私たちは何かと、二者択一で考えがちだ。
コロナ禍でも、命を守るのか、それとも経済を回すのか、どちらか一方を迫るかのような論調もある。
世界を揺るがす環境問題も同じことが起きている。地球環境を守るのか、経済成長をとるのかという議論だ。
気候変動の危機を訴えた、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの国連のスピーチも、「環境vs経済」という構図で伝えられてしまっている側面もある。
しかし、この二項対立の“罠”を抜け出せなければ、かつて「環境先進国」だったはずの日本は、いつまでもグローバル社会から取り残されたままかもしれない。
私たちはどうあるべきか。
12月1日のハフライブでは、世界で議論されている「海洋プラスチックごみ」の問題を例に取りながら、飲料メーカー・サントリーホールディングスのサステナビリティ担当者とともに、企業や投資側、環境NPOの3者それぞれの立場から話し合った。
「グレタスピーチ」を二項対立で受け止めていいのか
気候変動問題に対応してこなかった大人たちへの怒りをあらわにし、“How dare you(よくもそんなことを...)”と繰り返したグレタ・トゥーンベリさんの国連スピーチ。 この動画を一緒に見るところから番組はスタートした。
海洋プラスチック問題の解決などに取り組むNPO「UMINARI」代表理事の伊達Luke敬信さん。トゥーンベリさんと同じくZ世代の彼は、「一人の人間として素直に響いてきた」と語る。
同時に、「(気候危機の問題を)上の世代と下の世代の対立構造と捉えたり、実際にそのような実態になってしまったとしたら、メッセージがシンプルすぎる側面もあるのかもしれない」とZ世代の一人としての懸念も示す。
「世代間の対立を強調するだけでは、経済や社会、企業は変わっていかないし、政治も変わっていかない」といい、こう訴える。
「『若者の若者による若者のための環境活動』で終わらせないために、企業や上の世代などそれぞれのステークホルダーの立場にも立って、丁寧に考えることが重要です」
トゥーンベリさんのスピーチに対する日本と欧米の反応の違いを指摘したのは、ESG投資の専門家で「ニューラル」代表の夫馬賢治さん。ESG投資とは、環境や人権、社会に配慮した企業に投資する方針をいい、世界の投資家やグローバル企業に浸透してきている。
日本国内では「言い方が感情的すぎるのでは?」などの批判的な意見も見られたトゥーンベリさんのスピーチだが、「欧米の機関投資家やグローバル企業にとっては、気候危機の深刻さを訴えた彼女に『よくぞ言ってくれた』という気持ち。拍手喝采だった」と夫馬さんは言う。
一方で、環境のために「脱成長」路線をとるかどうかについては、議論の余地がありそうだ。
夫馬さんは次のように指摘する。
「(投資家たちは)『経済成長が悪者だ』という主張には同意できない。まだ途上国、新興国はあるので、世界的には経済成長を続けないといけない部分もある。企業も投資家も、(環境問題による)負のインパクト起こさない状態でいかに経済成長させるかに関心を持っています」
環境と経済は“両立”する?「ニュー資本主義」のはじまり
「環境vs経済」という二項対立の構図を捉え直すにはどうしたらいいのか。
ここで登場するのが「ニュー資本主義」。
長い間、環境や社会への影響を考慮すると利益は減るというのが資本主義の“常識”だったが、長期視点ではむしろ利益を増やすと考える新しい資本主義のあり方だ。特に欧米を中心に10年ほど前から、企業側の認識が変わってきているという。
「従来のオールド資本主義では、(環境や社会への配慮は)やりすぎると経済成長の足かせになるのでほどほどに、という考えでした。それが今は、対策しないと自分たちが生き残れなくなった」
「例えばサントリーの例でいうと、水、お茶、お酒が作れなくなるといった具合に、環境がダメになってしまうと、製品そのものが作れなくなるという危機感を持っています。事業を存続させ伸ばしていくには、環境問題に積極的に向き合い、強い事業を作る。投資家もそれを応援しています」
肝心の企業は....?
