?」(集英社)。アメリカのアニメーター、レイチェル・ブライアンさんが制作した本の翻訳版だ。
きっかけは、ブライアンさんが7歳の娘から、「今日学校で突然、男の子からキスされた」と伝えられたことだった。
さらに話を聞くと、先生が背を向けている間にキスされたこと、「嫌だった」と相手に伝えていないこと、先生にも相談していなかったことが分かった。娘は「本当に恥ずかしくて、腹が立った。とにかく今日一日がすぐに終わってほしかった」と打ち明けたという。
この一件を機に、ブライアンさんは子どもたちを守るために、『同意』を伝えるアニメーション「Consent for Kids」と本書の制作を決めた。アニメーションは25以上の言語で翻訳され、世界で1億5000万回以上再生されている。
境界線は人それぞれ
どんな内容が書かれているのか?
本書は八つの章で構成。「自分のからだは自分のもの」「あなたの意思に反することなら拒否したり、周りに助けを求めたりして良い」ことなどを説明する。
たとえば、「同意する/同意をもらうって、どういうこと?」と題する章では、人によって「大丈夫」と思うことと「いやだ」と思うことの境界線(バウンダリー)が違うと解説。相手が何に同意しているかをきちんと尋ねることが必要だと説いている。
こちょこちょしていい?
同意を得なかった場合の身近なトラブルの例も、漫画で描かれている。
2人の登場人物のうち、1人がくすぐり遊びを提案すると、もう1人は「やだ!」と拒否。それでも「楽しいからやろうよ!」と言って、相手を無理やりくすぐり始める。
拒んだ方は、「やだよ!」「やめてっ!」と繰り返すが、くすぐったくて笑いが止まらない。
くすぐる側が「楽しいでしょ?」と尋ねると、くすぐられた方は「あっち行け!」と怒りを爆発させる、という物語だ。
くすぐりをめぐっては、親子の間でも子どもの「バウンダリー」が軽視されやすい問題がある。
タレントのSHELLYさんが、性教育を特集したNHKの番組に出演した際、親のくすぐりをめぐって「子どもに『やめて』は絶対に2回言わせない」と発言。「娘たちに、あなたのNOには力があるんだよっていうことを教えるため」と理由を語っていた。
ネット上では、「拒否しても続ける親に恐怖も感じた」などとバウンダリーを侵害された経験のある人たちから、共感する声が相次いだ。
あなたは悪くない
子どもの意思に反したことをされても、相手が家族や顔見知りなどの近い存在だと、拒んだりSOSを出したりすることは特に難しくなる。
本の中では、注意するシチュエーションとして
・秘密にしたがる
・二人きりになりたがる
・変な感じに体を触ってきたり、何かを強引にさせる
・脅して言うことを聞かせる
といった例を挙げている。
本書で何度も強調されるのは、バウンダリーを踏みにじられても「あなたは悪くない。悪いのは嫌なことをしてくる方」ということだ。
「過去の自分、肯定された」
児童書ではあるものの、『同意』について学校や家庭で学ぶ機会がないまま成長した大人にも気づきの多い内容になっている。
集英社の担当者、中安礼子さんによると、「自分も(同意のないことを)やってきたかもしれない」と省みる人や、「(被害を受けた)過去の自分が、肯定されて安心できた」といった大人たちからの声が届いているという。
「日本では『同意』や『バウンダリー』という概念はまだ根付いていません。自分のバウンダリーを決めるのは自分だということ、同意する・しないを確かめて、それを尊重し合うということ。こうしたメッセージは、あらゆる暴力の被害と加害を抑止することにもつながるのではないでしょうか」(中安さん)
巻末には、性暴力やいじめなどの被害に遭った際の子ども向けの相談窓口も収録されている。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)