絶対に作る、多くの人が安心して食べられるスイーツを。その思いが8年保存の「ヴィーガンクッキー」を生んだ。

売り上げの3%は、小児がんの子どもやその家族を応援するNPO法人のプロジェクトに寄付する。クラウドファンディングで支援を呼びかけている。
8年間保存できるドッツウィルのヴィーガンクッキー
8年間保存できるドッツウィルのヴィーガンクッキー
A-port

欧米では、幸福のシンボルとされるてんとう虫。クリエイティブ・ディレクターの川村明子さんは、このてんとう虫をアイコンにして6月、「Dotswill(ドッツウィル)」を立ち上げた。

「<Dots>は人、<will>は意思を表しています。人種、経済、健康など、さまざまな背景を持つ人たちが豊かな未来を感じられるよう、アイデアとデザインの力でいろいろな製品を世の中に送り出したい」と川村さん。てんとう虫には、様々な背景や国境を越える架け橋になれば、という思いが込められている。

最初の取り組みとして、8年間保存可能な3種類のヴィーガンクッキーを開発した。売り上げの3%は、小児がんの子どもやその家族を応援するNPO法人のプロジェクトに寄付することにしており、クラウドファンディングA-portで支援を呼びかけている

多くの人が安心して食べられる「ユニバーサル・スイーツ」

売れっ子クリエイティブ・ディレクター、東京・南青山にあるおしゃれなヴィーガン・カフェ「エイタブリッシュ」オーナーなど、さまざまな顔を持つ川村さん。

川村明子さん
川村明子さん
A-port

「ドッツウィルは、『健康の促進』『地球環境への配慮』『子どもたちへの支援』の3つがミッション。食×デザインという自分のキャリアを生かして実現するには、ヴィーガンのお菓子がぴったりでした」

ヴィーガンクッキーは有機素材の原材料を使い、肉や魚だけでなく卵、乳製品、白砂糖も使わない。3種類のうち2つは小麦粉を使わないグルテンフリーだ。健康志向の人はもちろん、アレルギーや宗教上の理由で食べ物に制限がある人でも安心して食べられる。

「開発期間は1年。条件が厳しいだけに開発は大変でしたが、私はハードルが高いほど燃えるタイプ(笑)。最小限の材料でつくるからこそ、クリエイティビティも発揮できます。より多くの人が安心して食べられる“ユニバーサル・スイーツ”を絶対つくるんだ、って」

自然災害時にも、力を発揮できるはず

売り上げの一部を寄付するNPO法人ジャパンハートの「スマイルすまいるプロジェクト」には、川村さんが以前から無償でデザインワークを提供していた。

ジャパンハート最高顧問の吉岡秀人、理事長の吉岡春菜夫妻は、ともに小児科医。ドッツウィルの立ち上げメンバーでもある。

川村さん(左から2人目)とジャパンハート最高顧問の吉岡秀人さん(同3人目)ら
川村さん(左から2人目)とジャパンハート最高顧問の吉岡秀人さん(同3人目)ら
A-port

川村さんがヴィーガンクッキーのアイデアを思いついたのは、吉岡秀人医師のドキュメンタリーを観たのがひとつのきっかけだった。

「国内外で医療支援活動をする吉岡先生が、海外で1日40人もの手術をこなしている姿を見て、衝撃を受けました。寝てないし、食べていない。多くの人たちの命を救う吉岡先生のような方にこそ、すぐに食べられる栄養価の高い食べ物が必要です。だったら、私がそれをつくろう、と」

体にも安心な素材のお菓子なら、誰もがちょっとした時間で口に入れられる。何より、つらい状況にある人にとって、「やさしい甘み」は心と体を癒やす力がある。

さらに「どんな状況の人にも」という条件をクリアするために、「長期保存」「パッケージの耐熱温度」にもこだわった。それは、毎年のように日本で繰り返される自然災害にも、力を発揮できるはずだ。