夫馬さんが指摘した資本主義の変化。
本当にそんなことが起きているのか。肝心の企業側はどう現状認識し、どのように対応しているのか。
飲料メーカーのサントリーにとって、容器として欠かせないペットボトル。ペットボトルの原料となるプラスチックは、ごみとなって海の環境を汚染していることが世界中で指摘されている。
そうした中、輿石優子サステナビリティ推進部長は、「“ペットボトルゼロ”を求める声を受け止めつつ、利便性や価値を保ちながら、環境負荷をかけないという両立を目指している」と語る。
ペットボトルは軽くて持ち運びやすく、衛生的。「お茶汲み」の仕事をなくし、会社や家庭での負担を減らしてくれるなどの良さもある。消費者からのニーズに答えながら、プラごみ問題にどう取り組むのか。
サントリーは2030年までに、同社が国内外で製造・使用する全てペットボトルの素材について、リサイクル素材や植物由来のものに移行。環境負荷がより高い従来の化石燃料由来の原料の使用をゼロにすると表明している。
ここでキーワードになるのが「ボトルtoボトル」という言葉だ。
海洋プラスチックごみの問題に詳しい伊達さんは、ペットボトルの「リサイクル」をめぐる変化に触れる。
日本はもともと、ペットボトルの回収率は高かったが、トレーや服の素材としてリサイクルされるのが主流だったという。しかし今では、使用済みペットボトルを新しいペットボトルへとリサイクルし、半永久的に循環させる技術や仕組みが加速したと説明する。
輿石さんは「ボトルとは違うものにリサイクルすると、最後は短いサイクルで焼却されてしまう。ボトルtoボトルで、循環の輪を閉じることができれば、ペットボトルを使いながら十分にサステナブルな世界に貢献できるのではないかと思います」と付け加えた。
さらに夫馬さんが、中長期で考える大事さを付け加える。
「今この瞬間で考えると、リサイクル素材よりも石油由来素材を使った方が、ペットボトルの製造コストは安い。けれど、2030、40年を見据えると違ってきます」
「技術発展の実績もたくさん出ています。リサイクル素材の方が安くなるという見通しがかなり立っている。伸び代や下げ幅がかなりあるので、やらない手はありません」
環境先進国だった日本。遅れたのはなぜ?
日本はかつて、環境先進国だった。
「公害」が社会問題になったが、規制と技術革新で克服した。
国際社会が地球温暖化に取り組むために、世界で初めて、温室効果ガス排出量の削減目標を定めた1997年の「京都議定書」をリードしたことでも知られる。
2000年代前半までは、国内で新しい技術や研究開発、企業投資も盛んだったという。なぜそこから「環境後進国」と言われるようになったのか。
夫馬さんは「リーマンショックのあたりから、徐々に日本企業が短期視点になっていった」と指摘。環境に対する感覚や取り組みが遅れていったのだという。
欧米企業もリーマンショックで大きな打撃を受けた。ここ10年で明暗を分けたのは「バリューチェーンの観点だ」と、夫馬さんは言う。
「日本も海外の企業も、(自分たちの製品や使用する素材の)原材料の産地はどこで、どう作られて、私たちの元までに届いたのか見えていませんでした。そこに着目するのが欧米企業の方が早かった」
「バリューチェーンを見たときに山ほど課題が見つかっていく。(労働環境などの)人権の問題や、ものすごい量のCO2排出や森林破壊もしている」
裏側を見て「負の部分」を認識することが、欧米企業が環境に配慮したサステナブルな事業づくりをリードする要因になったのではないかと、夫馬さんは考えている。
輿石さんと伊達さんは最後に、「共創」というキーワードをあげた。一企業で完結させず、業界や社会の未来・リスクとして、環境のことに取り組む。
日本が環境先進国に立ち返るために、企業やその他のステークホルダーが、どこまで本質的で中長期的な視点をもてるのか。期待がかかっている。
【取材・文:濱田理央 / 編集:南 麻理江】