川村さんは防災のためにデザインがもっと活用できる方法はないか、と以前から感じていた。

「救援物資がカラフルで楽しいデザインの箱で届いたら、被災者の方の気持ちも明るくなれるかもしれない。例えば、ドッツウィルの赤いドットが箱にデザインされていたら、それが届くだけで少しだけワクワクしてもらえるんじゃないかと思うんです。デザインには実用性と人を勇気づける力があります」

食、防災、デザイン。そんなキーワードが川村さんの中で結びついた。

未来をつくる子どもたちの力にもなりたい

ジャパンハートの「スマイルすまいるプロジェクト」は、小児がんの子どもたちが家族と一緒に夢を叶えるのを手伝っている。

「就学前後のかわいい子どもの闘病は、本人にとっても、ご家族にとっても想像以上に過酷でつらいものです」(川村さん)

そんな闘病する子どもたちの力になりたいという川村さんの想いに、強くうなずくのが美容室「TWIGGY.」のオーナー美容師・松浦美穂さんだ。

松浦美穂さん
松浦美穂さん
A-port

松浦さんは、2003年、自然派化粧品「アヴェダ」の日本上陸時にアーティスティック・ディレクターに就任。当時、アヴェダのサロンに併設した「ピュア・カフェ」を手がけたのが、川村さんだった。ナチュラルで健康的、地球環境にもやさしい暮らし。サステナブルなライフスタイルを、それぞれの観点から追求するふたりの付き合いは20年近くに及ぶ。

「スマイルすまいるプロジェクトの話を聞いて、私が日本でヘアドネーションを始めたときのことを思い出しました。小児がんのお子さんに医療用かつらを準備していたんですが、その頃は完成に2年近くかかったんです。残念ながら、そのお子さんにできあがったかつらを届けることができませんでした」(松浦さん)

未来をつくる子どもたちを救う医療を応援したい−−。それは、川村さん、松浦さんにとっても大切な未来への目標だ。

「おいしいお菓子を食べて、自分が健康になる。パッケージやロゴの楽しさは、心も元気にしてくれる。その幸せが、病気の子どもたちにおすそ分けできたら、すばらしいですよね」(松浦さん)

「大切なのは弱者に寄り添う心を、社会全体で共有して実現する力」

川村さん(左)と松浦さん
川村さん(左)と松浦さん
A-port

ドッツウィルの取り組みは、国連が取り組むSDGsの理念にも通じる。第1弾のクッキーでは、「すべての人に健康と福祉を」「人や国の不平等をなくそう」など、SDGs17の目標のうち10の目標をクリアしている。

「大切なのは弱者に寄り添う心を、社会全体で共有して実現する力。ドッツウィルでその実現に挑戦していきたい」。そう語る川村さんの夢は大きい。

ドッツウィルをNPO法人ではなく、あえて株式会社としたのも、その挑戦のひとつだ。

「寄付で運営を回すのではなく、ビジネスとしてちゃんと成立させたい。経済的に成功すれば、社会に影響力を持てるし、多くの人が魅力的に感じてくれます。子どもたちが、『やりたいことを実現することで、自分も豊かになって人も助けられる』と夢を持てるようになるはず」

「目指すのはユニセフのように誰もが知る存在だと本気で思っています」

ヴィーガンスイーツはドッツウィルのスタートにすぎない。

「将来的にはラボをつくって病院食を提供したり、ドッツウィルの病院もつくりたい。笑われるかもしれませんけど、目指すのはユニセフのように誰もが知る存在だと本気で思っています(笑)」と川村さん

ドッツウィルという赤いてんとう虫。何ものにも縛られず、自由に距離も背景も飛び越えながら、人びとに小さな笑顔を届けていく。

クラウドファンディングでは12月31日まで支援を受け付けている。ヴィーガンクッキーやオーガニックコットンバッグがもらえるコースのほか、支援額全額が寄付に回るコースも。詳細はこちら

(工藤千秋)

注目記事